プロローグ2 美少女との出会いは期せずして…
「えっ!?誰!?」
目が覚めたと同時に目の前に居た美少女から俺は瞬発的に身を引いて距離を置いた。
そんな俺を見て彼女もかなり驚いている様子でいるが状況がまるで吞み込めない。
何だこの億の金が回っていそうな豪華な部屋は!
何だこのふかふかの気持ちのいいソファは!
誰だこの美少女は!
あらゆる事に心の中でツッコんだところで答えが出るはずも無く、俺はただ慌てふためくことしかできなかった。
「落ち着いて。別に怪しい者じゃないわ。あなたが路上で倒れたのを見て、私の家で介抱していただけよ」
慌てる俺に宥めるように優しい声音で彼女はそう言った。
「ああそうですか。すいません、ありがとうございます。でもどうやって?」
彼女は俺と同い年くらいに見えたが念のため敬語で助けてくれた感謝の意を伝えると同時にそう尋ねた。
「私、学校はいつも私の家の使用人に送り迎えしてもらってて、その途中で倒れている君を見つけたから使用人に車に乗せてもらってここまで君を運んできたのよ」
薄々分かってはいたが使用人というワードで確信に変わった。
この子はお金持ちの子だ。
けれど不思議と彼女がそう答えてくれた声音には自慢や自尊などの揚々と語っているようにはとても見えなかった。
だから俺は苛立ちや嫉妬の感情が一切湧かなかった。
だけど一つ気になることがある。
「そうなんですね。ありがとうございます。でもなぜわざわざあなたの自宅に僕を連れてきたんですか?どうして救急車を呼ばなかったんですか?」
よく考えなくても倒れている人が居れば救急車を呼ぶのは普通なこと。
いくらお金持ちとはいえ、そこには疑問を持たざるを得なかった。
「ふっ」
不敵な笑みを浮かべて彼女はぐっと身を俺のほうへと寄せてくる。
女の子耐性のない俺は更に身を引いて緊張で体がびくびくと震え始める。
「私って可愛いと思う?」
突然その問いに対して俺は言葉を詰まらせるが心の中ではもう既に答えは出ていた。
そんなもんめちゃくちゃ可愛いに決まっているだろ。
「えっ?えっと~可愛いと思いますよ?」
コミュ障が故の謎の疑問形が発動しながらも俺は素直に答えたが例え彼女が可愛くなかったとしても助けてもらった人に『可愛くない』なんて到底言えるはずがない。
俺の答えを聞いた彼女は安堵の表情を浮かべて体をもとの位置に戻し、俺は緊張が解けて肩の力が抜ける。
「そっか。良かった。それを聞きたくてあなたをここに連れてきたの」
「えっ?それってどうゆうことですかね?」
「これ見てわからない?」
彼女は自分が来ている制服を指差して俺に何かをアピールしてくるが何にもぴんと来ない。
ただ似合っているとしか言いようがないのはわかる。
「えーっと…ちょっとわかんないです」
「えー分かんないの?私君と同じ高校の生徒だよってこと!」
「あーそうゆうことか」
自分の制服さえまともに見たことがないのに他人のましてや女子の制服なんて全く認知していなかったので全然気が付かなかった。
「はあ。君、堀越翔馬君でしょ?私は君の隣の席の萩野夏穂(はぎのかほ)
よろしくね」
「あっこちらこそよろしく。えっというか隣の席?ごめん全く知らなかった」
「だろうね。君、全くこっちなんて見向きもせず、自分の世界に集中してたもんね」
隣の席の人に助けてもらったのにも関わらず全く顔も名前も知らなかったなんてあまりにも失礼すぎる。
申し訳ない気持ちにかられて身がぎゅっと縮こまるが彼女、萩野さんは笑ってくれてはいる。
けどこの笑いは呆れ笑いな気がする。
その笑いが徐々に小さくなると彼女は神妙な表情に変わり俺に語り始める。
「なんで急に私が可愛いかなんて聞いたかというと入学式である今日、大体の男子が私に話しかけてくるか目線を向けてきた。でも隣の君だけは私に見向きもせずただ自分の世界に没頭していた。そんな君を見て思ったの、『うわっなんだこいつ』って」
