第15話武具屋

 勇者パーティーを解雇されたオレは、新しい街で謙虚に生きていくことを決意。

 兄妹パーティー《東方の黄昏たそがれ団》に加入して、冒険者として活動開始。


 幼馴染マリナも加入して、皆で武具屋に装備を買いに来た。


 ◇


 ザムスさんの案内で常宿から、武具屋に移動する。


「ここが店だ」


「おー、ここか。けっこうな大きさですね!」


 ここがムサスの街で一番大きな武具屋。

 古めの建物だけど、けっこう大きい。


「早く中に行くぞ、ハリト」


「あっ、はい!」


 ザムスさんに続いて、店内に入っていく。


「おお、これはすごい……」


 中に入って、思わず声をもらす。

 店内は凄い光景だった。


 金属鎧、チェーンメイル、革鎧、盾、兜。

 色んな防具類が、所狭しと陳列されていた。


 あと奥には剣や弓、斧、槍などの武器もある。

 新品と中古もあり、総合的な武具屋だ。


「おお、これは……おお、こっちも、すごいな!」


 基本的に支援魔術師は、武具を使わない

 そのため王都でも、こうした店にはあまり入ったことがない。


 珍しい光景に、思わず胸が高まる。

 思わず通路に立ちつくし、陳列に目を奪われてしまう。


「えー、ごほん! 邪魔なんだけど、そこ通っていいか⁉」


「あっ、ごめんさい!」


 あっ、やばい。

 男性の店員さんが通るのを、オレは邪魔していたようだ。

 急いで横にずれる。


「ふう……見たところ、あんた魔術師? うちの店の品は魔術師の品は、あんまり置いてないよ? あと価値とは分かるのかい?」


 店員さんは、かなり厳しい視線を向けてきた。

 もしかしたら冷やかしと思っているのかもしれない。


 たしかに支援魔術師なオレには、ちょっと場違いな店なのかもしれない。


「い、いえ、ちゃんと買い物はするつもりです」


「ふん、そうか。」


 そう言い残して、店員さんは去っていく。

 何か神経質で厳しそうな人だな。


 そんな時、マリナとサラが近づいて来る。


「大丈夫、ハリト? なんか、嫌な感じの店員ね!」


「ハリト君、あの人は、この店の息子さんです。魔法使い嫌いで、ちょっと有名なんですよ。だから気にしない方がいいですよ、ハリト君」


 二人ともオレのことを慰めてくれる。

 嬉しいけど、なんか男として悲しい。


 そんな時、ザムスさんもやってくる。


「そんな所で油を売ってないで、さっさと買い物するぞ。一時間後には出るぞ」


「「「はーい」」」


 そこから各自で別れて、買い物タイムとなる。


 マリナは新しい弓を探して、新品と中古品の物色。


 ザムスさんは新しい長剣を。

 サラは魔道ローブの下につける軽防具だ。


 そんな中でオレは店内をブラブラしていた。


「うーん、特に買う者は無いかならなー」


 一応は小型の杖は持っているが、基本的に魔法を発動する時は使わない。

 ……カッコイイから杖を一応使っているのだ。


 あと防具も不要。

 自分に対しては常に、複数の防御系の支援魔法を発動している。

 そのやめ防具も不要なのだ。


「ふう……仕方がないから、皆の所にいこうかな。ん? サラ、どうしたの?」


 店内でサラを発見。

 防具コーナーで、何やら首を傾げている。


「あっ、ハリト君。どの軽防具にするか、悩んでいたのです。どれも似たような価格で、性能も分かり辛くて」


「ああ、なるほど。たしかに分かり辛いかもね。ちなみに、サラはこんな感じ形の軽防具でいいの?」


「はい、この系統の形で、あれば何でもいいです」


「了解。それならちょっと待っていてね……えーと、【鑑定かんてい】! うーん、と。あった、この中古の品がオススメだよ! 値段も安いし、そっちの新品よりも隠れ性能が高くて、しかも付与能力で、魔法威力増加が付いているよ!」


 中古コーナーの奥から、掘り出し品を発見。

 かなり安い値段だ。


 サラに手渡してオススメしてみる。


「えっ…………」


 ん?

 でもサラの様子がおかしい。

 硬直して言葉を失っている。


 あっ、もしかしたら気に入らないデザインだったのかな?

 あと中古は嫌だったかな?


 申し訳ないことをした。


「いえいえ、違います! 今、ハリト君、どうやってこの品の能力を、見つけ出したのですか⁉」


「えっ? そんなの簡単だよ。【鑑定】の魔法を使ったんだ。あっ、もしかしてサラ、自分で【鑑定】したかった? ごめんね、気が利かなくて」


「いえいえいえいえ、何を言っているのですか、ハリト君! 【鑑定】は普通の人は使えない特殊スキルなんですよ! それこそ【異世界勇者】や【天人】、【魔神】など人外の者だけしか使えない特殊スキルなんですよ⁉」


「えっ、そうなの? 我が家では普通に使っていたんだけどな? 野菜の中身が腐ってないか調べたりとか?」


「うっ……まさかと思っていましたが、これほどとは……兄さん、助けて……」


 そんな時、ザムスさんが通りかかる。

 まだ長剣は買っていない感じだ。


 よし、微力ながらお手伝いをしよう。


「そういえばザムスさん、長剣でしたら、これがオススメですよ!」


「ん、このサビだらけの中古品がか? ほとんど値だぞ?」


「はい。呪いが掛かっているだけで、後で解呪すると、とてもお得ですよ!」


「そうか。それならダメ元で買っておこう」


「に、兄さん……駄目です……それを買ってしまったら……」


 そんな時、マリナも偶然通りかかる。


「ねぇ、ハリト。前みたいに弓を、選らんで欲しいんだけど?」


「うん、いいよ。えーと、これだね。ちょっと壊れているけど、解呪したら凄い性能になるから」


「なるほどね。相変わらずハリトとの買い物は、掘り出し物が多いよね」


「うっ……マリナ……貴女という女も、無自覚に……ぐふっ……」


 ん?

 何やらサラが吐血をして、倒れたような気がする。


 でもザムスさんが助け起こしているから、大丈夫そうだな。


 ふう、やっぱり買い物は楽しいな。

 後は会計して、解呪して実戦で使うだけだ。


 会計も無事に終わる。

 でも、さっきの男性店員さんが、小声で何か言っていた。


「ぷっぷ……あんなジャンク品を、全員で買っていって。処分代が省けて、ウチは儲けたぜ!」


 何やら喜んでいる。

 それならひと安心。


 オレたちも掘り出し物を買えたし、両者ウィンウィンだね。


 ◇


 その翌日。


 解呪と整備をした新しい武具で、《東方の黄昏たそがれ団》は魔物狩りに出かけた。


「おい、ハリト⁉ この新しい長剣の、異様な切れ味……魔剣みたいな性能は、何だこれは?」


「さすがはハリトが選んで、調整してくれた弓! 王都の時よりも高性能ね!」


「は、ハリト君……どうして私の攻撃魔法が、以前の倍の威力に向上しているんですか?」


 皆も新しい武器に、満足していたようだ。

 やっぱり買い物は楽しい。


 あっ、でもオレだけ何も買っていなかった。


 また、あの店に掘り出し物を探しに行こうかな。

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