第36話 ハプニング衝突

 クルーザーの船内に入って驚いた。

 まるで豪華客船のように広く、天井も高かった。

 大広間的なスペースではたくさんの人が集まり、テーブルに置かれたご馳走を食べている。

 ジャズバンドが生演奏をし、ボーイはフロアを滑るように動いてシャンパンやカクテルを配ってた。


「すごいですね、これ」

「わー! 夢みたい!」

「まぁ夢だからね」


 思わずそう呟くと鏡華さんと加奈枝に睨まれてしまった。


「夢のないこと言わないでください」

「マジ冷めるし」

「ごめん」


 いがみ合う二人だけど、そこだけは息ピッタリだ。


「あらあら。ずいぶんとおてんばなレディも参加してるのね、このパーティー」

「あっ、あなたは!」


 深紅のドレスに身を包んだ仮面の女が冷笑しながら現れた。


「お久し振りね、日沖さん、加奈枝ちゃん」

「現れたな、ビッチ仮面!」


 加奈枝はなぜかカンフーの構えをして仮面の女に退治する。


「加奈枝さんも仮面の女さんを知ってるんですか?」

「もちろん。何度も恥かかされたんだから!」


 一時休戦としたのか、二人は並んで仮面の女を睨み付ける。


「ここは紳士と淑女の社交場よ。おへそまで隠れるパンツを穿いた女児の来るところじゃないの」

「なっ……そんなも──」

「うるさい! お腹冷やすとよくないんだから! ね、鏡華!」

「え、あのっ……はい」


 加奈枝の思わぬカミングアウトに戸惑ったが、話をあわせてあげる辺り、さすがは鏡華さんだ。


「あらあら。冗談だったのに。そんな色気のない下着見せたら空也が萎えちゃうわよ。ねえ?」

「いや、そんなことは……」

「エロ! 変態! 空也にパンツなんて見せないし!」


 キャンキャンと吠える加奈枝に仮面の女は顔をしかめる。


「うるさい子たちね。お仕置きよ」


 仮面の女がふわりと羽の扇子をあおぐと突風が吹いた。


「きゃあぁあ!」

「あ、ダメです、ちょっと!」


 二人は風に飛ばされ、宙を舞う。

 必死にスカートの裾を押さえていたがパンツが丸見えだ。


「み、見てないで助けてください、空也くん!」

「ちょ、鏡華! お姉さんパンツ穿いてるし! 裏切り者!」

「今はそれどころじゃないでしょ!」


 言い争う二人を見て、仮面の女はニヤニヤ笑いながら扇子をあおいでいた。


「やめろ、仮面の女! 二人を下ろせ!」

「怒ったのかしら? 可愛いわね」


 仮面の女が扇を止めると二人はそのまま落下した。


「きゃああっ!?」

「痛っ! もっと丁寧におろしなさいよ!」

「レディなら華麗に着地するものよ」


 さすがは仮面の女だ。完全に二人をイラつかせていた。


「今日こそお前を捕まえてその仮面を剥いでやる!」

「勇ましいのね、空也くん」

「余裕かましていられるのも今のうちだぞ。こっちは三人だからな!」


 僕たちは仮面の女を囲むように散らばり、ゆっくりと間合いを詰めていく。

 しかしいつものごとく仮面の女は焦る気配もなく、手にもった扇をふわりと頭上で構えた。

 またあの扇を使って攻撃を仕掛けてくるんだろうか?


「行くぞ、仮面の女!」

「えいっ!」


 僕が駆け出すと合わせて鏡華さんも飛び掛かる。


「残念でした」


 仮面の女はふわっと浮き上がる。

 標的を失った僕の目の前に、突撃してくる鏡華さんが目の前まで迫っていた。


「わっ!?」

「きゃあっ!?」


 勢いがつきすぎているし、距離も近すぎる。

 回避は不可能だ。


 ドンッ……


 せめて鏡華さんにダメージがないよう抱き止める格好で正面衝突する。

 その際、ほんの一瞬だけど──


「ッッ!」


 唇と唇が触れてしまった……


「ッッ……ご、ごめん」

「い、いえ……」


 鏡華さんは顔を真っ赤にしてうつ向く。


「あー!? いま、キスしてなかった!?」


 加奈枝は僕たちを指差して吠える。


「キスなんてするか! ぶつかっただけだろ!」

「一緒だよ! 唇同士がくっついたならキス! 彼女の前で他の女の子とキスするなんて!」


 加奈枝は涙目で訴える。

 一方鏡華さんは唇を指で軽く隠してうつ向いたままだ。


「あらあら。痴話喧嘩ならよそでやってくださるかしら?」


 仮面の女は扇で口許を隠して可笑しそうに嗤っていた。

 言葉とは裏腹に興味津々で成り行きを見ている。

 相変わらず腹黒い奴だ。


「いまはそれどころじゃないだろ」

「じゃああたしにもして! それでチャラにするから」

「はぁ!? なんでだよ」

「モテるのねー、空也くん。どうする?」


 仮面の女はこういう痴話喧嘩みたいなものが好きなようだ。

 いつも以上にノリノリである。

 そこでハッと妙案が浮かんだ。


 よし、今日こそ仮面の女に一矢報いてやる!




 ────────────────────



 妙案が浮かんだ空也くん。

 今日こそ仮面の女に一泡ふかせてやれるのでしょうか?

 ていうか事故とはいえキスをしてしまった二人。

 鏡華さんは完全に言葉を失ってしまってます。










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