第12話幼馴染を助けに

 勇者パーティーを解雇されたオレは、新しい街で謙虚に生きていくことを決意。


 兄妹パーティー《東方の黄昏たそがれ団》に加入して、冒険者として活動開始。

 西の街への商隊の護衛の任務にも、無事に完了。


 だが、たどり着いた西の街で、奴隷となった幼馴染マリナを目にする。


 ◇


 街の広場で見つけたのは、幼馴染の少女マリナ。

 どうしてこんな街にいるんだ?

 そして様子がおかしい。


「奴隷になって……売られている……?」


 なんとマリナは広場で。奴隷として売られていた真っ最中。

 しかも彼女の右手は欠損している。


「ど、どうしよう……⁉」


 何が起きているのは分からない。

 混乱してしまう。


 そんな時、サラとザムスさんがやってきた。


「どうした、ハリト? 真っ青な顔をして?」


「あ……ザムスさん。あそこにいつ赤毛の女の子……オレの幼馴染なんです」


「なんだと? そこは奴隷売り場だぞ? 本当か?」


「あっ、はい。彼女は王都で、冒険者をしているはずなんですが……」


「そうか。あの様子だと道中で、奴隷狩りにでもあったのかもしれない。若くて綺麗な生娘は、高く売買されているから、道中は狙われやすいからな」


「そ、そんな……どうすれば……」


「見た感じだと、狙っている客は多いな? 時間がないな」


「ちょ、ちょっと、兄さん! どうして、そんな冷静なのよ! ハリト君の幼馴染が、変態に買われちゃうかもしれないのよ!」


「オレは事実を客観的に、説明してやっただけだ。さて、ハリト、お前はどうしたい? あの子を守りたいんだろう?」


「はい、幼馴染……マリナを助けだしたいです!」


「そうか。それなら急いで助けてこい。だが今は時間がない。金で解決するしかないぞ」


「はい、でも。あの金額は、オレの所持金じゃ……」


 マリナに対するオークションは、既に始まっていた。

 数人の男性客が、高額で競り合っている。


 聞こえてきた値段は、オレの所持金の倍以上。

 とてもじゃないが自分では、落札できない。


「それなら、これを使え」


「えっ……?」


 ザムスさんが渡してきたのは、お金が入った袋。

 中身を見ると、かなりの高額だ。


「でも、これはザムスさんの……」


「それは先日の一眼巨人サイクロプス翼竜ワイバーンの素材代の一部だ。だから気兼ねなく使え。嫌だったら、後日にでも稼いで返してくれ。サラも、それで構わないか?」


「ええ、もちろん! そのお金は、ハリト君がいなかったら稼げなかったもの。あっ、急いだ方がいいですよ、ハリト君!」


「ザムスさん……サラ。ありがたく使わせていだきます! それじゃ、行ってきます!」


 オレはお金を握りしめて、走り出す。


 向かうは幼馴染……マリナの元だ。


「ちょ、ちょっと、待った! その倍額をオレが出します! その子はオレのものだ!」


「え…………ハリト?」


 そして無事にマリナを助け出すことに、成功するのであった。


 ◇


 マリナを助け出してから、少し時間が経つ。

 この街で泊まっている宿に、オレたちは戻ってきた。


 今はマリナの世話を、サラが女子部屋でしてくれている。

 身体を洗ってあげたり、着替えと食事をしていた。


 オレはザムスさんと男子部屋で、待機していた。


「兄さん、入ります」


 世話を終えて、サラが入ってきた。


「えーと、マリナさんの方は何とかなりました。乱暴された形跡もなく、基本的には健康で、本人も落ち着いています」


「そうか。プロの奴隷狩りに捕まったのが、不幸の幸いだったかもしれんな」


 ザムスさんの話では、奴隷狩りは商売として器量の良い女を狙う。

 だから捕まえた後は、乱暴をせずに売り出すという。


 トントン


 そんな時、誰かが部屋に入ってくる。


「マリナ……」


「ハリト……」


 入って来たのは幼馴染のマリナ。

 綺麗な服に着替えて、落ち着いた顔をしている。


「えーと、それじゃマリナさん。そこに座って、ゆっくり話でもしませんか?」


「あ、ありがとう、サラ。それじゃ、お言葉に甘えて」


 世話の間で二人は、仲良くなっていたのであろう。

 コミュニケーションが取れている。


「えーと、この怖い顔が、私の兄のザムスです」


「ザムスだ。《東方の黄昏たそがれ団》のリーダーをしている」


「マリナです。この度はありがとうございました」


「いや、気にするな。ハリトは大事な仲間だから、助けたまでだ」


 ザムスさんは固い表情ながら、心を込めて話をしている。

 ちゃんとマリナにも伝わっている感じだ。


「それで、こっちがハリト君……って、それは知っていますよね」


「はい。ハリト……久しぶりだね」


「ああ、そうだね」


 マリナと視線を合わせる。

 でも何となく気まずい。


 何しろ、さっきの広場でオレは叫んでしまった。

 ……『その子はオレのものだ!』と。


 思い出しただけも、恥ずかしいセリフ。

 マリナも同じことを、思い出している雰囲気だ。


「もう、ハリト君。マリナさん。それでは話が進みません。ちゃんと心を晒して、話してください!」


「あっ、そうだね。サラ、ありがとう。えーと、マリナ、どうして、この地方にいたの? アレックスたちは別行動中? あと、その右手は……」


 サラに促されて、気になることを全て口にする。


「実はハリトが抜けた後、あのパーティーは全員が不調になって。それでこの右手を戦闘で、やっちゃったの。この件もあって、アレックスから追放されちゃったの……」


「そうか……そんな大変なことがあったのか」


 話を聞きながら、勇者アレックスに対していきどおる。

 あの男のことは考えないようにしていたが、男としては最低の奴だ。


「ん? その右手はレイチェルに、治してもらえなかったの?」


「実は強力な呪いがある魔物だったみたいで、彼女の回復魔法でも無理だったのよ」


「そんな⁉ あのレイチェルの回復魔法でも?」


 これには驚きだった。


 何しろレイチェルは性格が悪いが、加護持ちの女神官。

 オレが在籍していた時は、どんな呪いや欠損も、一瞬で回復していた。


 それなのに今回は、どうして?