「ははっだろうね」
「私が自分から発信したわけじゃないんだけど、どうやら私は可愛いみたい。だから男子が寄ってくる。それは私にとって普通なことだしそこに特別な感情はなかった。勿論、女子達からの嫉妬の目線も」
今まで淡々と語っていた彼女であったが最後の言葉だけは悲しさと寂しさが混ざったような特別な感情が混在していたような気がした。
「でも君だけは私に見向きもせずただ自分の世界に没頭していた。だから君が私のことを可愛いと思うか聞いて正常かどうかを判断したかっただけなの。隣の人が頭のおかしい人なんて絶対に嫌だからね」
何故そんな方法を?もっと別の方法がなかったのか?そんな質問は愚問だ。
萩野さんは恐らく人との接し方がよくわからないんだ。
さっきの話し方でそれがよく伝わってきた。
俺のコミュ障とはまた違って出来ないのではなくて知らない。
そしてしたいのに出来なかったんだ、きっと。
だからこんな不器用なやり方でしか俺を知ることができなかったんだ。
「でも普通の人で良かったよ、本当に」
言葉は安堵を示す言葉なのに彼女が吐いた声音は何処か暗く落ち込んでいるような声音なような気がした。
その声音で確信した。彼女は俺に期待していたんだ。
他の人とは違って見えた俺が他の人とは違う事を。
なら俺はその彼女の期待に応えてあげたい。
「いや、俺は普通の人じゃないよ。友人も勉強も全部捨てて、全く才能のない世界にただ全力を尽くす日々を送っている変人だよ俺は」
突然饒舌に否定した俺の言葉を聞いた彼女は何かに気が付いたようにパッと目を見開いて俺のほうをじっと見つめる。
「君は変人なの?」
「ああそうだ。だって入学式にクラスメイトに目もくれずただ俯いて自分の世界に没頭しているなんてどう考えても変人だろう」
「ふふ。確かに自分から変人を名乗るなんてどう考えても変人だね」
「でしょ?」
自慢げに俺が彼女に言うと俺達は何だか面白くて思わず笑い合う。
「これ」
少しの間、部屋中に俺と彼女の笑い声が響いた後、その余韻が残っている中、彼女は俺にスマホの画面を差し出した。
「これは…メッセージアプリのID?」
「そう。せっかくこうやって仲良くなれたんだから友達になりましょう」
「おっうん。ちょっと待って」
『友達になろう』なんて言葉は人生で一度も聞いたことがない言葉なので何処か恥ずかしくて俺は鼓動が速くなりながらも慌ててスマホを出し、メッセージアプリに
彼女のIDを入力した。
「OK。これでいつでも連絡が取れるね。よろしくね翔馬」
いきなりの名前呼びに一瞬心臓がドキッとなり頬の温度が高くなっているのが容易に分かった。
「よっよろしく、萩野…?」
「夏穂でいいよ」
「じゃあ夏穂」
「うん。よろしく」
こうして俺は期せずして人生初の友達が女の子、しかも美少女ができた。
「というかもうこんな時間だね。そろそろお父さん帰ってくるから」
「おっおう分かった。じゃあお暇するわ。助けてくれてありがとな」
「ううん。別に気にしなくていいよ」
金持ちの父というワードによる緊張により、普段絶対使わない謙譲語が出て
しまったが俺は立ち上がり颯爽と萩野家を後にした。
外に出て俯瞰で萩野家を始めてみたが敷地だけで何処かのドーム何十個分を用していそうな広さに何十億という金が動いていそうな豪華な建物にただ小並感で
『かねもちのいえ!』っという感想しか出てこない。
だけど辺りはもう暗く、携帯で時間を確認すると既に午後六時を指していた。
俺は一体何時間倒れていたのか。
本当に介抱してくれた夏穂には感謝しかない。
というかしまった!二週間後までに出さなきゃいけないラノベの内容何一つ決まってないじゃん!
早く帰宅して書かないと!
そう思った俺は一度疲労で倒れた体に鞭を打ち、急いで自宅へと向かった。
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