第5話支援魔法、発動

 勇者パーティーを解雇されたオレは新しい街で心機一転、謙虚に生きていくことを決意。

 魔術師の少女サラと剣士ザムスの、凄腕Bランク兄妹パーティーに仮加入。


 近隣の村を狙う大鬼オーガを、討伐することに成功。

 だが危険な一眼巨人サイクロプスが、目の前に現れた。


 ◇


「に、兄さん……あれは……まさか……」


「ああ、一眼巨人サイクロプスだ。ちっ……これはマズイ……」


 サラとザムス兄妹は、深刻な顔をしている。


 何故なら一眼巨人サイクロプスは危険度B上。

 冒険者ランクB以上が四人じゃないと、勝てないレベルの危険な魔物。


 ザムスさんとサラでは勝つ可能性が低い、恐怖の相手だった。


「兄さん、撤退しましょう!」


「いや、おそらく、ヤツは先ほどの大鬼オーガのボスだ。つまり、こいつを見逃せば、近くの村がヤバイ」


「え……そんな……」


 魔物は人を喰らう危険な存在。

 一眼巨人サイクロプスレベルになれば、小さな村などエサ場に程度の存在なのだ。


「オレがここで時間を稼ぐ。その間、サラとハリトは村に走れ。村人を避難させるんだ!」


「でも、兄さん……」


「早くしろ! ヤツが動き出すぞ!」


 着地の衝撃から、一眼巨人サイクロプスが回復。

 こちらに向かって、ゆっくりと動き出す。


 向かう先は、村がある方角だ。


「わ、わかりました、兄さん……援護射撃を一回だけして、私たちは退避します」


「ああ……今までありがとな、サラ。元気で生きていきんだぞ」


「兄さん……うっ……【火炎弾ファイアー・ボール《中》】!」


 サラは攻撃魔法を発射。


 ドッ、ゴォオオン!


 一眼巨人サイクロプスに直撃。


 だが相手は少ししかダメージを与えられていない。

 岩のように硬い皮膚が、魔法を弾いているのだ。


 その隙を狙い、ザムスさんが突撃していく。


「うぉおおお! 【斬撃スラッシュ】!」


 長剣の攻撃スキルを発動。


 ズッ、ガキーン!


 なんとザムスさんの一撃も、固い皮膚に弾かれてしまった。


 アイツはかなり強い。

 もしかしたら一眼巨人サイクロプスの中でも、強力な個体なのかもしれない。


「ハリトさん、村に急ぎましょう!」


「あ、うん」


 サラに従って、オレは撤退する。

 本当は残ってザムスさんを手助けしたい。


 でも今のパーティーリーダーはザムスさん。

 彼の指示に従うしかない。


 ドッ、ゴォーン!


「うっうわぁあ!」


 だが直後。

 後方で凄まじい地鳴りが響き渡る。


 後ろを振り返ると、ザムスさんが苦悶の叫びと共に吹き飛んでいる。

 一眼巨人サイクロプスの丸太のような一撃が、直撃してしまったのだ。


「に、兄さん! 今、助けにいきます!」


「でも、サラ。ザムスさんは村に、って」


「分かっています……でも、たった一人の兄なんです!」


「そうか……そうだよね。オレの付き合うよ!」


 サラと二人で急いで戻る。

 ザムスさんは吹き飛んだ衝撃で、まだ立ち上がれない。


 そこに一眼巨人サイクロプスが追撃を仕掛けようとしている。


 かなり危険な状況だ。


「兄さん、逃げて! 【火炎弾ファイアー・ボール《中》】!」


 焦るサラは攻撃魔法を発射。


 ドッ、ゴォオオン!


 一眼巨人サイクロプスの顔面に直撃。

 だが、やはりダメージを与えられていない。


 逆に怒らせてしまった。


『ウォオオオゴオォオ!』


 怒りの咆哮と共に、一眼巨人サイクロプスは棍棒を降り下す。

 その先にいたのは、まだ動けないザムスさん。


「兄さん!」


「くっ……無念……」


 兄妹の悲痛な叫びが、森の中に響き渡る。


 だがオレは最後まで足掻あがく。


「諦めちゃだめだ、二人とも! 防御力向上!」


 ザムスさんを対象に支援魔法を発動。

 全身が強い光に包まれる。


『ウォオオオゴオォオ!』


 直後、一眼巨人サイクロプスの棍棒が、ザムスさんの身体を直撃。


 ――――しなかった。


 ガッ、キーーーーン!


