第35話ハメルーン壊滅の危機

 ミカエル国王の愚行によって、暗黒古代竜エンシェント・ドラゴンバルドスが出現。

 国王は暗黒の炎によって、苦しみながら即死する。


『愚かなヤツめ。さて安眠を妨げた罰だ。この街も燃やし尽くしてやろうぞ!』


 バルドスの叫びが、ここまで聞こえてきた。

 いや、声をというよりは、頭に直接聞こえている感じ。魔力の念話みたいなものなのだろう。


 巨大な邪竜はゆっくりと、ハメルーンの街に向かって飛んでいく。

 間違いないく、ハメルーンを狙っているのだ。


「そ、そんなハメルーンは、ミカエル国王と関係ないのに! どうして⁉」


「落ち着け、ハルク。邪竜にとって人の国の境など、意味はないのだろう。目の前にあるから焼き尽くす……バルドスにとっては、そうなのじゃろう」


「そんな……」


 そんな理不尽なことがあるのか。ボクは目の前が真っ暗になる。


 このままで何の関係もないハメルーンの街が、あの巨大な邪竜に焼き尽くされてしまう。

 まだ街に残っている市民と、守備隊に危機が迫るのだ。


「ハルク君、ドルトンさん、あれを!」


 砲座いたサラが叫ぶ。

 バルドスの全身が赤く発光。急降下しながら、口を大きく開けていた。


 ヒューーーン、ゴォオオオオオン!


