第四話 寄り道2

  俺は夏穂に右手を引っ張られながら俺達はショッピングモールの中に入った。


 中は平日の昼間ながらそれなりに人で溢れて賑わっている。

 

 「へ~中はこんな風になってるんだ」


 夏穂が立ち止まって感嘆の声を上げ、手が緩んだ隙をついて俺はすぐにパッと手をほどいて噴き出していた手汗をズボンで拭き取る。


 それで少し落ちついたものの走ったからなのかそれとも違う理由があるのか分からないが心臓の激しい鼓動は全く落ち着いていなかった。


 「ねえ翔馬。まず何処に行く?」


 俺と違う意味で落ちついていない夏穂は興奮気味の高い声音で俺に尋ねた。


 「えっ?まずそうだな…お昼食べてないしフードコートでも行くか」

 「フードコートってレストランのこと?」

 「うーんまあそんな感じ?かも」

 「じゃあ早速行こう」

 「おっおう」


 そう夏穂は言って勢い良く歩き出したのはいいがこいつ何処にフードコートがあるか分かるのか?


 「それでそのフードコート?ってどこにあるの?」

 「やっぱ知らないのか」


 懸念はしていたがやはり知らなかったか。


 だけど俺もここのショッピングモールに来るのは初めてなので何処にフードコートがあるのかを知らない。


 なので俺は近くにあったショッピングモールのマップを確認してフードコートの位置を探す。


 「えーっと、フードコートは一階の一番奥にあるみたいだな」

 「奥ってどっち?」

 「こっちだな」


 俺達は一階、つまりこの階の右奥にあるフードコートへと向かった。


  フードコートに着くとお昼時なだけあって人で溢れてはいたが、休日ではないので席はちらほらと空いていた。


 「このフードコートって何が置いてあるの?」

 「まあ色々だな。色んな種類のお店があってそれを自由に選んで頼むのがフードコートなんだよ」

 「へえなるほどね」

 「なんか買いたいもんあるか?」

 「んー…」


 腕を組んでフードコート内にある店を見渡す夏穂は一つのお店を指した。


 「あそこがいいな」


 指したほうを見るとそこにあったのは有名なハンバーガーのチェーン店だった。


 「ほーんあそこな。何であそこ?」

 「ああいうのジャンクフードっていうんでしょ?一度食べてみたかったから」


 この世にジャンクフードに憧れる美少女が存在したとは思わなかった。

 やはりお金持ちってジャンクフードとは無縁な生活を送っているものなんだな。


 「そか。じゃあ適当な席に座っといてくれ。俺が二人分買ってくるわ。一番人気なセットでいいよな?」

 「うん。適当に座っておくね」


 夏穂にそう伝えた俺はハンバーガーショップへと向かって二つハンバーガーセットを頼んだ。

 

 出来上がった二つのハンバーガーセットを持ち、俺は辺りを見渡し、夏穂を探して見つける。


 「待たせたな。ほい」

 「ありがとう翔馬」


 夏穂が座るテーブルに向かい、俺は夏穂にハンバーガーセットを手渡す。


 だけどこの席、俺が適当とは言ったものの右と左でカップルに挟まれてるじゃねえか。


 もう少し考えて選んでほしかったが世間知らずのこのお嬢様に適当と言ったのは間違いなく俺なので何も言えない。


 不満を抱きながらも俺は夏穂の向かい側の椅子に座る。


 夏穂はさすがにハンバーガーの食べ方は分かるようで包んである紙を丁寧にめくり、女の子特有の小さな口を最大限開けてハンバーガーにかぶりついた。


 「どうだ?」

 「おいしいけどなんかすごく味が濃いね」

 「まあジャンクフードだしな」


 夏穂は次にポテトを一本つまんで口に運んだ。


 「これもすごく味が濃いね」


 庶民が頻繫に食している食べ物を初めて食べて何だか嬉しそうな表情を浮かべながらポテトとハンバーガーを順に頬張る夏穂。


 俺はお腹が空いていた分ハンバーガーとポテトを一瞬で食べ終わり、口の中の塩を洗い流すようにコーラを飲みほした。


 「食べるの速いね」

 「まあ腹減ってたし」


 そう言った夏穂のハンバーガーは半分も減っておらずポテトもほとんど減っていなかった。


 けれど夏穂の表情は今日一番暗い表情を浮かべており、苦しそうな顔をしていた。


 「もうお腹いっぱいなのか?」


 尋ねてみると夏穂は無言で首を縦に振った。


 「…いる?」

 「えっ!?」


 夏穂は口のものを飲み込んで右手に持っていた食べかけのハンバーガーを差し出してきた。


 「いや食べかけはちょっと…」

 「だよね…ごめん」


 今までよりも数段低い声音で言って持っていたハンバーガーを引いたが別に食べかけが嫌というわけではない。


 ただ女の子の食べかけというのに恥ずかしさと罪悪感を感じてしまうのだ。


 けれど食べずに残すというのにも罪悪感を感じるのも確かではある。


 後、今後人生で美少女の食べかけのハンバーガーを食べれる機会なんてあるだろうか?

 否!恐らくない。

 だったらここはもらっておくしかないだろう。


 「すまんやっぱもらうわ」

 「ほんと?ありがとう!じゃあはい、口開けて」


 夏穂は躊躇なくそう言ってハンバーガーを差し出してきたが俺は戸惑いを隠せずにいた。


 えっ?もしかしてあーんしてくれるってことですか?

 やった!じゃなくてダメだろこれ。

 

 「いや別にあーんなんてしなくてもいいだろ」

 「えっ?でも本には普通にするって書いてあったよ」


 何だその虚偽の情報しか流さない本は。どこの本だよ。


 「そんな訳ないだろ」

 「まあいいじゃん。ほら」


 言ってハンバーガーをさらに強く突き出す夏穂だが俺は左右どちらにもカップルが居るのも相まって心の中の恥ずかしさがさらに増していた。


 けれどここまでされてはもう断るわけにもいかない。


 俺は仕方なく夏穂が差し出したハンバーガーを一口頬張った。


 「おいしい?」

 「おっおう」


 答えたものの罪悪感と恥ずかしさでまるで味が分からない。

 

 これ、どう考えても周りから見たらバカップルか美少女の弱みを握った悪い屑男にしか見えないよな…

 どっちも最悪すぎるだろ…


 その後、夏穂が食べれなかったハンバーガーとポテトを俺が全て食べてフードコートを後にした。


 なんか、食事しただけなはずなのにどっと疲れた…



 


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