第30話 小5シスターズのパリピごっこ

 お盆が近付き、鏡華さんは予定通り家族と旅行に出掛けてしまった。

 行き先は幸い国内なので時差はない。

 直接会えないのはちょっと残念だけど、夢で会えるので寂しくはなかった。


「奈帆ちゃん、三時方向に敵発見!」

「よし、舞衣ちゃん挟み撃ちにしよう!」


 今日も奈帆ちゃんは我が家に遊びにきている。

 夏休みに入ってから毎日のように我が家に入り浸っていた。

 両親が仕事なので我が家で預かっているようなものだ。


「ぬあー! やられた!」

「あーん。私もやられちゃったよ」


 今日はサバイバルアクションゲーム『ポートライト』をしているようだ。

 十三歳以上という規制があるのに小学生に大人気という変わったゲームである。


「君たち、遊んでばかりじゃなくて宿題はしたのか?」

「当たり前だし。朝イチでやったよ!」

「偉そうに。どうせ全部奈帆ちゃんに教えてもらったんだろ」

「別にいいじゃん。うるさいなぁ」


 うちの妹も成績優秀な奈帆ちゃんを見習ってほしいものである。


「いつもありがとうね、奈帆ちゃん」

「い、いえ……」


 感謝され、奈帆ちゃんは照れくさそうに顔を赤くしていた。


「ところで君たち、お昼はそうめんでいい?」

「えー? またぁ?」


 舞衣が露骨に不平を口にする。

 お母さんが用意していくこともあるが、忙しい日は僕が作らなくてはならない。

 そうなると必然的にそうめんやらラーメン、パスタなどの麺類が増える。


「私はなんでも大丈夫です!」

「ダメだよ。ちゃんと躾けないとお兄ちゃんはすぐ楽するんだから!」


 偉そうな妹様にイラッとする。

 とはいえ奈帆ちゃんの家からお昼ご飯代を頂いているらしいし、育ち盛りの二人に簡単なものばかり出すのも可哀想だ。

 仕方なくオムライスとサラダを作る。

 女の子なんだから妹たちも料理を覚えてもらいたいものだ。


「ねぇお兄ちゃん。お昼からプールがしたい」

「ブール? 舞衣たちだけで行けばいいだろ。五年生なら保護者なしで25メートルプールに入れるんだし」

「違う。市民プールじゃなくて庭でやるプール」

「え? あのピニールの? 子どもが遊ぶものだろ」


 たしかまだあるはずだけど五年生が入るようなものじゃない。


「いいの。プールに入りながらジュースとか飲みたいし」

「なんだよ、そのセレブごっこみたいな遊びは」

「ダメ?」


 奈帆ちゃんが申し訳なさそうに上目遣いで訊ねてくる。

 舞衣の頼みなら即却下だけど奈帆ちゃんにお願いされると弱い。


「仕方ないな。用意するよ」

「やったぁ!」


 二人はハイタッチで喜ぶ。

 あんなものの何が楽しいんだか。


 庭でプールといっても、我が家に庭なんて優雅なものはないので駐車場だ。

 プールを膨らまし、水を入れていると水着に着替えた二人がやって来る。


「おー! プールだ!」

「もう着替えたのか? まだ水入れてるところだぞ」

「いいのいいの! 入ろう、奈帆ちゃん!」

「うん!」

「水入れてからしばらく日に当てておかないと冷たいぞ」

「きゃー! つめたーい!」


 全く僕の言うことを聞かない舞衣は水の冷たさに悲鳴を上げる。

 とはいえ怯むことなく、むしろその冷たさもはしゃいで楽しんでいる。

 はじめて自分が『若くない』と感じさせられた出来事であった。


 奈帆ちゃんはプールを用意している間に水着を取りに帰ったのだろう、自分の水着を着ていた。

 スクール水着の舞衣と違い、ドット柄の可愛らしいタンキニだ。


「どう、お兄ちゃん? 奈帆ちゃんの水着姿、可愛いでしょ?」

「ああ、そうだな。よく似合ってる」

「だってさー、奈帆ちゃん!」

「も、もうやめてよ舞衣ちゃん!」


 奈帆ちゃんは顔を真っ赤にして水を舞衣にかける。

 もちろん舞衣も反撃で水をかけ返していた。

 いかにも女子小学生らしい光景だ。


 僕は彼女らのちょっぴり背伸びした夢を叶えるためにキッチンに向かう。

 バナナと牛乳、そして氷、シロップなどをミキサーにかけ、バナナフラペチーノもどきを作る。

 隠し味にレモンを入れて酸味もプラスさせたら砕いたチョコを振りかける。

 市販のジュースよりは健康的なはずだ。


「ほら、お待たせ。お嬢様たち。バナナフラペチーノですよ」

「うわぁ! お兄ちゃんありがとう!」

「おいしそう! いただきまぁーす!」


 二人は目を輝かせて幸せそうに飲む。

 舞衣はどこから見つけてきたのか、おもちゃのサングラスなんてかけてすっかりパリピ気分だ。



 夕飯を終え、一息ついている時間に鏡華さんから電話の着信があった。

 スマホで動画を見る妹やテレビを観る両親にバレないよう、さりげなく家を出ながら通話をオンにする。


「こんばんは」

「こんばんは? こっちはまだお昼だよ」

「うそ。時差なんてありませんから」


 僕の軽いボケを笑いながらツッこんでくれる。


「旅行楽しんでる?」

「はい! 今日は遊覧船に乗ったんですけど、海水を巻き込んだ風がとても気持ちよくて──」


 鏡華さんは旅の思い出をあれこれと話してくれる。

 今夜は温泉旅館に泊まるそうだ。

 行ったことのない温泉街の知らない路地を歩く鏡華さんを想像する。


「楽しいのが伝わってくるよ。じゃあまた今夜、夢の中で」

「こんなに遠く離れていても夢は繋がるものなんでしょうか?」

「どうかな? でもきっと距離は関係ないんだよ」

「きっとそうですね! それではまた、夢の中で」


 通話を切ってから夏の夜空を見上げた。

 この空が繋がっているように、僕と鏡華さんの夢も、きっと繋がっている。

 そんなことを思って大きく息を吸い込んだ。




 ────────────────────



 なんだかんだ言って甲斐甲斐しく妹たちの面倒を見る優しい空也くん。

 そして鏡華さんは旅先でエンジョイ。

 夏休みですねー!

 さて二人の夢は離れていても繋がるのでしょうか?

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