「えーと、ハリト君。私も一応は回復魔法を使えるので、先ほど調べてみました。マリナさんの言っていたように、その右手にはかなり深刻な呪いがあります。かなり高位の最高司祭様でも解呪は難しいです」


「そうなんだ……」


 サラの説明を聞いて、改めてマリナの右手を見つめる。

 うん、確かに呪いがあるっぽい。


 ん?

 でも、そんなに強い呪いかな?


 うちの師匠が、オレに対して遊びでかけてきた呪いの方が、何倍も凄そうだが?


 解呪できそうじゃないかな、これ。

 よし、とりあえずサラに協力を仰いでみよう。


「えーと、サラ、お願いがあるんだけど?」


「ハリト君、その目は……もしや私に『試しにサラの解呪と《傷回復》を、マリナにかけてちょうだい』と言うつもりですか?」


「あっはっはっは……すごい、サラ、なんで分かったの⁉」


「悔しいですが、私も学習しているのです。ふう……分かりました。マリナさん、右手を出してください」


「えっ? でも、サラの本業は攻撃魔法だって、さっき言っていたよね?」


「たしかに私の得意なのは攻撃魔法です。でも貴方の幼馴染さんには、そんな得意不得意の常識は通じないのです」


「えっ? どういうこと? ハリトが?」


「見ていたら、分かります。それではいきますよ、ハリト君」


「はい、それじゃ……魔法全強化》!」

「……解呪!《傷回復》!」


 キュイーン! ボァーン。


 サラの魔法が発動。

 マリナの全身が、眩しい光に包まれる。


 ニョキニョキ♪


 直後、マリナの右腕が、欠損部分から生えてくる。


 しばらくすると完全な右手が完成。

 ちゃんと指も五本ある


 よかった。

 なんとか成功したぞ。


 ちゃんと動くかな、マリナ?


 ん?

 その時だった。

 マリナの様子がおかしい


 目を点して、口をあんぐり開けていた。

 何か凄い物を見てしまった……そんな表情だ。


 どうしたんだろうか?


「ハ、ハリト……ど、どうして私の右手が……元通りに?」


「えっ? サラが解呪と回復魔法で、治してくれたんだよ!」


「えっ……でも、今のは《弱》だったよね……レイチェルの《解呪》でも治らなかったのに。も、もしかして、サラはすごい回復魔導士だったの⁉」


「ふう……いえ、違います。私は回復魔法をそれほど得意ではない、“普通”の魔法使いです。特殊なのは貴方の幼馴染さんの方です」


「えっ……ハリトが……?」


「やはり、その様子だと知らなかったのですね、マリナは。まぁ、世の中には知らない方が幸せなこともありますが。はぁ……」


 なぜかサラは深いため息をつく。

 かなり気疲れした感じだ。


「よかったね、サラ! 右手も元通りになって。」


 だが今はマリナの復活が、何よりも嬉しい。

 思わず彼女の両手を掴んでしまう。


「ちょ、ちょっと、ハリト……サラとザムスさんが見ているから……」


「あっ、ごめん、ごめん。これで、また弓士として頑張れるね!」


「そうね。でも私、早く稼がない、お父さんの治療費が。も、弓士だから一人だと稼げる額が……」


「そっか。後衛タイプだと、仕事の種類も限界があるからね」


 オレと同じでマリナは後衛の弓士。

 腕利きの前衛がいるパーティーに、彼女は入る必要がある。


 ん?

 腕利き前衛?


 腕利き剣士?


「あの……ザムスさん、相談があるんですが?」


「ああ、構わないぞ」


「えっ⁉ まだオレ、何も言っていませんが?」


「その子をウチの《東方の黄昏たそがれ団》に入れてあげたい、だろ?」


「はい、そうです! もしかしたら、ザムスさんも《思考解読》の力があるんですか⁉」


「お前の顔を見ていたら、そのくらいは分かる。だからマリナを入れてもいいぞ。弓士としての腕も、悪くはなさそうだしな」


「えっ? はい、ありがとうございます! あっ、そうだ。マリナも大丈夫?」


「もちろん。こちらこそ、よろしくお願いします! ザムスさん、サラ!」


 こうして《東方の黄昏たそがれ団》に、新しいメンバーが加入。


 天賦(てんぶ)の才を有する、赤毛の弓士マリナ……オレの幼馴染だ。


 全てが円満に収まって、本当によかった。


 改めてありがとう、サラ、ザムスさん。


 寛大な二人に心より感謝する。


 ◇


「ふっふっふ……マリナさんが加入したころで、私の精神的な負担が減るはずです、兄さん」


「どうかな? お前はハリトのことを、甘く見過ぎだ。さらに自重しなくなるぞ、アイツは」


「え……そんな……です」

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