第10話危険な護衛任務

 勇者パーティーを解雇されたオレは、新しい街で心機一転、謙虚に生きていくことを決意。


 兄妹パーティー《東方の黄昏たそがれ団》の仲間に、オレは本格的に加入して活動開始。


 順調に活動していた時、西の街への馬車の護衛の任務に就く。

 そんな道中で、仲間である護衛隊がオレたちに絡んできた。


 ◇


 厳しい目つきの護衛隊の二人が、休憩中にやってきた。


「ふん。Bランク冒険者だか、黄昏なんとかか、知らないが、今回の護衛はオレたちの指示に従ってもらうぞ、お前らは!」


 雇い主の商人カネンさんから、聞いていた話とは彼は違っていた。

 契約ではオレたちは独立遊撃隊として、動いていいはずなのだ。


 こちらのリーダーであるザムスさんも、黙っていない。


「それは、どういうことだ?」


「理由なんて、どうでもいい! オレたち護衛隊は、お前らみたいな冒険者が気に食わないだよ!」


 かなり上からの物言い。

 理論よりも感情が先走っている。


 これにはザムスさんも怒って反論しそうだ。


「そうか。分かった。それでは今後の道中で、お前たちに従う」


 だがザムスさんは静かに了承する。

 相手の理不尽な指示に、従うと答える。


「はん! 噂の冒険者とやらも、この程度だったのか⁉」


「そうだな。がっはっはは……!」


 下品な笑い声と共に、護衛隊の二人は立ち去っていく。


「兄さん、どうして、あんな奴らに従うんですか⁉」


 怒っていたのは妹サラ。

 ほおを膨らませてプンプンしている。


「オレたちの任務は、この商隊を無事に、西の街に送り届けることだ。大事な任務の前に、身内で揉めたくない」


「でも、兄さん……」


「それに戦闘になったら、こっちの独壇場だ。アイツに従う義理もない」


「兄さん! そうよね! 戦闘になったら、私たちの力を、あいつらに見せつめてやりましょう!」


 サラの怒りも収まる。

 なるほどザムスさんは従順に、従ったフリをしていただけなのか。


 さすがは腕利きのBランク冒険者。

 トラブルの対応も見ていてためになる。


 そんな時、ザムスさんはオレに視線を向けてきた。

 なんだろう?


「それに、ああやって追い返さないと、ウチの規格外が、また事件を起こしそうだからな」


「そ、そうね、兄さん……今回の護衛任務は、ハリト君が何も事件を起こさないことを、祈るしかないです」


 えっ?

 なんかすごい扱いをされている。

 事件を起こすとか、どういうことだろう?


 そんな感じで、休憩時間も終わり。

 カネン商隊は再発進する。


 その後はひたすら街道を、西に進んでいく。

 移動と休憩、夜営を繰り返し。


 野営中もオレたち《東方の黄昏たそがれ団》は、交代で見張りに立つ。

 何しろ盗賊団は、いつ襲ってくるか分からない。


 そんな感じで何日か、ひたすら街道を進んでいく。


 ――――そして、ある日、事件が起きるのであった。


 ◇


「ん? これは……?」


 商隊の最後尾にいたオレは、何かに気が付く。


「これは前方から……何か、来るのかな?」


 弱い反応だったので、気が付くのが遅くなってしまった。

 急いでリーダーに報告しないと。


「ザムスさん。前から何か来ます!」


「ん? 前だと? 何も見えないぞ?」


「私も、何も見えないです、ハリト君?」


「まだ距離があるので……ちょっと待ってください。えーと、【視覚強化】!」


 ザムスさんとサラを対象に、支援魔法を発動。

 二人の視覚を“少しだけ”強化する魔法だ。


「二人とも意識を集中して、あっちの方角を見てください」


「えっ? 意識を集中? ん? えええええ⁉ なにこれ⁉」


 いきなりサラが大声を上げる。


 どうしたんだろうか?

