第6話誘い

 勇者パーティーを解雇されたオレは、新しい街で心機一転、謙虚に生きていくことを決意。

 魔術師の少女サラと剣士ザムスの、凄腕Bランク兄妹パーティーに仮加入。


 近隣の村を狙う大鬼オーガと、危険な一眼巨人サイクロプスの討伐に成功する。


 ◇


 一眼巨人サイクロプスを倒した後、オレたち三人は移動を開始。


 まずは依頼を受けた村に、魔物を討伐したことを報告にいく。

 村長や村人たちから凄い感謝を受ける。


 感謝の宴会に誘われたが、オレたちは先を急ぐ身。

 そのままムサスの街に戻ってきた。


 いつの間にか夕方になっている。

 街の入り口の前で、先頭のザムスさんが立ち止まる。


「ハリト、街に入る前に、ここで一眼巨人サイクロプスの素材を、出しておいてくれなか?」


「えっ? ここですか? どうせなら冒険者ギルドまで持っていきますよ。重さも無いので、オレ的に問題はありません」


「いや、キミ的に問題は無くても、常識的には大ありなんだ。冒険者ギルドの連中を、まだ騒動に巻き込みたくない」


「え? はい、それなら大丈夫ですが……【収納】!」


 ボワン!


 収納魔法を発動。

 さっきとは逆で出す方向で発動した。


 目の前の地面に、一眼巨人サイクロプスの巨大な骨が出現した。


「はぁ……やっぱり出すのも、こんなに自由自在なのか」


「兄さん……ハリト君って、一体……」


「サラ、その話は後でしよう。まず冒険ギルドが先だ。オレは街の中にいる運搬屋を、ここまで呼んでくる。怪しまれないようにギルドまでは、彼らに運んでもらう。二人も口裏を会わせてくれ」


「えっ、はい。とりあえず了解です」


 何やらザムスさんとサラは、やけに気を使っている。

 もしかしたら収納魔法は、ムサスの街の中で使ってはいけない。そんな規則があるのかな?


 よく分からないけど、ここは先輩たちに従っておこう。


 しばらくしてザムスさんが運搬屋を連れてくる。

 大きな台車を何台もいた。


 そして運搬屋のオジサンたちも、何やら騒いでいる。


「なっ……これは……まさか……一眼巨人サイクロプスの骨なのか?」


「こ、こんな大きな素材は……初めて見たぜ……」


「しかも一刀両断で……普通じゃないな……」


 彼らは魔物の素材の運搬を、専門にする人たちなのであろう。

 終始驚きながらも、手際よく積み込み、街の中に運んでくれる。


「「「ざわ……ざわ……」」」


 なんか街の人たちの注目も浴びている。

 そんな中、冒険者ギルドに皆で向かう。


「よし、着いたぞ。買い取り台に運んでくる」


 冒険者ギルドに到着。

 ザムスさんが指示を出す。


「えっ……こ、これは、一眼巨人サイクロプスの素材ですか⁉」


 ギルドの買い取り係りの人も、目を丸くして驚いていた。


「も、もちろん、貴重な品なので、高値で買い取らせて頂きます! ありがとうございます!」


 でも相手もプロ。

 ザムスさん言っていたとおり、かなりの高値で買い取ってくれた。


 その後はザムスさん受付に、依頼が完了した報告。


「えー⁉ 大鬼オーガ三匹だけじゃなくて、一眼巨人サイクロプスなんてモノがいたんですか⁉」


 受付嬢も声を上げて、驚いていた。

 驚きながら事後処理。

 村からの証明書と、素材を確認して、追加報酬を払ってくれた。


 ふう……これで終わりかな?

 なんか大騒ぎになったけど、これでひと段落だ。


「さて、ハリト。この後は、酒場で飯でもどうだ? もちろん報酬の分配も兼ねて?」


「あっ、はい。お腹ペコペコだったんで、ぜひお供します!」


「私も、さんせーです!」


 色々と手続きしていたら、夕飯の時間になっていた。

 オレたち三人で酒場に向かう。


 ◇


 ザムスさんたちの行きつけの酒場に、やって来た。


「それでもは依頼の成功を祝して、乾杯だ!」


「「乾杯!」」


 三人で軽く乾杯。


 年上のザムスさんは、ビールを飲んでいる。

 サラは飲みやすい果実のお酒。

 オレはお茶だ。


「いただきます!」


 お茶を飲みながら、オススメの定食を頼んで、食べてみる。


 うん、美味しい。

 豪華な食材ではないけど、ボリュームもあって味もしっかりとしている。


 王都の気取った料理よりも、オレはこっちの方が口に合っているかな。

 お蔭であっという間に、完食してしまう。


「さて、ハリト。落ち着いたところで、話を聞いてもいいか?」


 食後、ザムスさんが神妙な顔で訊ねてくる。


 うっ……どうしたのかな?