 棍棒が真っ二つに折れてしまったのだ。


「えっ……?」


「えっ……?」


 変な声を出すザムスとサラ兄妹。

 目を点にして唖然としている。


「ザムスさん、今がチャンスです!」


「ハリト……? だが、こいつには今のオレの攻撃が……」


「オレが攻撃強化で支援するので、一眼巨人サイクロプスの急所に攻撃を!」


「なんだと⁉ だが、くっ、一か八かしなないな!」


 ザムスさんは歴戦の戦士。

 オレの意図は分からずとも、すぐさま立ち上がる。


 反動で硬直している一眼巨人サイクロプスの、急所を狙う。


「うぉおおお! かすり傷でも、いい当たってくれぇ! 【斬撃スラッシュ】!」


 よし、今だ。


攻撃力強化!」


 ザムスさんの長剣を対象に、オレは支援魔法を発動。

 剣が強い光に包まれる。


 直後、ザムスさんの攻撃がヒット。


 ズッッシャァアアアアアンー!


斬撃スラッシュ】が一眼巨人サイクロプスに直撃。


 巨大な身体が真っ二つに裂ける。


「えっ……?」


「えっ…………?」


 また兄妹が変な声を出す。

 サラは目を丸くして呆然としている。


 ザムスさんは自分の剣を、口を開けながら見ている。


「ナイスです、ザムスさん!」


「あっ……兄さん!」


 ザムスさんの元に、オレはサラと駆け付ける。


「兄さん、大丈夫ですか! 今、回復魔法をかけます!」


 サラが怪我の治療をしていく。

 かなりのダメージがあったが、回復魔法で何とかなりそうだ。


 これにはオレもひと安心。

 よかった。


 治療を受けながら、ザムスさんがこちらを見てくる。


「ハリト……さっき防御魔法と……攻撃力強化魔法は……キミが……やったのか?」


「えっ? あっ、はい。支援魔法で強化しました。得意の《弱》なんとか上手く発動できたみたいです」


「なっ……あれで《弱》だと? あれは《強》レベル……いや《超強》レベルだぞ! あの尋常ではない効果は⁉」


「えっ……」


 ザムスさんが興奮している。

 もしかしたら怒っているのだろうか。


 オレが命令を無視して、勝手に戻ってきたこと。

 指示もないのに、支援魔法を発動させたことを。


「ご、ごめんなさい……です? なんか、オレやっちゃいましたか?」


「いや……謝る必要はない。オレも混乱しているだけだ。この状況に……」


「あっ、そうでしたか……」


「とにかく魔石を回収してから、村に報告に行こう。その後は街の冒険者ギルドにも報告を。報酬の分配はその後で、いいかハリト? あとキミの話も、少し聞きたい」


「あっ、はい。構いません。ありがとうございます!」


 良かった。

 どうやら今回の依頼は成功したみたいだ。


 倒した魔物は少し時間が経つと、粒子となって消えていく。

 跡に残るのは“魔石”と呼ばれる魔力の源。


 あとは魔物の種類によっては、素材も残ったりする。


「あ、兄さん。一眼巨人サイクロプスは、骨も残っていきますよ」


 一眼巨人サイクロプスを倒した後に、巨大な骨格の骨が残った。


「ああ、そうだな。冒険者ギルドに行けば、かなり高値で売れる。だが、この大きさと重さは、どうにも運べないな」


 なるほど、あれを街まで持っていけばいいのかな?


「良かったら、オレ持っていきますよ」


「な、何を言っているんだ、ハリト?」


「それじゃ、とりあえず、試してみますね……【収納】!」


 ボワン!


 おっ、上手くいった。

 一眼巨人サイクロプスの骨を、全部オレの魔法で収納できた。


 あとは街まで持って、出せばいいだけだ。


「なっ……?」


「えっ…………?」


 兄妹はまた変な声を出している。


 ん?

 どうかしたのかな?


「いえ……どうかしたではありません! ハリトさん! 今のは超難易度の高いの【収納】じゃないですか⁉」


 サラがすごい形相で、オレにグイグイきた。

 収納魔法に凄く驚ている感じだ。


「どうして、そんな特殊魔法を使えるんですか⁉」


 すごい勢いでグイグイくる。

 サラの胸が……意外と大きくて柔らかい胸が、オレの身体に当たってくる。


 うっ……無自覚なのか、この子は。

 とにかく心を落ち着かせて、対応しないと。


「えーと、これは我が家では普通に使っていんだけど? ほら、買い物とかに便利だし?」


「えっ? 特殊魔法を、買い物に? そんな異常な使い方、始めて聞きましたよ、ハリトさん⁉」


「サラ、落ち着け。とりあえず分かったことがある。ハリト、キミは普通ではない?」


「へっ? オレがですか?」


「ああ、そうだ。だがオレたちも混乱して、もはや頭が回らない。とりあえず街の酒場で、ゆっくり話を聞こう……」


「はい、分かりました」


 こうしてオレは初めての仮パーティーの任務に成功。


 でも街に戻ったら、どうなるのかな?


 少し心配だ。

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