第43話 夢の続き
まだ街が完全に目覚める前の時間。
僕は待ち合わせ場所に向かって自転車を漕いでいた。
待ち合わせの時間にはまだずいぶんと早い。
けれどじっとしていられなくて、気付けばペダルを漕いでいた。
夏の終わりの朝は、けれどまだ蝉の声も聞こえるし、空は抜けるように青かった。
いつもは坂の途中で降りてしまう上り坂も、全体重をかけて漕ぎ続けた。
息を弾ませながら、頭の中ではずっと鏡華さんのことを考えていた。
はじめて夢が繋がっていると知ったときから、今に至るまで、長いように感じていたけどたった数ヵ月の話だ。
待ち合わせの場所に到着すると、既に鏡華さんがいた。
かなり早いけれど僕は驚かなかった。
きっと彼女は既にそこにいると確信さえしていた。
「おはようございます、空也くん」
彼女の方も同じだったらしく、驚いた顔をせずニッコリと微笑んだ。
「おはよう、鏡華さん」
自転車を停めて鏡華さんのもとに歩み寄る。
夢の中で気持ちを伝えあったけど、実際に顔を会わすとやはりかなり照れくさい。
緊張と運動の相乗効果で胸の鼓動は最高潮だ。
「鏡華さん、ずっと好きでした。僕と付き合ってください」
告白すると鏡華さんはきょとんとした顔になる。
「え? それはさっき私が伝えましたけど……」
「あれは夢の中でしょ? 現実世界では僕から伝えたくて」
笑ってくれるかと思いきや、鏡華さんは唇を尖らせて不服そうな顔になった。
「いいえ、ダメです。先に告白したのは私ですから。今さら空也くんが告白したところでその事実は変わりません」
「え? なにそのこだわり」
「だってそうじゃないですか! 私は勇気を振り絞って告白したんですよ! フラれたらどうしようとか、加奈枝さんを傷つけてしまうとか、色んなことを覚悟して告白したんです。今さら結果が分かった状態で告白されて、先に自分が告白したなんてズルいです」
不思議なこだわりを聞かされ、おかしくなって笑った。
鏡華さんのことは大体分かった気でいたけれど、まだまだ僕の知らない彼女はたくさんいるのだろう。
「でも加奈枝さんには本当に申し訳ないことをしたと思って……自分の気持ちを優先させて人を傷つけるなんて、私は自分勝手で最低です」
「最低なんかじゃないよ」
「でも加奈枝さんはっ」
涙を溢れさせた鏡華さんを包むように抱き締める。
「あいつもきっと分かっていたんだよ。僕が鏡華さんを好きなことも、鏡華さんが僕を好きなことも……人を恋する気持ちを最低だなんて言わないで」
「空也くん……」
鏡華さんは僕の腕のなかで子どものように声を上げて泣いた。
興奮してどんどん熱を帯びてくる身体を強く抱き締め、少しでもその苦しみを共有しようとしていた。
その祈りが通じたのか、それとも単に泣きつかれたのか、鏡華さんの鳴き声がゆっくりと収まっていく。
「加奈枝に叱られないよう、いつまでも幸せに愛し合おうよ」
「……はい」
涙目で上目遣いをする鏡華さんの顔が目の前にある。
数秒見つめあってからゆっくりと顔を近づけると、鏡華さんは柔らかくまぶたを閉じた。
その唇に、ゆっくりとキスをする。
その瞬間、全身が痺れたように震えた。
柔世の中にこんなに柔らかいものがあるのかと驚くくらい、鏡華さんの唇は柔らかかった。
名残惜しげに唇を離すと、鏡華さんは恥ずかしそうに微笑んだ。
「夢の中で誤ってキスしたけど、本当にキスするのとは全然違うんだね」
「ゆ、ゆ夢の中でキス!?」
「ほら、仮面の女に騙されて顔がぶつかったことあったでしょ」
「あっ……あっちのことでしたか」
「あっちのこと? ほかにもキスしたことあった?」
「い、いえなんでもないんです!」
鏡華さんは顔を真っ赤にさせてブンブンと手を振った。
おかしな鏡華さんだ。
気付けば七時も回っており、眠っていた街も次第に活気が出てきていた。
「少し早いですけど、そろそろ学校にいきましょうか?」
「そうだね」
歩き出そうとすると、鏡華さんがそっと手を握ってくる。
「恋人繋ぎ、してください」
「えっ!? う、うん。いいよ」
指を一本づつ絡めるように手を繋ぐ。
彼女の指は細くて、力を込めると折れてしまうんじゃないかと不安になるほどだった。
「空也くん」
「なに?」
「大好きです」
鏡華さんはエサをつつく魚のような素早さで僕にキスをした。
顔を真っ赤にして目をそらす姿が堪らなく愛おしかった。
──
────
最悪の事態が起きてしまった。
ヘッド博士と仮面の女が出会い、意気投合してしまったのだ。
巨大な竜に乗り、上空から地上に攻撃を開始していた。
「早く止めないと大変なことになります!」
鎧を身をまとった鏡華さんが空を見上げて唇を噛む。
「まさかあの二人が出会って手を組むとはな」
相変わらず夢の中は波瀾万丈だ。
「でもどうやって止めればいいんでしょう?」
「やはり飛んで戦うしかないか」
「それより地上から砲撃した方が確実よ」
「へ?」
驚いて振り返ると司令官的な服を身にまとった加奈枝が立っていた。
「加奈枝さんっ!」
「なんで加奈枝が……消えたんじゃなかったのか!?」
「消えようと思ったんだけど、もしかしたらそのうち鏡華と空也が別れるかもしれないなって思い直して」
「なんですか、それ! 別れませんから!」
鏡華さんは喜んでいいのか、怒っていいのか分からない顔をしてツッこむ。
「付き合ってみたらガッカリしたとかあるでしょ。鏡華って飽きっぽそうだし」
「そんなことありません! 私はずーっと空也くんと付き合うんですから!」
「ま、勝負はまだまだこれからってことで」
二人がバチバチと火花を散らしている間にもヘッド博士たちは地面を火の海に変えている。
「ほら!二人とも! 早くしないと世界が滅ぼされるから!」
「あ、そうでした」
「勝負は一旦お預けで」
僕たちは慌てて対龍砲撃台へと駆けていった。
《どうやら日置さんと僕の夢は繋がっているらしい》
終わり
────────────────────
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました!
本作は以上となります!
夢が繋がったことで心も繋がった二人。
加奈枝ちゃんはまだまだ諦めなさそうですけれど、いつまでもお幸せに!
次回作はまたガラッと変わった最強ヒロインもののお話を用意してます!
よかったらそちらもお楽しみに!
これからも商業、Web両方で頑張っていきます。
よかったら作品や作者フォローをよろしくお願いします!
どうやら日沖さんと僕の夢は繋がっているらしい 鹿ノ倉いるか @kanokura
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