第3話仮のパーティー

 勇者パーティーを解雇されたオレは、東の辺境の街ムサスに到着。

 新しい街で心機一転、謙虚に生きていくことを決意。


 そんな時、広場で困っていた、魔術師の少女サラを助けることにした。


 ◇


 サラに案内されて、彼女の仲間の所に向かう。


「ここが私の仲間がいる冒険者ギルドです、ハリトさん!」


「ここが、この街の冒険者ギルドか」


 王都よりは大きくないが、けっこうな立派な建物。

 街の規模的にムサスで、ここは唯一の冒険者ギルドなのであろう。


 雰囲気的にはコンパクトで、使いやすそう。

 悪くない雰囲気だ。


「中に行きましょう!」



 サラの案内で、冒険者ギルドの中に入っていく。

 中は一般的な作り。


 入口の正面にカウンターがあって、受付嬢が座っている。

 横の壁には掲示板があり、色んな依頼が張られていた。


 あと奥には椅子が並んでいて、冒険者たちが雑談していた。

 待機場所なのだろう。


「あの奥に。いるはずなんですが……あっ、いた!」


 小走りになったサラの、後を付いていく。

 立ち止まったのは、待機場所にいる一人の剣士の前だ。


「兄さん! 支援魔術師の人を、見つけてきたよ!」


「ん? 本当か、サラ⁉」


 案内された先にいのは、長身の男の人。

 歳はオレよりも、ちょっと上ぐらいかな。


 体格がよく剣を下げているので、剣士タイプなのであろう。

 結構ハンサムだけど、目つきが鋭い歴戦な戦士な雰囲気だ。


「兄さん? 兄妹の人なんですか?」


「あっ、説明が遅れましたね、ハリトさん。この人が私のパーティーメンバーで、兄のザムスです!」


 なるほどサラの仲間は、実のお兄さんだったのか。


 そう言われて、改めて二人を見比べてみる。

 たしかに顔は似ている、感じがする。


 でもサラは小動物系で、ほんわか可愛い感じ。


 一方でお兄さんのザムスさんは、精悍せんかんな感じ。

 きっと母親と父親に、それぞれ似たのであろう。


「ハリト君と言ったかな? キミは本当に、支援魔術は使えるのか?」


「あっ、はい。一応は」


「あまり自信が無さそうに、見えるが?」


「サラにも言いましたが、オレは“普通”の支援魔術師なので、そこまで期待はしないでください」


「……そうか、分かった」


 ふう……緊張した。

 なんか尋問っぽい感じだった。


 ザムスさんは、かなり鋭い目つきの人。

 ちょっと質問されただけでも、かなり緊張する。


 たぶんオレのことを、まだ信用をしてないのだろう。


 でも、それも仕方がない。

 初対面の冒険者を、いきなり信用する方が危ないからな。


 ザムスさんか……悪い人はなさそうな気がする。

 少なくとも王都の横暴な冒険者たちとは、雰囲気が違う。

 本気で冒険者をしている人なんだろう、きっと。


 よし、挨拶はできたから本題に移ろう。

 今回の要件を、ザムスさんに聞かないと。


「サラに困った問題が、あったと聞きましたが、どんな依頼があったのですか?」


「実は街の近くのある村が、厄介な魔物が狙われている。それを一刻も退治する依頼だ」


「なるほどです。ちなみに支援魔術師が必要だったのは?」


「サラにも聞いたかもしれないが、昨日まで一緒に組んでいた奴が、支援魔術師だった。パーティー編成を変える訳にいかないから、探していた」


 なるほど、そういう理由か。


 冒険者での集団戦闘は、周りが思っている以上に難しい。


 互いの職種や得意なスキル、戦い方の連携を、完璧に合わせる必要がある。


 いくら有能な者でも新参者は難しい。

 まったく別な職種だと、逆に現場が混乱してしまう危険性もある。


 だからザムスさんとサラは、昨日まで慣れていた支援魔術師を探していたのだ。


 なるほど理由は分かった。

 本当に困っていたし、助けてあげたい。


「分かりました。こんなオレでよかった協力します。ザムスさんの方は、どうですか?」


「少々の不安はある、だが今は時間もあまりない。頼むぞ、ハリト」


「はい、よろしくお願いします!」


 なんとかザムスさんに了承してもらった。