 もしかしたら【視覚強化】が、失敗していたんだろうか?


「いやいやいや! 失敗とかじゃなくて、見えすぎですよ、これは! なんで、あんな遠にいる盗賊団が、こんなにハッキリ見えるのよ⁉」


「えっ……視覚を強化する支援魔法、だから……かな?」


「いやいやいやいや! 普通は視覚強化でも、もう少し控えめな強化なんですよ、ハリト君!」


「えっ、そうなの?」


「そうです! あと、この別に見える映像は何ですか? 上から見た感じなんですけど⁉」


「あっ、それは【視覚強化】に付けておいた、補助機能。【鳥観バード・ビュー《弱》】という魔法です。上から相手を、覗き込むことが出来るんだ」


「えっ……【鳥観バード・ビュー《弱》】? 上から覗き込む? は、始めて聞く魔法なんですが、私は……?」


「それはオレの開発したオリジナル魔法だから、かな?でも便利だよね。迷子の犬とか探す時とかに?」


「オ、オリジナル魔法まで開発していたんですね……ハリト君は……しかも、こんな超機能を、迷子探しに使うとか。仮に戦に使ったら、大陸の勢力図が、一気に変わってしまいますよ、これは……」


「えっ? そうなの? でも今のところ使えるのは、オレだけだから、安心して!」


「わ、分かりました……兄さん……ハリト君が、また……」


「ああ、そうだな。諦めろ、サラ。とりあえず今は雇い主に、報告が先決だ」


「そうですね……ふう……」


 ザムスさんのお蔭で、サラも落ち着いてくれた。

 さすが頼りになるパーティーリーダーだ。


「よし、カネンの所にいくぞ」


 盗賊団の動きを観察しつつ、カネンさんの乗る中央の荷馬車に向かう。

 遠くから盗賊団が接近してくることを、雇い主に報告するためだ。


 だが控えていた例の護衛隊の二人が、オレたちの邪魔をしてきた。


「なんだと⁉ そんな相手は、どこにも見えないぞ⁉」


「まさかお前たちも賊の仲間か⁉ 商隊を混乱させるつもりか⁉」


 オレたちの話をさえぎり、逆にカネンさんを混乱させてきた。


 うーん、これは困ったな。

 どうすればいいのだろうか?


 あっ、そうか。

 この二人にも【視覚強化】を、かけてあげればいいのかな?


 でも勝手にやったら、またザムスさんとサラに叱られてしまうかも。


 ――――そんな時だった。


「隊長! 大変です! 前方から盗賊団が、接近してきます!」


 前方の見張りの護衛が、息を切らしてやってきた。

 肉眼でも確認できる距離まで、相手に接近されてしまったのだ。


「な、なんだと⁉」


「相手はかなりの大規模です! このままではマズイです!」


 どうやら頭の固い二人のせいで、時間を食ってしまった。

 こちらが不利な距離まで、盗賊団が来てしまったのだ。


「あの数は……くっ……今まで最大規模ではないか……」


「ここままでは……こっちは全滅だ……」


 相手の戦力を目視して、護衛隊の二人は言葉を失っていた。

 もはや剣で戦って、どうなる数の相手ではないのだ。


「た、隊長! ヤバイです! 攻撃魔法で、先頭車両が攻撃を受けています!」


「なんだと⁉」


 護衛隊の二人は更に、苦悶の声をもらす。

 戦力差で負けているだけではなく、相手には驚異の魔法使いもいる。


 どうやっても、勝てる相手ではないのだ。


「く……こうなったら全財産を身代金にするしかないのか……」


 雇い主であるカネンさんも、青い顔になる。


 商隊全体が、負のオーラに包まれていた。


「「「ああ……」」」


 誰もが言葉を失っていた。


 これはマズイな。

 ん?


 でも、もしかしたらオレにとっては、今が好機かな?

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