第4話魔物討伐へ

 勇者パーティーを解雇されたオレは、東の辺境の街ムサスに到着。

 新しい街で心機一転、謙虚に生きていくことを決意。


 魔術師の少女サラと剣士ザムスの凄腕Bランク兄妹パーティーに、仮加入することになった。


 ◇


 村に向かって、街から三人で街道を移動していく。


 道中で兄妹の戦い方を、オレは聞いていく。


 兄のザムスさんは長剣を得意とする近接型。

 あと隠密や弓矢も出来る万能タイプだ。


 妹のサラは攻撃魔法が得意で、回復魔法も多少は使えるという。


 ふむふむ、なるほど。

 オレは頭の中にインプットしておく。


「あそこがルタの村だ」


 ザムスさんの先導で、村に到着。

 農村地帯の小さな村だ。


 村長に挨拶をして、さっそく魔物退治に向かう。

 周囲を警戒しながら移動。

 道中で魔物の情報をまとめていく。


「ちなみに魔物の見当は、付いているんです、ザムスさん?」


「ああ、相手は大鬼オーガだ」


大鬼オーガですか……たしか、『危険度C下』の魔物ですよね」


「ああ、そうだ。一匹ならオレとサラでも問題ない。だが少なくとも三匹以上はいる」


「なるほど、それは危険ですね」


 この大陸の魔物には危険度によって、冒険者ギルドがランクを付けている。


 ――――◇――――

《危険度》


 F:一角兎ビッグラビットなど


 E下:スライム、コボルトなど


 E上:ゴブリン、灰色ウルフなど


 D:オーク、グールなど


 C下:ゴブリンキング、オーガ、トロールなど


 C上:オークキング、ゴーレム、シーサーペントなど


 B下:ワイバーンなど


 B上:サイクロプス、ヒュドラなど


 A:レッサードラゴンなど


 S:エルダードラゴ5匹(火、水、土、風、闇)


 ――――◇――――


 こんな感じで、ランク付けされてある。

 個体によって多少の変動もあるので、大よその目安だ。


 ちなみに冒険者ギルドでは『危険度Dのオーク一匹には、冒険者ランクD以上の四人パーティーで戦うのが推奨』とされている。


 今回は『危険度C下オーガには、冒険者C以上の四人パーティーで戦うのが推奨』という状況。


 だから冒険者ランクBのザムスさんとランクCサラ。

 二人でも各個撃破に持ち込めば、大鬼オーガなら何とかなるのだ。


「だからランクEのハリトは、今回あくまでサポートに徹してくれ。サラだけならまだしも、キミまで守る自信はない」


「了解です」


「あとオレが指示を出すまで、支援魔法を使うのも控えてくれ」


「分かりました。ザムスさんの指示で、オレは支援魔法に二人にかけます」


 大鬼オーガの目撃があった場所まで移動。

 道中でオレの情報も伝えていく。


「ちなみにハリトは支援魔法を、どのくらいの強度を得意としている?」


「オレは魔法強度が“得意”です」


「《弱》か……そうか。わかった」


 ザムスさんの感じだと、あまりオレには期待していない感じ。

 でも、それに仕方がない。


 何しろランクEの支援魔術師は、それほど強力な補助魔法は使えない。

 よくて《防御力強化(弱)》や《攻撃力強化(弱)》程度なのだ。


 ちなみに魔法の効果は、次の段階がある。


 ――――◇――――


《弱》:使用できる平均の冒険者ランクE、F


《中》:使用できる平均の冒険者ランクC、D


《強》:使用できる平均の冒険者ランクA、B


《超強》:使用できる平均の冒険者ランクS


 ――――◇――――


 大まかに、こんな感じだ。

 強力になれば魔法の威力も強力になっていく。

 その代わり消費魔力も大きい。


 そんな中でオレは魔法を、一番の得意としている。

 理由は師匠との修行から、学んだからだ。


(あの師匠からの反面教師だな、これも……)