 そのまま三人で冒険者ギルドのカウンターに移動。

 受付のお姉さんに仮のパーティー登録をしてもらう。


「はい、どうぞ。ハリトさん。出来ました」


 無事に仮登録完了。

 これで今回の依頼が成功したら、オレにも冒険者ポイントが入るようになった。


 ちなみにこの大陸での冒険者のランクは、最低がFランクで最高がSランク。

 まとめると次のような感じ。


 ――――◇――――《冒険者ランク目安》――――◇――――


 ・Sランク:大陸の危機に動員されるほどの、伝説級パーティー(大陸にも数人しかいない)


 ・Aランク:複数の町や国の危機を解決できるほどの、国家級パーティー(一ヵ国に十数人しかいない)


 ・Bランク:大きな街の危機を解決することができるほどの、凄腕パーティー(大きな街に十数にしかいない)


 ・Cランク:小さな町や村の危機を解決することができる強さ(そこそこの数がいる)


 ・Dランク:初心者を脱却。そこそこの冒険者。(けっこうな数がいる)


 ・Eランク:まだ駆け出しで、弱い魔物を退治するレベル。(かなり多い)


 ・Fランク:登録したばかりの新人で、雑務がほとんど(多すぎて不明)


 ――――◇――――◇――――


 王都の冒険者ギルドで聞いた説明は、こんな感じ。


 冒険者として一人前と言えるのは、Dランクから上の人たち。

 EランクとFランクは半人前の扱いをされる。


 ランクCまでなら、努力さえすれば常人でも到達可能。

 でも到達する前に、死亡率も上がり全体数も少ない。

 だからランクCでも、かなり凄腕と頼りにされる。


 Bランクより上には、よほどの才能がないと上がれない。

 だからランクB以上は本当に凄い人なのだ。


(どれどれ、ちなみにザムスさんたちは、ランクはどんな感じかな?)


 貰った仮登録証を、チラリと確認してみる。

 ここに書いてあるはずだ。


「えっ……“Bランク”⁉ ザムスさんたちって、ランクBの凄腕パーティーだったんですか⁉」


 まさかの高ランカーだった。

 王都の冒険者ギルドでも、あんまり見たことがないレベルだ。


「ああ、一応はな。オレは個人ランクBで、サラは個人ランクC。だから上のオレのBが、このパーティーのランクになる」


「そ、そうだったんですか……そんな凄腕のパーティーだったんですか……」


 思わず絶句してしまう。

 何しろランクB『大きな街の危機を解決することができる凄腕パーティー』だ。


 そう言われて改めて、ザムスさんを観察してみる。


 うん……歴戦の剣士の雰囲気で、とても強そうだ。


 あと、サラも結構な潜在的な魔力を、感じる。


 この兄妹パーティー、本当はすごい二人だったんだ。

 改めて感心する。


「ちなみにハリト、お前の冒険者ランクは?」


「えーと……恥ずかしながら、個人ランクEです……」


 これでも一応は勇者パーティーに、一年間は在籍。

 けっこうな数の冒険や事件の任務に、同行してきた。


 でもパーティーリーダーの勇者アレックス。

 アイツがオレのパーティー登録を、王都の冒険者ギルドに報告を怠っていたのだ。


 だから一年間も頑張っていたのに、未だにオレは駆け出しのEのままなのだ。

 今思い返しても、本当に悔しい。


「ランクEか……そうか、分かった」


 ザムスさんの表情が曇る。

 ランクBパーティーに普通は、ランクEはいない。

 オレの低ランクに失望もしたのかもしれない。


 申し訳ない気分になる。

 オレも悔しいから、この後の行動で挽回しないとな。


「よし、それでは早速、依頼のあった村にいくぞ。時間がない!」


 ザムスさんは気持ちを切り替えて、出発の号令をかける。

 オレとサラも後に続く。


(勇者パーティー以外でのパーティー行動か……オレ、上手くやっていけるかな……)


 多くの不安を抱えながら、オレは魔物退治に同行するのであった。


 ◇


 ◇


 だが、この時のザムスとサラは、気が付いていなかった。


 自分たちに同行しているのが、とんでもない規格外の支援魔術師だったことに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る