 もしかしたら今日の依頼で、やっぱりオレは何か仕出かしていたのかな?


「単刀直入に聞こう。ハリト『キミは何者』だ?」


「えっ……? オレですか? オレは山育ちの“普通”の支援魔術師ですが……」


「そうか。嘘はついていない目だな……なるほど、自分では自覚をしていないのか、キミは」


「えっ? 自覚ですか?」


「いや、何でもない。冒険者の同士で互いの過去や事情を、詮索するのはタブー。だからオレもキミのことは細かくは聞かない」


「あっ、そうですか……それは少し助かります」


 ひと安心する。

 何故ならオレは『勇者パーティーを追放された』という烙印らくいんがある。


 そのことを他人に言わなくていいのは、正直なところ助かる。

 もう少し心の傷が癒えたら、オレも自分から言えのかもしれない。


「ところで妹から聞いたが、キミは今フリーなんだろう?」


「あっ、はい。恥ずかしながら……仕事が無くて、困っていました、実は」


 勇者アレックスに金を没収されたので、今の所持金はかなり少ない。


 だが支援魔術師であるオレは、一人では戦闘は不得意。

 早くどこかの冒険者パーティーに加入して、日銭を稼ぐ必要があるのだ。


「そうか。それならオレたちと一緒に組まないか?」


「えっ……一緒に組む……ですか?」


「ちょっと兄さん、さっきから聞いているけど、もう少しハッキリ言った方がいいよ。ハリト君、兄は『これから先も私たちと同じパーティーを組んでいこう』と言いたいんですよ」


「えっ……こんなオレと、これからも、ずっと……ですか? いいんですか?」


「口下手なオレですまなかったな。もちろんだ、ハリト。こちらこそ、是非とも一緒に組んでくれないか?」


「はい! もちろん! よろこんで!」


 凄い幸運が訪れた。

 まさか新しい街に来た初日に、仕事先が見つかったのだ。


 しかもランクBの凄腕な姉弟のパーティー。

 口下手だけど真面目な剣士ザムスさんと、無自覚だけと可愛い魔法使いサラ。


 今日も一緒にいてやりがいがあった。

 だから本当に嬉しいことだ。


「それなら改めて、今回の報酬の分配だ。大鬼オーガの分は三等分にする。あと一眼巨人サイクロプスの分は、ハリトに全部あげよう」


「えっ……でも、一眼巨人サイクロプスを倒したのは、ザムスさんの斬撃でした。オレもちょっとは支援したかもしれませんが、こんなには頂けません。もしも良かったら、三等分してくだい!」


 オレはお金に関しても、謙虚を心がけている。

 何故なら育ての師匠は、金に対しズボらで丼ぶり勘定な人だった。

 だからお金に関しては、キッチリしていきたい性格なのだ。


「そうか。それなら今後も三等分にしていくがいいか?」


「はい、こちらこそよろしくお願いします!」


「ふう……わかった。それにしても、あれだけ尋常ではない力を持っていながら、そこまで謙虚とは……まったく、読めない男だな、ハリトは?」


「えっ? なんか申し訳ないです、えっへへへ……」


 悪いことは、言われてない気がした。

 とりあえず笑ってごまかす。


「それじゃ、兄さん、難しい話は終わったから、改めて乾杯しましょ? ハリト君の加入を祝って?」


「ああ、そうだな。そじゃ、最高の支援魔術師ハリトの、我が《東方の黄昏たそがれ団》加入を祝って……乾杯だ」


「「「カンパーイ!」」」


 酒場の中に明るい声が響き渡る。


 こうしてオレは新しい場所を見つけた。


 新しい拠点ムサスの街。


《東方の黄昏たそがれ団》という刺激的なパーティー。


 これから毎日が充実した日々になりそうだ。




「あっ、ハリト。言い忘れていたが、サラにあまり馴れ馴れしく、身体をくっ付けるなよ? いくらお前でも、それだけは許さんからな、オレは」


 でもグイグイくるのは、サラの方なんだけど。


 今も軽く酔っ払ってきたサラが、ちょっと距離が近づいている。


「あっ……はい、肝に命じておきます……」


 でもザムスさんは怖いから、気を付けていかないと。

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