ラブコメ作家の俺、現実で理想のラブコメをする

平等望

プロローグ 現実でもラブコメは美少女との出会いから始まる

 入学式。それは現実でも物語でも華やかで緊張や期待であふれているもの。

桜が舞い、これから起こるであろう出会いや体験に理想を重ねて思わず頬を弛緩してしまうものだろう。


俺が書いているラブコメだってそうだ。高校の入学式は読者の引きを掴む為の大事なイベント。とても無下には出来ないものだ。


だからこそ俺は現実での大事な入学式というイベントを無下にしようとしていた。


どうゆうことか。それは俺、堀越翔馬(ほりこししょうま)はライトノベルのラブコメ作家だからだ。


けど声を大にして言えるほど大した作家ではなく、まだ一作品しか出版したことのないしがない作家だ。


しかもそれは1年半しか続かなかったという始末。今でも担当さんがついているのが本当に不思議だ。


だからこそ俺は現実の重要イベントなんて気にせず、その時間の一秒でもライトノベルを考える時間にしなければいけない。


 満開に咲くきれいな桜が期待に胸を膨らませ、キラキラした高校の新入生達を出迎える中、高校の入学なんて気にも留めていない俺だけは全く出迎えてくれていないようだった。


それもそうだ。昨日だって楽しみすぎて夜眠れなかった小学生のような人だっているはずなのに俺はというとラノベ内容がまるで思いつかず一睡もできなかったのだ。


目の下には真っ黒な隈を抱えて毎秒のようにため息をつく。


こんな奴出迎えてくれるわけないよな。


 喋るはずのない桜に対しても完全に悲観的になりながらも俺は高校の門をくぐり、くぐった直ぐに張り出してあったクラス発表の紙を一瞥して、自分のクラスを確認して校舎へと入る。


小学生の時からずっとボッチだった俺に同じ高校に通う事になった友達や知り合いなんているはずもなく、ただ重い足を持ち上げるように一歩一歩前に出して俺は自分の教室へと着いた。


教室に入り自分の席を確認すると、俺の席はラブコメ主人公の鉄板席である校庭の窓際の一番後ろ。


ラブコメでは確かにラブコメ主人公がよく座る席ではあるが現実では席の位置など関係がない。


けど一番後ろなのは都合がいい。比較的集中しやすくて授業に集中していないことがばれにくい。


 鞄を机の横にかけて、俺は周りの景色、音を消すように目を閉じて耳をふさぐ。


そして考えるのはもちろんライトノベル事だ。あと二週間のうちに出版社へと提出しないといけないのに内容すらまるで決まっていない。


本当に急がないとやばい状況に追い込まれている。


 その後も入学式や自己紹介、学校の大まかな説明などがあったが適当に流して俺はただラノベの内容を熟考するのに専念していた。


 「はいじゃあ今日はここまで。明日も色々やることあるからそのつもりで」


担任がそう言うと皆が一斉に立ち上がり下校の準備をするが俺はいつまで経っても納得のいく作品が思いつきすらしない自分に絶望して立ち上がることすら出来なかった。


まるで何も思いつかない。昨日からずっと考えているのに。


 何分経ったか分からないが俺は鞄を持って立ち上がり、教室を出て学校を後にした。


 入学式の帰り道、特に何かやらかしたわけではない。自己紹介で滑ったわけでもなければ遅刻して大目立ちしたわけでもない。


ただ自分への絶望と疲労から俺は壁を杖代わりにして帰り道を歩いていた。


どうして俺には才能がないのか。ただ初めて出版した時のあの喜びをもう一度味わいたいだけなのに。


どうしてこんなに疲れているのか。ただもう一度皆に自分の作品を読んでほしいだけなのに。


どうしてこんなにしんどいのか。ただ…ただ好きで書いていただけなのに…


 あふれそうな涙を顔を上げて抑え込んでいると突然体に力が入らなくなり、目の前がぐるぐると回り始める。


次第に真っ暗になっていき、俺はその場で倒れてしまった。


絶望からか?疲労からか?いやその両方が原因だろうな。


俺…弱いな…


 俺は意識を失ってしまった。



 「…起きて」


…何時間経っただろうか、俺は誰かに呼ばれているような気がして段々と意識がはっきりとしてくる。


「おーい。早く起きて」


誰かの声が聞こえる。誰だろう?救急隊員の人だろうか?


倒れている俺を見つけて誰かが救急車を呼んでくれたのだろうか?


そう思って重い瞼をゆっくりと開ける。


「あっやっと起きた!大丈夫君?」


すると俺の目に飛び込んできたのは豪華すぎるうえに広すぎる部屋の中で俺を嫣然とした表情で見下げる一人の金髪の美少女だった。


えっ?どうゆう状況ですかこれは?







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