第36話バルドス戦、開幕
ハメルーンの街を守るため、暗黒
ヤツの気を引き、街の上空から引き離す必要がある。
ボクが収納から取り出したのは、一角ウサギ狩りに使った
テコの原理と歯車で、事前に弓の弦を引く初心者向け弓矢だ。
ボクは特製の矢をセット。
自分の身体よりも、“少しだけ”大きめな“
「狙いをつけて……発射!」
カチッ、ギュ――――ン!
ボクの身体よりも“少しだけ”長い特製の矢が、発射されていく。
発射の反動で、周囲の空気が衝撃波を放つ。
ビュュウウ――――!
矢は空気を切り裂き、一直線に巨竜に向かう。
――――ズシャアアアア!
よし、命中。
バルドスの後ろ足を貫通できた。
『ンギャァアアア! な、なんだ、今の攻撃は⁉ まさか《神槍》の投擲攻撃か⁉ もしくは《大賢者》からの極限魔法攻撃か⁉』
攻撃を受けて、バルドスは咆哮を上げていた。
周囲を見渡しながら、攻撃してきた相手を探している。
「よし、まだボクに気が付いていないぞ。第二射……発射!」
次弾を装填し、ボクは引き金を引く。
ギュン! ――――ズシャアアアア!
よし、二発目も無事に命中。
バルドスの前足の先を、吹き飛ばす。
『ンギャァアアア! どこだ⁉ ん⁉ ま、まさか、あんな超遠距離から、だと⁉ しかも、あの武器は……弓だと⁉』
咆哮するバルドスと、ボクは視線が合う。こちらの存在に気がついたのだ。
こうなったら一方的に遠距離攻撃することは難しい。
『グラァアアアアア! 何者か知らんが、焼き殺してやるゥウ!』
バルドスはハメルーンから、ボクの方へ進路を変える。
よし、挑発に引っかかってくれた。このまま街の郊外にまで誘導する。
「ふう……いくぞ。いつもより、“少しだけ速く”駆けるか!」
障害物のない空を、相手は飛んでくる邪竜。
ボクは平原を駆けながら、相手に追いつかれないようにする。
「よし、この辺なら、大丈夫かな」
到着したのは、ハメルーンから離れた荒野。
周囲には民家や畑もなく、人の気配は全くない。
ここならバルドスが暴れても、人的被害はないだろう。
「ヤツは……よし、きた」
向こうの空から、巨大な竜が接近してくる。
先ほどの先制攻撃を受けて、激怒しているバルドスだ。
「次の作戦は『ヤツを地面に引きずり落とす』だ。そのための道具は何がいいかな? 高い高度にいる竜を、引っ張って落とせる道具は? あっ、そうだ!」
引きつけ攻撃に相応しい、自分の道具の存在を思い出す。
「よし、【収納】!」
収納から、道具を取り出す。取り出したのは一本の釣竿。
ミスリル製のルアー針が、先端に付いている。
これもドルトンさんが最近、名付けてくれた新しい名がある。
――――その名も“
「これは魚用だから、通じるか分からないけど……いくぞ!」
接近してくるバルドスの口に、狙をつける。
釣竿を思いっきり振りかぶり、ルアーを投げ込む。
シュン、シュイーーーーン!
釣竿の先端が、音の速度を瞬時に超える。
ルアー針も空気を切り裂きながら、一直線にバルドスに向かっていく。
ズシャッ――――!
見事にバルドスの口の中に命中。竜牙の間に、しっかり引っかかっている。
「よし、釣ってやるぞ!」
ボクは釣竿の巻リールで、釣り糸を巻いていく。リールに抵抗がある。
バルドスはかなり大きいが、なんとかこのくらいならいけそう。
やはりランクDしかないので、巨体は見掛け倒しなのかもしれない。
『ンギャァアアア! な、なんだ、この口に挟まっている“聖剣のような鋭い刃物”は⁉ 鋭い上に、外すことができないぞ⁉ しかも、この“始原の巨人”のように引っ張る、この超怪力は一体なんなのだぁあ⁉』
初めて食らう攻撃なのであろう。バルドスは混乱しながら落下してくる。
「よし、あそこに落としてやる!」
最後の仕上げ。
釣竿を横に倒して、バルドスを地面に叩きつける。
ドッ、ガーーーーーーン!
