第二話 友達とは?

  これはすべての物事に言えることだが、人間ある一つの事象について対処を行うのは事が起きてからになる。


 例えば事故や事件に遭遇した時に裁判や治療、賠償金などは事後にするもの。


 いくら想像できても対策していても、車に乗る前に裁判や賠償金を支払うことなんてまずありえない。


 それと同様に友達が今までいなかった俺は友達との関わり方など考えたこともなかった。


 当たり前だ。友達なんていないんだから。

 想像したことすら無かったから対策もしていない。


 なのでいざ会話をしようと思うとものすごく困ってしまう。


 「じゃあちょっと私は職員室に戻るけど、その間周りの人と話して仲良くしておいてくださいね」


 俺のクラス担任の女性教師がクラスに向けてそう告げると急ぎ足でクラスを退室して行った。


 すると、クラスメイト達は周りにいる席の人達とまだ入学式翌日の始業式だけあって少し小声で初々しく話し始めた。


 けれど俺と夏穂は一番後ろの目立たない席だけあって誰からも話しかけられる事はなく、お互いどうしたものかとチラチラと視線をお互いに向かせていた。


 「どうする?」


 前触れもなく出たその言葉は完全に会話を相手に委ねたどうしようもなく頼りなくてダサいものだった。


 「うーん…お互いの趣味の話とかする?」

 「なんだそれ?お見合いか何か?」

 「いや、小説とかだとよく帰り道にゲームとかドラマの話を友達同士でしていたから…あっそう言えば、昨日何をあんなに真剣に考えこんでいたの?」


 思い出したように俺に夏穂は聞いてきたがラノベについて考えていたと言っても

一般人に果たしてラノベが伝わるのだろうか。


 「まあちょっと小説についてな」

 「小説?なんの?」

 「…俺の」

 「えっ!自分で書いてるの!凄い!」


 眩い笑顔で言ってくれたがこいつが想像しているような小説ではないのでかなり引け目を感じてしまっている。


 伝え方が分からず誤魔化してみたが訂正しなくてはいかんな。


 「いや小説とは言ったけど絵がついていたり話がソフトだったり小説をもっと

フランクにした感じの小説を書いているんだ」

 「そんな小説あるの?」

 「ある。一般人向けではないそういう小説が」


 一般人ならばこれが普通の反応になるだろう。

 中学の時に俺が母親に『ラノベ作家になる』って伝えた時もこんなやり取りになったような気がする。


 「というか結構皆盛り上がってきてるね。始業式なのに」

 「あー確かにな」


 夏穂に言われて周りに目をやると初めと比べてかなり雰囲気が和んでおり、話し声も大きくなっていた。


 「まあ俺達みたいなボッチはコミュ力が低くて会話が成り立たないけど、普通の人なら初対面でもそれなりの話ができるみたいだしな」

 「ぼっちって一人ぼっちのこと?」

 「えっ?もちろんそうだけど。聞いたことないか?」

 「うん」


 マジか。さすがはお嬢様兼ボッチ。

 こういう普通に使用されているネット用語を知らないとかどんだけピュアなんだよ


 「というかずっと気になってたんだけど、翔馬の前の席の人今日も来てないね」


 夏穂の無知加減に驚愕していると夏穂は前の席を指してそう言ったが俺は前の席が空いていることに関して全く気にも留めていなかった。


 「今日もって昨日もいなかったのか?」

 「そう。入学式に休みなんて不運だなって思ってたから」


 確かに風邪なり病気なりで休んでいたのなら不運としか言いようがない。

 だけど入学式から不登校な人が一定数いると何処かで聞いたことがある。

 こんな俺でもきちんと高校に来ているのでしっかり来てほしいものだ。


 「まあでも俺のほうが入学式の帰りに倒れてるんだから不運だろ」

 「いやそんなことないでしょ。というかなんで倒れてたの?」

 「さっき言った小説の執筆による疲労」

 「倒れるくらい書いてたの?」

 「まあ締め切りもあるし」

 「そうなんだ。大変なんだ」

 「まあ大変だけど好きで書いてるだけだしな」

 「いいね。好きで打ち込めるものがあるって」

 「まあな」


言ったものの時折自分でもわからなくなる時があるのは否定できない。

ラノベを趣味なのか仕事なのかどちらで書いているのかが。

でも好きで始めたのは間違いない。しかし今は義務感のほうが強いかもしれない。

そんなことを思いながらも俺は微笑を浮かべて首肯をした。


 「お前は?そういうの無いのか?」

 「私は時間があればすべて何かしらの稽古にあてられるから趣味という趣味はないよ。だから熱中できるものがあるって羨ましい」

 「そっそうか」


 無粋なことを聞いてしまった。昨日言ってたこととさっきの言い方で何となく悟ってやるべきだったかもしれない。


 こういう時ってかわいそうとか言うと逆に憤慨させかねないと聞いてあ事がある。

 どういってフォローしてやるべきか…


 「というか結局趣味の話になったね」


 心の中が後悔と反省の念でいっぱいになっていると夏穂は全く気にせずに呆れ笑いしながらそう言った。


 「そういえば確かにな」


 けど、想像してたような畏まった会話ではなくて良く分からないけど友人ぽい会話になったのは幸いだったと思う。


 無粋なことを聞いてしまったのは大きく反省だが。


 「ごめん皆。お待たせ」


 昨日のように俺たちは向かい合って微笑し合った後、先生が教室に戻ってきてクラス中の声が止んだ。


 それは俺達も例外ではなく、椅子を整えて前を向く。


 しかしながら存外普通に会話をすることができた。


 友達がいたこともましてや想像したこともなかった俺であったが予想もしない結果にほんのり安堵感に浸っていた。


 友達とは。体験も想像もしたことが無いそんな問題を俺が答えられるわけがない。


 しかし今ならほんの少しだけ答えることができるかもしれない。

 そんな気がしていた。





 

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