第9話護衛任務
勇者パーティーを解雇されたオレは心機一転、謙虚に生きていくことを決意。
兄妹パーティー《東方の
◇
「実は当商会の定期便が、凶悪な盗賊団に狙われておりまして、護衛を頼みたいのです!」
高そうな服を着て、ちょっと太ったおじさんカネンさん。
商館の経営だという。
仕事の窓口はザムスさんの担当。
「なるほど、護衛の仕事か。とりあえず詳しく話を聞こう」
「はい、それならそこにある私の店の応接室で」
カネンさんの案内で、近くの商館に行く。
三階の応接室に案内される。
「どうぞ、そちらのソファにおかけください」
ザムスさんと一緒に、オレとサラの腰をかける。
おっ、すごくフカフカな椅子だ。
これは高級品。
下の店の豪華な雰囲気的にも、このカネンさんはかなりの大商人なのだろう。
「それでは本題に入ります。当商会は西との交易で、発展してまいりました。ですが、最近、西への街道沿いに盗賊団は出没。うちの荷物を狙って、困っていたところです。」
「なるほど。それでオレたちに依頼か」
《東方の
オレとサラは横で聞いている。
「だが普通の盗賊団なら、オレたちをわざわざ指名する必要はない。何か理由があるのか?」
「おお、さすが噂のザムスさん! ご名答です! 実は盗賊団には魔法使いがいるらしくて、私たちの護衛団も手を焼いていたのです!」
「なるほど、魔法使いか。それは厄介だな」
魔法には色んな種類がある。
攻撃魔法だけではなく、幻覚魔法や地形変化など、種類は多岐にわたる。
奇襲を受ける身にとなったら、魔法使いはかなり厄介だ。
「ちなみに我が紹介の護衛団も、同行させます。ザムスさんたちには主に、その魔法使いを対応していただければ」
ジロリ。
ん?
カネンさんの後ろの護衛の二人が、ザムスさんを睨んできたぞ。
あまり良くない雰囲気。
どうしたんだろうか?
「ちなみに積み荷は、何だ?」
「はい、ムサスの街の特産品です。帰りには生活必需品を仕入れて帰ってきます。何しろ野盗団のお蔭で、最近のムサスでは生活用品が不足しておりまして……」
「たしかに、そうだな。やはり野盗団のせいか」
辺境の街だけでは、自給自足できない物資もある。
だから隣の町との交易は、市民にとっても重要な生活ラインなのだ。
「よし、分かった。それなら依頼を受けよう。冒険者ギルドにも依頼書を出して、筋を通しておいてくれ」
「ありがとうございます、ザムスさん! 手続きの方は、こちらでやっておきます! それでは明日の朝一に出発するので、よろしくお願いいたします」
「ああ、分かった。失礼する」
交渉が終わったので、オレたちは退出することにした。
ジロリ。
ん?
また護衛の人たちに
「二人とも、一回、宿に戻って、明日の準備をするぞ」
「はい、兄さん」
「えっ、はい。分かりました」
でも気にしないことにした。
何しろ護衛の仕事は、明日の早朝から。
今から準備をしないと、間に合わないのだ。
(護衛の仕事か……初めてだけど、頑張っていこう……)
オレは決意をして、準備を進めていく。
◇
翌朝になる。
《東方の
商隊の出発の準備も整う。
「それでは出発します。よろしくお願いいたします、皆さん!」
商隊を指揮するカネンさん合図で、荷馬車が出発する。
オレたちも並走しながら、街道を進んでいく。
「それにしてもザムスさん、この商隊は随分と立派ですね?」
「あの商人はムサスの街でも、有力な商人の一人。主に扱うのは生活必需品と食料品。怪しい商人ではない。だから受けた」
「なるほど。ちなみに怪しい人だったら依頼は、どうしていたんですか?」
「もちろん断っていた。いくら報酬が良くても、オレの流儀に反するからな」
ザムスさんは真面目な性格。
少しでも怪しい依頼人からは、絶対に依頼を受けない人だった。
他の冒険者からは『損な性格をしている』『今までいくら、ドブに捨てた』言われている。
「相変わらず兄さんは、兄さんですね」
「たしかにザムスさん、らしいですね」
だがオレとサラは、そんなザムスさんを尊敬している。
損得勘定ではなく、自分の仁義と流儀を通すリーダーを。
ん?
そんなザムスさんがゆっくり近づいてきた。
どうしたんだろう?
