第35話 いま、エッチなこと考えてましたね!

 やがてシャワーの音が止まり、しばらくすると僕の部屋着を身につけた鏡華さんが戻ってきた。


「シャワー、ありがとうございました」

「本当にごめんね。怪我とかしてない?」

「大丈夫です」

「あ、そうだ。そろそろ洗濯終わるし干さないと」


 洗濯機へ向かおうとすると慌てて腕を掴んで止められる。


「そ、それは私がしますからっ」

「悪いよ。僕がお茶をこぼしたんだし」

「ダメです! だって……その、パンツとかブラジャーも洗ってますから」


 鏡華さんは顔を真っ赤にしてモジっと身体を捩る。


「あ、そっ、そっか! ごめん!」


 考えてみれば当たり前だ。

 あれだけ派手にこぼしたら下着も濡れるだろう。


 鏡華さんはトットットと小走りで洗濯機へ向かい、そのままベランダに干しに行った。


「ごめんね。乾燥機があればすぐに乾くのに」

「大丈夫ですよ。日差しが強くてこれだけ暑いんですから。すぐ乾きます」


 部屋に戻ってきた鏡華さんは新しいクッションの上に座った。

 僕のTシャツもハーフパンツもブカブカで、なんだかちょっと可愛らしい。

 もっとも胸元だけはちょっと窮屈そうだけど。


 ん?

 いまブラジャー、干してるんだよな?

 じゃああの下は素肌で、胸元の先の少し尖っているのは……


「い、いまエッチなこと考えてましたね!」


 鏡華さんは腕で身体を隠すように身を縮める。


「か、考えてないっ! 考えてないから!」

「ウソです。なんかエッチな顔してました」


 どうでもいいけど鏡華さん、そんなに膝を立てちゃダメだ。

 ハーパンもブカブカで、しかもパンツを干しているということをお忘れなく……


 さすがに目のやり場に困るので洗濯物が乾く間、父のDVDでも見て過ごすことにした。

 映画好きの父さんは映画館でも映画を観るが、気に入った作品はDVDでコレクションをしている。


『ラブ・アクチュアリー』『英国王のスピーチ』『運命じゃない人』『初恋の来た道』などジャンルも国籍も人気作もマイナー作もバラバラで統一感のないコレクションだ。


「あ、これ。気になっていた作品です」

「へー。じゃあこれにしてみようか」


 鏡華さんが選んだのは『ジョゼと虎と魚たち』という作品だった。

 アニメ映画で聞いたことがあったが、実写版もあったらしい。


 しかしそのセレクションは間違いだった。

 冒頭からエッチなシーンで、僕たちは気まずさで固まってしまう。


「っっ……」


 鏡華さんはクッションを抱き締め、顔の下半分を隠して画面を見詰めていた。


「か、変えよっか……」


 リモコンを取ろうとすると、その手を彼女に握られてしまった。


「いいです……このまま観ましょう」

「そ、そう?」


 別にエッチな映画というわけではないのでその後は普通に物語が展開されていった。

 でも冒頭の衝撃で沈黙した空気はそのまま引きずってしまっていた。

 僕の意識はずっと引き出しの奥の0.01mmに向いてしまっていた。


 一時間ほど経ったところで服が乾いたので着替えてもらう。


 僕の服を着た鏡華さんは刺激的だったけど、やはりいつもの可愛らしい彼女が一番だ。


 その後はビデオの続きを観たり、ゲームをして楽しんだ。

 鏡華さんはキャラ通りほとんどゲームをしたことがなかったらしく大はしゃぎだった。


「今夜はゲームの夢を見そうです」

「熱中してたもんね」


 時刻が午後四時を過ぎ、鏡華さんは帰る支度を始める。

 もっと一緒にいたかったが、そろそろ妹が帰ってくる。


「あ、そういえば0.01㎜──」

「プール楽しみだね! いつ行こうか?」


 薄々勘づく様子もないのだから、やはり鏡華さんは穢れなき女の子だ。



 ──

 ────



 夕日に赤く色づく街を、僕は船の上から眺めていた。

 振り返ると水平線は赤く燃えており、目を開けているのも辛いほどだ。


「こんばんは、空也くん」


 長い髪を海風で踊らせた鏡華さんが微笑む。


「こんばんは、鏡華さん」

「今日はクルーザーで船上パーティーみたいですね。素敵」


 鏡華さんはマキシ丈でノースリーブのサマードレスがよく似合っていた。

 普通の女子高生が着たら服だけ浮いてしまいそうだけど、さすが鏡華さんである。


「うわぁー! 超きれい!」


 加奈枝がバタバタと慌ただしく駆けてきた。

 同じくサマードレスを着ているが、完全に親に無理矢理ドレスを着させられた小学生感しかない。


「うわ、鏡華もいるし!」

「それは私の台詞です。ここは私の夢でもあるんですから!」


 少しロマンチックな空気も加奈枝の乱入でぶち壊しである。


「ねえ、クルーザーの中に入ろう! きっと美味しい料理が並んでるって!」

「おい、ちょっと加奈枝」


 加奈枝は僕の腕を掴んで引っ張る。

 振り払えずについていく僕を見て、鏡華さんは不服そうに冷たい眼差しを向けていた。




 ────────────────────



 なんとか清らかな関係が保てた空也くん。偉いぞ(怒)


 さて今回はクルーザーでナイトパーティー!

 とんだパリピ野郎ですね!


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