第2話新しい人生のスタート

 アレックス勇者パーティーを追放されてから、日が経つ。


 オレは東の辺境の街サムスに到着する。


「ここがオレの新しい拠点か。悪くはない街の雰囲気だな……」


 昼下がりの街の中央広場。

 初めて訪れた街の様子を、眺めていく。


 通行人や露天商は活気にあふれている。

 広場で遊ぶ子どもたちにも、笑顔がいっぱい。


 今まで拠点にしていた王都は、確かに大都市だった。

 でも、どこか冷めた感じの雰囲気。


「よし、ここなら、楽しく暮らしていけそうだな」


 王都に比べてサムスの街は、暖かい感じがする。

 既に気に入っていた。


「さて、冒険者ギルドでも探すか……ん?」


 広場の真ん中に、大きな銅像を見つけた。

 王都の各広場にもあった、同じ人の銅像だ。


「《大英雄ルシュル》か……やっぱり有名人なんだな、この女性は……」


 王都で聞いた話だと《大英雄ルシェル》は凄い人だった。


 今から二十年前に復活した魔王、大陸を恐怖のどん底に陥れた存在。


 その魔王をたった一人で討伐して、世界を救った英雄だという。


 彼女は討伐後に姿を消してしまい、行方知らず。


 だが大陸中の人たちは、その偉業を称えて銅像を作り、今でもこうして祭っているという。


「たしかに凄い英雄みたいだけど、うちの師匠と同じ名前だからな、なんか先入観があるんだよな、オレは……」


 孤児だったオレを育てくれた師匠がいる。

 ルシェルという名前の大人の女性。


 そう……この《大英雄ルシェル》と同じ名前。

 更に王都でもビックリしたけど、外見もこの銅像と、師匠はよく似ている。


「でも、あの師匠と、この大英雄様は『月とスッポン』。比べるのも失礼だな」


 ウチの師匠はとにかく駄目な人だ。

 見た目は麗しくスタイルも良いが、他は問題だらけ。


 性格は我がまま横暴で、自己中心的で、酒癖が強く、色男に弱いくせに、他人と関わるのが嫌い。


 あと自己評価が異常に高過ぎる、問題だらけの性格なのだ。


「ふう……だからオレは謙虚に生きていかないとな」


 ルシェル師匠には育てて、生きる技術を教えてもらった恩がある。

 感謝もしている。


 でも、あまりにも過保護で横暴すぎた。

 だから一年前にオレは山奥の家をから、家出してきたのだ。


 その後は、ふもと村の幼馴染マリナと、冒険者になるために王都に行った。


 王都で、女弓士として天賦てんぶの才を持つマリナが、アレックス勇者パーティーに勧誘される。

 幼馴染なオレも一緒に加入。


 そして先日のパーティー追放の事件が起きて、今に至るという訳だ。


 追放された原因は、きっとオレが慢心していたせいだろう。

 冷静になった今なら、そう思えてきた。


「だからこそ、オレは謙虚に生きていかないとな」


 これは師匠から反面教師として学んだこと。


 よし、気持ちの切り替えもできた。

 この街でも謙虚に、適切な自己評価で頑張っていこう!


「ん? なんだ、あの子は?」


 そんな時、一人の少女が目に入る。

 銀髪の小柄な子で、歳も同じくらい。


 あと、杖を持っているから魔術師で、冒険者だろうか?


 何やら困った顔で、周りをキョロキョロしている。

 かなり深刻そうな雰囲気だ。


 あっ、あの子……。

 持っていた荷物を、盛大にこぼしてしまった。


 早速、見過ごす訳にいかないな、これは。


「大丈夫ですか? これ、落としましたよねぇ」


 落とした荷物を拾い、不審がられないように丁寧に話しかける。


「あっ、すみません、ありがとうございます……」


「いえいえ。それより、さっきから困っていた感じですが、どうしましたか? オレも同じ冒険者なので、何か相談にのりますよ?」


「えっ……冒険者? その恰好……もしかして、支援魔法とか使えますか⁉」


「えっ……」


 いきなり女の子が。オレにグイグイきた。


 うわっ……近くで見たら、凄い可愛い子だ。


 王都でも、こんな可愛い子は見たことがない。


「少しでもいいです! 支援魔法、使えますか? 」


 この様子だと支援待魔法を使える人を、探しているのだろうか?


 かなり切羽詰まった感じだ。

 小動物的な感じの子で、助けてあげたくなる。


「えー、まあ、多少なら……」


「ほ、本当ですか! あと、どこかの冒険者パーティーに所属していますか、すでに⁉」


「いや、恥ずかしながら、今は無職……フリーです」


 こんな可愛い子に、無職と名の乗るのは恥ずかしい。

 でも事実だから仕方がない。


「フリー! それなら、良かったら、私たちのパーティーを助けてくれませんか! 私、サラと申します」


「えっ……? 助ける? ですか、サラさん?」


「はい、実は……昨日まで一緒だった支援魔術師の仲間が、他のパーティーに引き抜かれてしまいました。それで私たち、依頼を達成できないで、困っていたんです……」


「引き抜きか……それは大変だったね」


 冒険者パーティー間での引き抜きは、よくあること。

 有能な者は更に上を目指して、ランクが高いパーティーに引き抜かれていく。


 逆に低能な者は、追放されてしまうこともある。


 そう、オレのように!


「あっ、すみません……名前も知らない初対面の方に、こんなことをお願いしてしまって。期限が迫っていたからといって、私、焦って……」


 サラは本当に困っている様子だった。

 かなり切羽詰まっていたのだろう。


 だからわらを掴む思いで、初対面のオレに声をかけてきたのだ。


「こんなオレでよかったら、そんなに有能じゃないけど、手助けするよ!」


「えっ……本当ですか⁉」


「本当さ。でも、あまり期待していでよ。何しろ無職な支援魔術師だからね、オレは。はっはっは……」


「いえ、それでもありがたいです!」


「それじゃ、えーと、オレの名はハリト。山育ちの支援魔術師のハリトです。よろしくサラ」


「はい、よろしくお願いします、ハリトさん! あっ、そうだ。まずは冒険者ギルドに一緒に来てください。私の仲間がいるので」


「うん、分かった」


 こうして魔術師の少女サラを助けることにした。


 でも、本当に大丈夫かな?


 こんな追放されたオレで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る