「おい、ハリト。いつも言っているが、あまりサラとくっ付いて歩くな。あと口調も真似するな、サラの」
小声で釘を刺してきた。
「あ、はい、気を付けます」
ふう……怖かった。
このちょっとブラコンなところさえなかったら、もっと良いんだけど。
まぁ、でもブラコンなところを含めて、ザムスさんなのかもしれない。
そんな雑談をしながらカネン商隊と共に、オレたちは街道を進んでいく。
今のところは順調そのもの。
◇
しばらく進みに、お昼の休憩になる。
「一時間後には再出発します。みなさん、よろしくお願いします!」
カネンさんの指示で、商隊の人たちは昼食の準備をする。
かなりお金持ちな人だけどカネンさんは、自分も動く人なのだろう。
何となく親近感が出てきた。
「さて、オレたちも飯にするぞ」
「そうですね、兄さん」
独立部隊であるオレたちは、少し離れた所で昼食タイム。
もちろん周囲への警戒は、欠かしていない。
「あっ、そうだ! よかったら、今回の食事は、オレが用意するよ、サラ」
「えっ、ハリト君が? 料理できますか?」
「いや、実は料理は得意じゃないんだ。だからプロの人に作ってもらったのを、用意するね」
「えっ? 『プロの人に作ってもらったのを用意する』ですか?」
「それじゃ、いくよ……【収納・出】!」
ボワン!
収納魔法を発動。
スゥ、トン。
今回出した物は、昼食セット一式。
テーブルを一個と椅子を三脚。
あとテーブルの上に、出来立ての大皿の料理。
ナイフやフォーク、飲み物などワンセットだ。
「え…………?」
サラは目を点にして、言葉を失っている。
出現した料理を見つめながら、硬直していた。
「あっ……もしかして、グラタンは苦手だったか? ごめね。準備する前に、確認しておけばよかったね」
「い、いえ、グラタンは大好物なので、問題はないです……というか、これは何ですか、ハリト君? どうして昼食セットの一式が……しかもグラタンから湯気が出ているんですか……?」
「あ、そういうことか。実は昨日の内に、このテーブルセットを買っておいたんだ。もちとん自分のお金で。あとグラタンは【収納】の中で、時間も止めておいたら、出来立てなんだ! ちなみにグラタンはいつもの店のマスターに、昨日の内に作ってもらったんだよ!」
「な……時間を止める⁉ 出来立ての料理を⁉ ふう……相変わらずハリト君には、驚かされてばかりです、私は」
「あっ、ごめん。なんか、やりすぎちゃったかな?」
「いえ、もう慣れてきました。それにしても護衛の任務のために、こんな可愛いテーブルセットをわざわざ買って……」
「やっぱり、そうか……もう少し落ち着いた感じのデザインに、すれば良かったかな?」
「うっ……兄さん……ハリト君が……怖いです、なんか」
「はぁ……諦めろサラ。オレたちはとんでもない奴を、仲間にしてしまった。慣れていこう」
「うっ……分かった……」
なんとかザムスさんが仲介して、サラは落ち着てくれた。
「それでは頂きます!」
「「頂きます」」
今日はオレの号令で、頂きますの挨拶。
三人で椅子に座って、昼食を食べていく。
「ん⁉ 美味しい!」
「でしょう、サラ? やっぱり、あそこの店の料理は絶品だよね!」
「そうですね。なんか、悔しいけど、こうなったら全てを諦めて、この料理を楽しみます」
「あっはっはっは……? そうだね。あと実は夕食と明日の朝食も、美味しいのを用意してあるんだ。楽しみしていてね!」
「え……? もしかして、ハリト君の【収納】の中には、今回の道中の料理が……」
「うん、全部の料理を収納してあるよ! メニューは店のマスターのお任せしておいたから、楽しみにしていてね!」
「うっ……兄さん……」
「諦めろ、サラ」
「はい……くっ、こうなったヤケ食いよ!」
物凄い勢いで、サラはグラタンを食べていく。
何かよく分からないけど、元気になって良かった。
こっそり用意してきたオレも嬉しい。
「ふう……ご馳走様でした」
食事も終わったので、片付けに入る。
とりあえず全部、【収納】しておく。
後で【美化】の補助魔法も発動しておけば、洗い物の心配もない。
さて、再出発まで、もう少し時間がある。
ザムスさんたちと、ここで休憩しておこう。
ん?
そんな時だった。
荷馬車隊の方から、誰かが近づいてくる。
男の人が二人だ。
「あれは、たしか……」
見覚えがある人たち。
たしかカネンさんの後ろに立っていた、護衛の二人だ。
かなり険しい顔で、ザムスさんの前に立つ。
「何か、用か?」
「ふん。Bランク冒険者だか、黄昏なんとかか、知らないが、今回の護衛はオレたちの指示に従ってもらうぞ、お前らは!」
えっ……?
カネンさんから聞いていた話と、この人たちの言い分が違う。
オレたちは独立遊撃隊として、動いていいはずだったのに。
もちろんザムスさんも黙っていない。
「……どういうことだ?」
「理由なんて、どうでもいい! オレたち護衛隊は、お前らみたいな冒険者が気に食わないだよ!」
あっ……これは。
なんか身内同士で、なんかマズイ雰囲気になってしまった。
この先、大丈夫だろうか……。
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