 直後、バルドスの口から、一筋の炎が発射。

 ハメルーンの街に直撃して、大きな火柱が立ち上がる。


「くそ。アレは竜の“火炎吐ブレス”じゃ!」


「竜の 火炎吐ブレス……アレが……」


 遠目でも分かるほどの、強力な攻撃。

 街のひと区画が、一瞬で火の海に包まれていた。


 運の良いことに、場所的にはそこは避難して、誰も市民がいない区画だ。


「でも、あのままバルドスを放置しておけば……」


 間違いなく人のいる区画にも、火炎吐ブレス発射されてしまう。

 そうなったら多くの市民が、あの破壊力の犠牲になるのだ。


「ああ……お婆様……」


 砲座のサラは悲痛な声を上げている。

 彼女の祖母はまだ魔術街にいた。頑固として非難しなかったのだ。

 このままでは間違いなく、魔術街に被害も及ぶだろう。


「むむ? 城壁から攻撃が? あれは守備隊を、街の連中か」


 ドルトンさんの指摘で、そちらに視線を向ける。

 上空のバルドスに向かって、ハメルーン守備隊が攻撃を開始したのだ。

 弓矢と魔法で遠距離攻撃をしている。


「それに……あっちは魔術街と冒険者じゃな?」


 バルドスに攻撃しているのは、守備隊だけはなかった。

 魔術街の魔術師と、冒険者ギルドのメンバーも、各個で上空に攻撃をしかけている。


 先ほどのような国家間の戦争には、基本的には魔術師ギルドや冒険者ギルドは介入しない。


 だが今回の相手は、街ごと滅ぼす邪悪な巨竜。

 自衛のために、彼らも動き出したのだ。


「でもドルトンさん、攻撃が……」

「ああ、そうじゃのう。ドルトンには、ほとんど効いていないな。暗黒でも流石は古代竜エンシェント・ドラゴンの防御力ということか……」


 二人の指摘とおりだった。

 街からの攻撃はバルドスに直撃はしている。

 だが魔法障壁と竜鱗によって、完全に弾かれていた。


「そんな……このままじゃハメルーンの街が……お婆様や、マリエル様、みんなが……」

「落ち着くのじゃ、サラ。ここでワシらが戦闘に駆け付けても、上空の相手が奴じゃ……」


 ドルトンさんの指摘は正しい。

 ハルク式荷馬車チャリオット《改》は先ほどの戦闘で、ほとんどのポーション弾薬と武装を使い果たしていた。


 残っている武装でも、空高く飛んでいるバルドスに対しては、有効な攻撃手段がないのだ。


 ――――だが、そんな時、ボクの中に“一つの疑問”が浮かび上がる。


 浮かんだのはとても初歩的なこと。

 この切羽詰まった状況で、口に出していいのか、少し迷う。


 でも今は街の危機で、躊躇している場合ではない。

 ドルトンさんに何気なく聞いてみる。


「あの……ドルトンさん。あのバルドスは“魔物危険度のランク”は、いくつ位なんですか?」


「なっ⁉ ハルク、何をいきなり聞いてくるのじゃ? 危険度ランクだと?」


 魔物の危険度ランクはF~Sまで段階的に、冒険者ギルドによって提示されている。

 冒険者ランクEの人なら、危険度Eの魔物なら倒せる……そんな感じの指針だ。


「実はボクの見ていた魔物辞典には、古代竜エンシェント・ドラゴンという魔物は、載っていなかったので。よかったら教えてください」


 ボクが気になったのは、バルドスの強さ。

“けっこう強そう”なのは見て分かる。

 だが何となく“あること”が気になっていたのだ。


「ハルク……その顔、もしかして、“あの巨竜を狩れそう”なのか、オヌシ⁉」


「え、ええ、はい。“そこまで強そう”に見えないので、ギリギリいけそうな気がします」


 これは直感だった。

 あのバルドスは巨大なわりに、危険度ランクが低いような気がするのだ。


 最初はいきなりの登場で、ビビッてしまった。でも冷静に観察してみたら、実はそれほどではないような気がしたのだ。


 この感覚的にボクは冒険者ランクFだから、たぶん少し上の危険度Dくらいかな、バルドス?

 少し格上だけど、戦い方によっては、なんとかなりそうな気がしていたのだ。


「くっくっく……そうか。あの伝説の暗黒古代竜エンシェント・ドラゴンバルドスを見て、『そこまで強そうに見えない』か! これは凄すぎて、ワシも変な笑いが出てくるぞ!」


 何がおかしいのか、ドルトンさんは大笑いする。

 一方でサラはキョトンとしながら、ボクのことを見てきた。


「ふう……だが、これで希望が見えた。ハルク、よく聞け。あのバルドスはおそらく“危険度ランクD”じゃ。今のオヌシではギリギリになるかもしれない。それでも討伐してくれるか?」


「危険度ランクD、やっぱり、そうか。はい、それなら何とかします! ヤツは上空にいるから、みんなの攻撃が効かないんだと思います。とりあえずボクの方で、地面に引きずり落としてみます!」


 守備隊や街の攻撃している人たちは、ボクよりも強い人ばかり。

 今は相手が上空にいて、攻撃が効かないのだろう。


 きっとボクが地面にバルドスを引きずり落としたら、あとは皆は一撃で倒せそうな気がする。


「ああ、頼んだぞ、ハルク。だがオヌシが全力で戦う時は、必ず街から離れてから、バルドスと戦ってくれ。街の被害を減らすためにじゃ」


「はい、分かりました! まずはアイツの気を引きつけて、郊外に誘導してみます。地面に引きずり落とすのは、それからにしますね!」


 あの巨体が街に落下したら、それだけも沢山の被害がでる。

 作戦の第一段階は、バルドスの意識をボクに向けることにした。


「ふむ。頼んじゃぞ、ハルク。ワシらは街の救助に向かう!」

「はい、お願いします」


「ハルク君……気をつけてね!」

「ありがとう。サラもね!」


 ドルトンさんが運転して、サラとハルク式荷馬車チャリオット《改》で、ハメルーンの街に向けて出発していく。

 車体は全てミスリル製だから、救助活動も大丈夫だろう。


「さてと……」


 平野に残されたのは、ボク一人。


 あと戦闘不能状態のミスリル兵たちだけだ。

 この人たちに被害が及ばない、反対側の草原にバルドスを引きつけよう。


「“ランクDの魔物”狩りか……かなり緊張するけど、頑張ろう。ハメルーンの街を守るために!」


 バルドスに向かって、ボクは駆け出す。

 駆けながら作戦を考えていく。


「まずはアイツの気を引く必要がある。そのためには何かで攻撃しないと。ボクの狩りの道具の中で、遠距離道具といえば? あっ、そうか!」


 遠距離攻撃に相応しい、自分の道具の存在を思い出す。


「よし、【収納】!」


 駆けながら収納から、道具を取り出す。


 取り出したのは初心者でも使える、機械式の弓矢の“いしゆみ”。


 そういえばドルトンさんが最近、名付けてくれた新しい名がある。


 ――――その名も“城破壊弩バリスタ”だ!


「これは一角ウサギ用の弱い弓だから、通じるか分からないけど……いくぞ、バルドス!」


 こうして暗黒古代竜エンシェント・ドラゴンバルドス討伐戦が幕を開ける。


 ――――今までハルクが作りあげてきたチート破壊兵器が、火を噴く時間がやってきたのだ!

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