第16話【閑話】勇者アレックス視点

《パワハラ勇者アレックスが落ちぶれていく視点》


 アレックスは大陸に五人いる勇者の一人。

 女神から勇者の才能を与えられていた。


 近いうちに復活するとされていた魔王を、倒すべく“真の勇者”。

 その最有力候補……とアレックス自信は自負していた。


 だが、そんなアレックス勇者パーティーは今、苦境に陥っていた。

 理由はアレックス本人にも分からない。


 とにかく何やっても、失敗してしまうのだ。

 特に支援魔術師ハリト解雇した以降は、何故か運が下降気味。


 女弓士のマリナを解雇した後も、数々のミッションを失敗していた。


 ◇


 そんな勇者アレックスに転機が訪れる。


 今いる場所は王都の城。

 アレックス一行は、急に国王から呼び出しされたのだ。


 やって来たのは勇者アレックスと女魔術師エルザ、加護持ち女神官レイチェルの三人だ。

 控えの間で、三人は興奮していた。


「って、いうか、今回の呼び出しは、いったい何だろうな? もしかしたらオレたち褒美を貰えるのか?」


「きっと、そうですわ、アレックス様! 何しろ私たちは栄光の勇者パーティーですから!」


「私は新しい魔法の杖がいいかな? 大きな宝石がついたのとか!」


 今まで王様に呼ばれる時は、必ず褒美があった。

 だから三人とも興奮している。


 最近は良いことが、一つもなかった。

 久しぶりに訪れた褒美に時間に、三人は胸を弾ませていた。


 ◇


 だが謁見の間に進んで、彼を待っていたのは、予想外のこと。


「勇者アレックス! お前は、なぜ、ここ最近の任務を、ことごとく失敗しているのだ⁉」


 国王の怒声が、謁見の前に響き渡る

 アレックスたちを待っていたのは、国王からの糾弾きゅうだんだったのだ。


 勇者としての公務、魔物討伐の大失敗の数々。

 大きな依頼での大失態。


 勇者のとしての職務を、全うできないアレックスに、国王は激怒していたのだ。


「えー……それは……」


 まさかの激怒に、アレックスは弁明できない。

 得意の言い訳が、出す訳にいかない。


 勇者は王国の庇護を受けて、活動している。

 国王には言い訳を出来ないのだ。


「どうした⁉ どうして答えないのだ⁉ キサマは⁉」


「そ、それは……その調子が悪かったんです。最近のオレたちの……」


 アレックスは上手く答えることが出来なかった。

 何故なら失敗の理由が、自分でも分からないのだ。


 とにかく支援魔術師のハリトを解雇してから、運も調子も悪かった。

 タイミング的にはそうだが、ハリトが理由だとはアレックスは夢にも思っていない。


「なんだ、その返答は⁉ もしかして、ワシに対して反逆するつもりか、キサマ⁉」


 国王は初老だが、凄まじい覇気の持ち主。

 若かりし時は【勇者】の一人でもあり、屈強な武人なのだ。


「い、いえ、滅相もございません」


 そんな覇王に睨まれて、アレックスは声が小さくなる。

 圧倒的な圧力によって、足を震わせていた。


「ふん。キサマのことを買いかぶり過ぎていたようだな。では判決を言い渡す。キサマの【勇者】の称号は、一時的に没収する! 次の任務を出してやるから、そこで結果を出してこい! 次も失敗したなら、本当にはく奪してやる!」


「えっ……そ、そんな……」


 まさかの判決だった。


 アレックスが有していた【勇者】の称号の一時没収。

 

 更に王都から追放。


 新たな任務で成果を出せないと、本当にはく奪。


 それが国王から課せられた、非情な言葉だったのだ。


 ◇


 大勢の監視の兵に見張られて、アレックス一行は王都の城門から出されてしまう。


 騎士団長から、次の命令書が渡される。


「王からの任務を、アレックスに言いつける。『王宮占い師によると東の街ムサス近郊の“聖山”に、怪しい魔の影あり。至急、調査して解決してこい』とのことだ! さぁ、さっさと行け!」


「うっ……」


 騎士団長から命令書を渡されて、アレックスたち三人は王都を後にする。

 まるで追放者のように惨めな姿だ。


「くそっ……こうなったら、どんな手段を使ってでも、この任務を大成功させて、必ず勇者とて凱旋してやるからな!」


 こうして勇者アレックス一行は東へ。


 ハリトたちが拠点にしているムサスの街へ、危険な勇者は向かうのであった。

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