衝撃で地震のような地鳴りが、響き渡る。周囲に凄まじい爆風と、衝撃波が引き起こる。
『ンギャァアアア! こ、これはマズイ⁉ 急いで空に戻らないと!』
落下の衝撃で、ルアー針は外れていた。
自由になったバルドスは、大きな羽を広げ、再び空に逃げようとする。
「そうはさせない! 【収納】!」
新しい道具と取り出す。
釣竿と一緒に作った魚用の網、ミスリル製の投網だ。
ドルトンさんが名付けてくれた新しい名、
――――その名も“
「これは魚用だから、通じるか分からないけど……いくぞ!」
“
目的は攻撃ではなく、バルドスの羽を絡ませるのだ。
シュン、シャキーーーン!
投網はバルドスに命中。
鋭い斬撃音をさせ、バルドスの羽を粉々に切り裂く。かなり不思議な現象だ。
『ンギャァアアア! ワ、我の竜羽が⁉ 剣神にすら傷つけられなかった、超強度の羽がぁ⁉』
でもボクにとっては好都合。羽を失いバルドスは、もはや飛ぶことが出来ない。
よし、後はハメルーンから援軍が来るまで、少しでもバルドスにダメージを与えていこう。
『グラァアアアアア! 許さんぞ、この矮小なゴミめぇ!』
怒り狂ったバルドスは、退避を断念。ボクを睨みつけながら、攻撃の体勢に入る。
『我の攻撃で、押し潰れえろぉお!』
バルドスは身体をひねらせ、尻尾で攻撃してくる。
千年大樹のように極太で鋭い尻尾だ。
これをまともに受けたらマズイ。
「低い位置の攻撃を、迎撃するには……【収納】!」
ボクは瞬時に判断、新しい道具を取り出す。
取り出したのは、鋭い先端の鎌。
バリン草を採取の時に使った、大矛のような大きさのミスリル鎌。
――――その名は“
「いくぞ!」
“
狙うは迫ってくる、バルドスの巨大な尻尾だ。
シュン! ビューーン! ザク!
カウンター攻撃が命中。
バルドスの尻尾は根元から切断さて、吹き飛んでいく。
『ンギャァアアア! ワ、我の竜尾が⁉ 魔王にすら傷つけられなかった、自慢の我の尻尾がぁぁああ、なぜぇえ⁉』
尻尾を切断され、バルドスは更なる咆哮を上げる。かなり怯んだ様子だ。
よし、今がチャンス。
このまま追撃して、胴体にもダメージを与えよう。
『グラァアアアアア! 許さんぞぉ! 許さんぞぉ! 【
バルドスが何かを唱える全身から、強い魔力を感じる。
シャアーーーン!
バルドスの巨体が、漆黒に光り出す。
シュウウウ……
次の瞬間、バルドスの傷が塞がっていく。
ボロボロだった羽と尻尾も、徐々に再生されていた。
「えっ? 回復魔法⁉ 完全に再生はさせない!」
焦ったボクは“
バルドスの胴体に斬撃を加える。
ガッ、キーーン!
だが
「くっ……」
ボクは一旦距離をとって、状況を観察する。
さっきは尻尾に攻撃が通じたのに、いったいどうして?
『ギャッハッハ! 竜魔法を発動した我の防御力を、舐めるなぁあ!』
バルドスは勝ち誇った顔をしている。
なるほど、そういうことか。
どうやら先ほどのバルドスの発動した【
効果は傷の自動回復と、防御力の大幅な向上。あと、あの分だと攻撃力も上昇しているはず。
特に防御力の上昇は、かなり厄介だ。
「ボクの道具が通じない、か。困ったぞ、これは……」
思わず声を漏らしてしまう。
何か打開策を考えないと。
◇
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