第十三話 美少女と俺の憂鬱な夜
日曜日。夕方にテレビを付ければ国民的なアニメが陽気な音楽と共に俺たち学生と大多数の社会人に『明日は月曜日』という絶望を教えてくれる。
そんな今日、一週間の終わりの通例と言わんばかりに俺は気が滅入っていた。
明日は学校。たったそれだけの事実に大きなため息が出てしまう。
疲れた体では何にもする気が起きず、アニメを見たりラノベを読んだりしてだらだらと時を過ごしているともう既に時刻は21時を指していた。
飯も食い終わり、シャワーも浴びた俺は完全に時間を持て余していた。
眠いかと言われれば別にそういうわけではなく、かといって特にやりたいことはない。
だけどここで寝てしまえば、目が覚めた時には月曜日の朝。つまりは学校の時間になる。
出来るだけ俺は休日気分を味わっていたいので今寝てしまうのは何だかもったいない気がする。
意味もなく自分の机に座り、普段使っているノートパソコンを脇によけて、肘をついてスマホを俺はいじる。
この前、流行にものすごく疎い事を痛感した俺は詩織が見せていた動画配信サイトの詩織のチャンネルを開く。
流行に追いつきたいという思いはないけど、詩織とああして知り合った以上はそれなりに知っておく必要があるような気がした。
なんか追っかけているみたいで気持ち悪いけどまあいいや。
特にやることも無いしな。
100本以上ある動画を全て見るわけにもいかないので、特に再生回数の高い動画を俺はリスト中から探す。
すると、約1000万再生されている動画を俺は見つける。
動画のタイトルを見ると『しおりんの何でもありの質問コーナー!!』っと書いてあり、サムネイルというのだろうか、少しだけエッチなことを想起させるような明らかに男性ファンを誘っているような動画だった。
動画を見てみると全くエッチな内容は存在せず、好きな食べ物やエピソードトークばかりでアイドルの詩織に興味のない俺からしたらとてつもなくつまらない動画だった。
動画を見て思ったけどアイドルの詩織が分かるだけで詩織自身のことは何にも分からないな。
アイドルの詩織を知るだけなら、別に動画を見なくてもクラスでの様子を見るだけでいいわけだし。
…無駄な時間だったな。
ため息をしながら俺は動画配信サイトのブラウザを閉じて、スマホを画面を下に机の上に置いた。
けど、本当に詩織は何処でもアイドルをやってるんだな。
動画での態度は学校での態度と損癪ないもので、詩織のアイドルとしてのプライドが動画の中で垣間見えた気がした。
学校生活くらい、数段メディアのクオリティーから落としても問題はないと思うがそれも人気アイドルは許さないのか。
流石は人気アイドルといったところだろうか。
まあそれだけ知れただけでも無駄な時間ではなかったかもしれない。
そんな時、画面を下にして置いていたスマホが聞きなれない音と共にぶるぶると振動し始める。
何の音だろうか?不思議に思いながらも俺はスマホを手に取って画面を確認する。
スマホに表示されていたのは『萩野夏穂からの着信』という文字で夏穂からメッセージアプリでの無料電話だった。
夏穂とのやり取りは寄り道した時の夜に少しだけ会話をしたきりで夏穂からの着信は初めてで俺は困惑とともにたじろいでしまう。
何の用だろうか?
もしこれが普通の人の普通の友達であればただの寝る前の雑談のための電話なのかもしれない。
だけど俺たちは違う。
互いにボッチで不器用で友達付き合いなんて分かるはずもない。
人との付き合い方もままらないのだから。
慣れていない友達付き合いでいきなり雑談のための電話なんてことはまずありえないだろう。
だからそんなありふれた理由での電話ではなく、用事のための着信であるのは電話に出る前から明らかであった。
だからこそ俺はたじろいだ。電話をしてきた理由の詳細に見当がつかないからだ。
けど出ないわけにはいかない。
スマホの電話マークを押して、俺はスマホを右耳にかざした。
「あーもしもし?」
一言目、何を発したらいいのか分からず緊張感が漏れまくる声になってしまった。
「もしもし。ごめん急に電話して」
「いや別にいいけど」
だけど透き通った綺麗な声を持つ夏穂も同様に緊張しているのかいつもよりも幾分強張った声音になっていた。
「それでなんか用か?」
「うん。ちょっと相談したいことがあって」
「相談?別にいいけど。でもごめん、少し待ってくれるか」
「あっうん」
女子からの相談。友達という建前があっても緊張してしまう。
だけど、それよりも少し俺にはある問題が発生していた。
普段は耳元でなんて聞くことはない夏穂の声を電話越しとはいえ耳元から入ってくる綺麗な声に妙なこそばゆさを感じて、体中がむずむずしてしまっていた。
このままでは相談もまともに聞くことはできないだろう。
…仕方ない。部屋越しに晴翔に聞こえてしまうのが恐いけどスピーカーにして電話をするしかないな。
右耳からスマホを離し、スマホのスピーカーマークを押してスマホを机に置く。
「すまん。それで相談ってなんだ?」
「…詩織…ちゃんのことで」
何と呼べばいいのか定まっていないのか夏穂がよそよそしく答えた言葉に俺はあの時の夏穂の表情を思い出した。
詩織が俺たちを呼び出したあの日、教室に戻る前に何か悩みを抱えているような表情を見せていた夏穂。
俺はあの時に声をかけてあげることをしなかったけど、やはり声をかけてあげるべきだったのか。
後悔と反省の念が心に灯り、不安と緊張が消失した俺の思考はただ夏穂の悩みを解決してあげたいという思いになっていた。
それがあの時に声をかけなかった俺の懺悔と責任な気がしていたから。
「何か不安や不満でもあるのか?」
緊張していた声音はどこへやら、俺は真剣な声と姿勢でスマホ越しの夏穂に向かって聞いた。
「…ちょっとだけね。ちょっとだけ…怖いんだ」
微かに開いた夏穂の心の扉は夏穂の快美な音声(おんじょう)を不安で震わすには十分だった。
憂鬱な日曜日な夜、時計はもうすぐ10時を指そうとしている。
そんな春宵に夏穂は俺に心の不安を打ち明けてくれる。
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