 オレの師匠は自意識過剰だから、常に威力極大ばっかり使っていた。

 どんな弱いも魔物に対しても、《極大》を発射するのだ。


 もちろんオーバーキルで効率も悪い。

 だから反面教師として、オレは威力を鍛えてきた。


 精度が高く、実戦向きな《弱》を、オレは得意していたのだ。


 そんな話をしながら、オレたちは村の近くの森に入る。

 村人の目撃情報によると、この奥に大鬼オーガがいるらしい。


 三人で慎重に進んでいく。


「いたぞ」


 ザムスさんが大鬼オーガを発見した。

 森の開けたところに三匹いる。


 体長は三メートルぐらい。

 半裸で鬼のような凶暴な顔。

 手に丸太のような棍棒をもっている。


「サラ、いつものように、オレが合図したら魔法で先制攻撃を。ハリトはここで待機を」


「はい、兄さん」


「了解です」


 作戦が決まったところ、実行に移る。


 ザムスさんは気配を消しながら、オーガに接近していく。

 革鎧な上に隠密技術も、見事なもの。


 あっという間に、オーガの背後に回り込む。


 ヒョイ


 ザムスさんが指で、合図を送ってきた。


「ふう……【火炎弾ファイアー・ボール《中》】!」


 合図に従って、サラが攻撃魔法を発動。

 杖から大きな火炎の弾丸が、発射されていく。


 ドッ、ゴォオオン!


 オーガの一匹に直撃。

 丸焦げになる。


 直後、ザムスさんは茂みから飛び出す。

 相手の虚を突いた奇襲だ。


「うぉおおお! 【斬撃スラッシュ】!」


 長剣の攻撃スキルを発動。


 ズッシャー!


 見事に二匹目のオーガを、一刀両断。

 残るは一匹になる。


「兄さん、いきます! 【火炎弾ファイアー・ボール《中》】!」


 先ほどと同じ攻撃魔法を、サラは発射。


 ドッ、ゴォオオン!


 三匹目のオーガ命中。

 だが少し狙いを外している。


 まだ生きている。


 すかさずザムスさんが追撃する。


「うぉおおお! 【斬撃スラッシュ】!」


 ズッシャー!


 おお、お見事。

 三匹目にも止めを刺した。


「ハリトさん、兄さんの所に行きましょう!」


「そうだね」


 サラと二人で駆け付ける。

 確認したがオーガは三匹とも、確実に死亡していた。


「いやー、見事な戦い方でしたね、二人とも」


 感心してしまう。

 さすが兄妹だけあって、息の合った連携だった。


 本来なら強敵なはずのオーガを、一方的に討伐してしまった。

 さすがはランクBパーティーといったところだ。


「すまないな、ハリト。出番がなくて」


「いえ、無事で何よりです」


 基本的に支援魔法は、念のための魔法。

 使わないにこしたことはない。


「さて、あとは、魔石を回収して、村に報告にいくか」


「はい、そうですね……ん?」


 その時だった。

 オレは“何か”を感じた。


 あれ、上かな?

 このすぐ近くの崖の上から、何か感じるぞ。


 そこまで“強くない魔”の力だったので、感じるのが遅くなった。


「ザムスさん。あの崖の上に、何かいます」


「なんだと? 上?」


「はい、あそこです。あっ、降りてきます」


 ドッスーーン!


 直後、地震のような地鳴りが、周囲に響き渡る。


 崖側にあった木々が、吹き飛んでいく。


「あ、あれは……まさか……」


 ザムスさんは言葉を失う。

 木々が吹き飛んだ方向。

 崖の上から“何か”が落ちてきたのだ。


「に、兄さん……あれは……まさか……」


「ああ、一眼巨人サイクロプスだ。ちっ……これはマズイ……」


 崖の上から降りて来たのは、巨大な一つ目の巨人。


 危険度B上……冒険者ランクB以上が四人の推奨の上位クラスの魔物。


 ザムスさんとサラでは勝つ可能性が低い、恐怖の相手だった。

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