第41話 この気持ちを言葉に変えて
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どこまでも広がるだだっ広いひまわり畑。
がさがさっと音がして、タンクトップにハーフパンツ姿の加奈枝が飛び出てきた。
「おそーい! 待ちくたびれたし」
「鏡華さんは?」
そう訊ねると加奈枝はあからさまに不快そうな顔をした。
「なんでいきなりそんなこと言うわけ? あたしと二人じゃ不満?」
「そういう意味じゃないって」
「ふんっ!」
「こんばんは」
最悪のタイミングで鏡華さんがやって来る。
僕らの間に流れる不穏な空気を察したようだが、何事もなかったかのようにニコニコしていた。
「すごく素敵なところですね! あ、そうだ。空を飛んで上から眺めてみませんか?」
「空中遊泳であたしに勝てるとか思ってるわけ?」
「別に鏡華さんは勝負しようなんて言ってないだろ」
「いいですよ。勝負です、加奈枝さん」
そう言うなり、鏡華さんは弾けるように空に飛び上がった。
「すぐ捕まえるし!」
加奈枝はちょっとにやけながらすぐに鏡華さんを追いかける。
口は悪いけど楽しそうだ。
なんだかんだ言っても友達ができたことが嬉しいのだろう。
もし鏡華さんに告白をしたらその結果に関わらず加奈枝との関係にも影響が出るのは間違いない。
そう考えると更に軽はずみな行動はできないと臆病になる。
いや、そういう言い訳を一つひとつ見つけては自分の意気地のなさを正当化しているだけなのかもしれない。
鬼ごっこはいつしか僕も参加させられた。
鏡華さんも加奈枝も空を飛ぶのが上手く、結局僕が鬼となり二人を追うパターンが続く。
しまいには二人で僕を煽る共同プレイまで見せはじめ、ヘロヘロにさせられた。
さんざん鬼ごっこをしたあとは鉄塔の頂上で三人並んで腰掛け、眼下に広がるミニチュアの街を見下ろしていた。
「二人とも飛ぶの上手すぎ」
「空也が下手なだけだから」
「鳥をイメージすると楽ですよ」
「えー? あたしは飛行機」
加奈枝は投げ出した足をプラプラさせて歯を見せて笑っている。
「それにしても空也たち明日からまた学校でしょ? おつー」
「やけに嬉しそうだな」
「だってあたしは休みだもーん。おばけにゃ学校も試験もなんにもない!」
「羨ましいな」
「でしょー?」
ニヤニヤする加奈枝の隣で、鏡華さんはなにやら思い詰めた顔をしはじめていた。
それに加奈枝も気がつく。
「どうしたの、鏡華?」
「ごめん……加奈枝さん……」
真剣な目で見詰められ、加奈枝の顔からも笑顔が消えていく。
嫌な胸騒ぎがした。
「ごめんね、加奈枝さん。私──」
「いや。聞きたくない。言わないで」
鏡華さんはゆっくり、小さく息を吸い込み、そして僕を見た。
「私、空也くんが好きです。どうしようもないくらい、すごく好きなんです」
「え?」
突然の告白に息が止まる。
「そんなのだめ! あたしの方が先に好きだった!」
「ごめんなさい。でも無理なんです。もう気持ちを抑えることが出来くて」
「鏡華さん……」
もちろん嬉しい。
けれど同じくらい戸惑っていた。
「すいません。いきなりこんなこと言われても困りますよね……」
「困るというより驚いてしまって」
「ダメだよ、空也!あたしと結婚するって言ったでしょ!」
加奈枝は僕の腕にしがみつき、目を潤ませる。
「加奈枝……僕は──」
「答えはいりません! 今のは私の気持ちを伝えただけなんです」
鏡華さんが微笑みながら僕の目を見る。
「モヤモヤした気持ちを抱えながら三人で遊ぶのはよくないと思ったんです。内緒で恋慕を抱くのも加奈枝さんを裏切っている気がして。だから三人でいるときに伝えたかったんです」
「そんなのいらない! 勝手に一人でモヤモヤしてたらいいじゃん! あたしらの邪魔しないで!」
加奈枝は感極まって涙をこぼす。
痛々しい姿を見ていられなかったが、目を逸らすわけにはいかなかった。
「あたしも好き! 空也のこと、好きなの……お願い、空也……」
ここで自分の気持ちを隠したり偽るのは加奈枝にも、鏡華さんにも、なにより自分にも不誠実だ。
ぎゅっと歯を食い縛り、加奈枝の瞳を見詰める。
「ごめん、加奈枝。僕も鏡華さんが好きなんだ」
「知ってるし! そんなのずっと前から知ってたし! なんで言うのよ!」
「ごめんな、加奈枝……」
「謝るくらいなら言わなきゃいいじゃん! バカなの!」
加奈枝は目を真っ赤にして僕を睨んでいた。
振り返って鏡華さんを見ると、やはり赤い目をして僕を見詰めていた。
もう一度加奈枝を見詰めて言葉を続けた。
「こんな気持ちになったのははじめてなんだ。こどもの頃、加奈枝とも仲良くなれて嬉しかった。一緒にいて楽しかった。でも鏡華さんに抱いた気持ちは、そんな気持ちとは違っていた。楽しいというのもあるけれど、不安だったり、苦しかったり、そわそわしたり……」
「ずるい……ずるいよ……あたしは死んじゃってるから、生きてる鏡華には絶対勝てないもんっ……」
「ごめんなさい……加奈枝さん」
「うるさい! あんたなんて夢に出てこなきゃよかったのに!」
そう叫ぶなり加奈枝は猛スピードで飛んでいってしまう。
「加奈枝っ」
「加奈枝さんっ!」
僕らは慌てて追い掛ける。
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更新が滞ってしまい、大変失礼しました。
遂に気持ちを伝えあった二人。
しかし時にそれは誰かを傷つけてしまうことにもなる。
果たして二人の恋の行方は!?
そして傷ついた加奈枝はどうなるのか?
いよいよクライマックスです!
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