第14話歓迎会

 勇者パーティーを解雇されたオレは、新しい街で謙虚に生きていくことを決意。

 兄妹パーティー《東方の黄昏たそがれ団》に加入して、冒険者として活動開始。


 幼馴染マリナが加入してから、初の大物“多首竜ヒュドラ”狩りを完了。


 ◇


 村に戻ってからは、いつもと同じ流れ。


 まず冒険者ギルドに戻って、リーダのザムスさんが依頼の報告。


 買い取り台の上に、オレが多首竜ヒュドラの素材を【収納】で出す。

 それに対して、ギルド内が大騒ぎになる。


 今回は幼馴染も近くにいたので、オレはかなり恥ずかしい。


 その後は常宿に戻って、装備や荷物の整理。

 近くの酒場に、夕食を食べに向かう。


 ◇


 今宵はマリナの歓迎会も兼ねた、夕食会だ。

 パーティーリーダーのザムスさんの合図で開幕。


「それでは弓士マリナの《東方の黄昏たそがれ団》加入を祝って……乾杯だ」


「「「カンパーイ!」」」


 酒場の中に、明るい声が響き渡る。

 次々と運ばれてくる料理を、オレたちは食べていく。


「うん、やっぱり、この店の料理、美味しいわね、ハリト!」


「そうでしょ、マリナ。王都料理よりも、オレたちの舌に合っている気がしない?」


「そうね。たしかに王都料理は、ちょっと気取り過ぎだったかも。それに比べて、ムサス料理は温かい感じかな? あと街の雰囲気も好きかも」


 ありがたりことにマリナも、ムサスの街のことを気に入っていた。

 辺境出身のオレたちは、王都の雰囲気は合わないのかもしれない。


「そういえばサラ。ハリト君とどういう関係だったですか? 幼馴染と聞きましたが、でもハリト君は山奥に住んでいたのですよね?」


「そうね、サラ。ハリトは私の故郷の村から、ずっーと離れた山奥に、お師匠さんと住んでいたの。師匠さんは恥ずかしがり屋みたいで、村への買い出し係りはハリトが幼い頃から担当。狩人の娘だった私と、その時に仲良くなった感じかな?」


「なるほど、そういう関係だったのですね。ん? 『ハリト君が幼い時から買い出し』にですか? ち、ちなみに何歳くらいから……」


「たしか最初ハリトが三歳くらいからじゃない? 一ヶ月分の穀物とか調味料を、大量に買いに来たはず」


「えっ……若干三歳で買い出しに? ずっと離れた山奥から? だ、大丈夫だったんですか、ハリト君は?」


「えっ、オレ? うん、道中は魔獣とかいたけど、何とかなったかな、たしか? 支援魔法は使い方しだいで、魔物も落とし穴に落とせたし」


「うっ……やはり。しかも三歳で既に支援魔法を会得して、魔獣の討伐を……兄さん……」


「気にするな、サラ。ハリトのことは諦めろ。あと何があっても、その“師匠”のことは聞くな。オレたちの精神が崩壊するかもしれん」


「そ、そうですね……私も修行が足りませんでした、ふう……」


 何やらサラはまた、ため息をついている。

 でも元気そうでよかった。


「そういえばマリナ。ムサスの街で、何か足りない物とかない?」


 マリナは奴隷狩りに捕まり、荷物のほとんど失っていた。

 一応はムサスの街で買い揃えたけど、生活してうちに不足も出てくるだろう。


「そうね……欲を言えば、もう少し高品質な弓矢が欲しいかな?」


「弓矢か……そうかもだね」


 彼女が前に使っていた、名弓は手元にない。

 王都を出る時に、勇者アレックスに没収されていた。


 今彼女が使っているのは、ムサスの商店で買った格安品。

 天賦(てんぶ)を持つマリナには、そぐわない品だ。


 そんな時、ザムスさんが提案してくれる。


「ふむ。それなら明日は武具屋に行くか? オレも新しい剣が欲しかったところだ」


「それなら兄さん、明日は皆で行きますか? 私も欲しい物があるので」


「そうだな。そうしよう。ハリト、お前も、いいか?」


 武具屋か。

 そういえば最近は行ってないな。

 何しろ支援魔術師には、特に装備は不要。


 でもオレは個人的には買い物は好き。

 宝探しみたいに、掘り出し物を買うのが好きなのだ。


「ハリトと買い物かー、楽しみね。そういえばハリトと買い物に行くと、必ず掘り出し物が見つかるのよね。王都の店でも英雄級の品を、ハリトは一発で見つけていたよね?」


「あっ、そうだったかな? 偶然だと思うよ、マリナ」


「うっ⁉ 兄さん、何や嫌な予感がします。ハリト君と武具屋に行くこと、何か事件が起きそうな気がします」


「諦めろ、サラ。明日は何かが起こる。それを前提に動け」


「う……私は普通に買い物をしたのですが……」


 そんな話をしながら歓迎会が盛り上がっていく。


 ◇


 翌日になる。


「よし、今日は頑張って、掘り出し物を探すぞ!」


 こうして町で一番大きな武具屋に、《東方の黄昏たそがれ団》は行くのであった。

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