第11話盗賊団、迎撃戦

 護衛中の商隊が、大規模な盗賊団に強襲を受けてしまう。


 絶望的な状況な顔のカネンさんに、オレは提案する。


「えーと、カネンさん。一つよろしいでしょうか? あの盗賊団を、オレたち《東方の黄昏たそがれ団》で対応してもいいですか?」


 雇い主カネンさんに提案する。

 あと護衛隊の二人にも、念のために確認する。


「な、何を言っているんだ、キサマは⁉ こんな時に冗談か⁉」


「キサマはたしかランクEの冒険者だろうが⁉ こっちは大変なんだ! 勝手にやっていろ!」


 おっ、護衛隊の二人から了承が得られたぞ。

 カネンさんも無言でうなずいている。


 よし、これで自由に動いてもOKだな。

 近くにいるサラの所に、戻っていこう。


「という訳で、サラ、お願いしてもいいかな?」


「お願いって……私は何をすればいいのですか、ハリト君?」


「たしかサラは《麻痺》の魔法を使えたよね?」


「はい……でも《弱》なので有効射程距離は短く、成功率も低く、対象も一人だけですよ?」


「うん、それでも大丈夫。とりあえず、あの近づいてくる盗賊団に向かって、発動してちょうだい。あとはオレの方で支援するから!」


「嫌な予感しかしませんが、分かりました。それでは、いきますよ……」


 サラが魔力を集中する。

麻痺》を発動する瞬間を、オレは狙う。


「いくよ、サラ……【魔法全強化】!」

「いきます……【麻痺】!」


 よし、タイミングばっちり!

 サラの《麻痺》に、オレの支援魔法を被せられたぞ。


 ヒュイーン……ビリビリビリビリビリビリビリビリ!


 おっ、あっちでも、上手く命中したみたいだ。


 こちらに突撃してきた盗賊団が、全身を痙攣けいれんしながら倒れていく。


 よし、終わったぞ。


 相手の魔法使いを含めて、盗賊団は全員が麻痺。

 地面で動けなくなってプルプルしている。


 さて、これ脅威きょういは収まった。

 カネンさんたちも、ひと安心しているだろう?


 ん?

 カネンさんと護衛の二人、あと商隊の皆の様子がおかしいぞ。


「「「なっ…………」」」


 全員が目を点して、言葉を失っている。

 身体も固まっていた。


 あっ、もしかしてオレの支援魔法で、商隊の人まで麻痺を拡大させちゃったかな?


 そんな中、カネンさんが口を開く。

 よかった、麻痺させていなかったんだ。


「ハ、ハリト君と言ったかな……あれは、何が起きたのじゃ?」


「えーと、あれはですね。ウチの魔法使いのサラが、盗賊団を全員麻痺させました! だから脅威はもう無いです、カネンさん!」


「えっ、麻痺の魔法で、あんなに大量の相手を? 普通なのか、お前たち?」


「い、いえ、カネン様……普通の《麻痺》の魔法は、《強》でも対象者は一人が限界。しかも成功率が低く、遠距離では発動できません……」


 おお、さすが護衛の人は、魔法にも詳しい。

 オレの説明の手間を、省いてくれた。


「と、ということは? どういうことだ、お前たち?」


「つ、つまり《東方の黄昏たそがれ団》の女魔法使い、あのサラという少女が規格外なのでしょう……」


「おお、そういうことか……よく分からないが、今が好機じゃ。よし、とにかく盗賊団を拘束するぞ! 西の街で懸賞金も、たんまり貰えるぞ!」


「「「お、おおお!」」」


 何やら話が上手くまとまってくれた。

 商隊と護衛の人たちは、麻痺して動けない盗賊団を拘束しにいく。


 話を聞いた感じだと、懸賞金も貰えるらしい。

 まったく商隊の人たちは、商売根性がすごいね。


 ねぇ、サラもそう思わない?


 ん?

 サラ、どうして、そんな怖い顔をしているの?


「ハ、ハ、ハリト君……私に何をしたんですか? 私の魔法に……?」


「えっ、そうか。説明してなかったね! オレの《魔法全強化》でサラの魔法を強化したんだ。具体的には魔法の威力と有効射程、あと対象数と麻痺時間の延長を、“ちょっとだけ”強化した感じかな。あっ、もしか《魔法全強化》を知らなかったかな、サラ?」


「い、いえ、これでも一応は魔法使いの端くれですから、《魔法全強化》は知っています。でも普通の《魔法全強化》はあんなに超強化は出来ません!」


「あっ、そうなんだ? 無知でごめんね……」


「それにハリト君! ちゃっかり、“私のせい”にしていたでしょ⁉ どうするんですか、カネンさんたちに誤解されたままですよ、私は⁉」


「あっ、そういえば? まぁ、小さいことは気にしないで。カネンさんたちも、すぐ忘れてと思うから。ほら、『人の噂も七十五日』って言うじゃない? はっはっは……」


「うっ……兄さん……ハリト君が、ついに私にまで被害を……」


「ふう……諦めろ、サラ。《東方の黄昏たそがれ団》は、もう後戻りできない所まで来たんだ」


「そ、そんな……普通の冒険者人生を、私は送りたかったのに……」


 どうやらサラも落ちついてくれた。

 これでひと段落。


 ◇


 その後、カネン商隊は西の街に、無事に到着。


 凶悪な盗賊団は麻痺したまま、街の憲兵に引き渡していた。

 カネンさんから《東方の黄昏たそがれ団》は感謝を受けて、懸賞金を沢山もらった。


 サラは喜んでいたけど、悲しそうで複雑な表情をしていた。


「うっ……兄さん、私なんか【東方の魔女】って、皆さんに呼ばれるようになったんですけど……」


「諦めろ、サラ。この街を満喫して、心を紛らせておけ」


 そんな感じで、カネン商隊は数日間、西の街に滞在することになった。

 ここで商品を仕入れてから、ムサスの街に戻るという。


 それまでオレたち三人も自由行動。

 西の街を満喫することになった。


 ◇


 そんな自由な日の二日目。


 オレは“一人の少女”と再会する


 その子は赤毛の少女。


「えっ……あれは……マリナ……?」


 見つけたのは幼馴染の少女マリナ。


 どうして王都から離れた、こんな街にいるんだ?


 そして様子がおかしい。


「えっ……奴隷になって……売られている……?」


 なんとマリナは広場で奴隷として、売られていた真っ最中だった。


 しかも彼女の右手は欠損している。


「ど、どうしよう……⁉」


 何が起きたか理解できない。


 こんな時はどうすればいんだ……。

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