第31話 アイドルステージバトル

 ──

 ────


 大きな鏡が並ぶ控え室。

 僕の前にはアイドル衣装を着た鏡華さんが立っていた。


「あ、空也くん。ちゃんと会えましたね、こんばんは」

「あー、よかった。やっぱり距離は関係ないんだね」

「でも今夜は嫌な予感しかしないです」


 鏡華さんは不安な顔をして自らのひらひら衣装に視線を落としていた。

 以前の『最強アイドル決定戦』以来のアイドル姿の鏡華さんだ。

 本人には申し訳ないけど神回としか言いようがない。


「似合ってると思うけどなー」

「空也くんはプロデューサーという立場でステージに上がらないからそんな気楽なことが言えるんです」

「まあそうだけど。でも同級生がアイドルなんてテンション上がるよ」

「変な趣味ですね。私がひらひらのミニスカート穿いてみんなに見られるのがそんなに楽しいですか?」

「そういう意味じゃないって。それに鏡華さんなら本物のアイドルより可愛いし」

「えっ!?」


 思わず口が滑って本音を漏らすと、鏡華さんは顔を真っ赤にしてモジモジしてしまう。

 そんな微妙な空気を無視するように控え室のドアが勢いよく開いた。


「見て見て、空也! あたし可愛いでしょ!」

「加奈枝っ!? お前までアイドルになったのかよ!」


 加奈枝の衣装は黒のピタッとしたTシャツに赤のタイトミニスカートというクール系のアイドル衣装だ。

 ちなみにTシャツの丈は短く、おへそはおろかお腹丸出しである。


「へー。鏡華はセーラー服っぽいひらひらの衣装か。いかにも計算高い腹黒清楚系って感じで似合ってるよ」

「す、好きで着てるんじゃありません! それにアイドルといえばこういう衣装ですから」


 鏡華さんはいくつかの王道アイドルグループとそのメンバーの名前を挙げて自分の正当性を訴える。

 ていうか結構アイドルに詳しい。

 あまりの詳しさに加奈枝も「そ、そうなんだ」とちょっと引いている。

 恥ずかしがっているが、実は内心ノリノリなのではないだろうか?


「でも正統派アイドルとか今どき流行らないから。いまは女子に支持されるアクティブでクールなアイドルの時代なの」

「は? なんにも分かってないのは加奈枝さんの方です。アイドルとはいつの時代もかわいく華やかに、みんなを明るく元気にさせる存在なんです。小さな女の子も憧れる存在なんですから。そもそもクールなアイドルなんて一時のブームです」


 ひとつ言うと何倍にもして返される。

 いつもは押し気味の加奈枝が今日は完全に押されていた。


「能書きはいいし。アイドルならアイドルらしくステージで勝負しよう」

「ええ。望むところです」


 二人は冷たい火花を散らして視線を絡めあう。

 これは激しいバトルが展開されそうだ。

 でもアイドルってステージで戦うものなんだっけ?


 どうやら今日のイベントは鏡華さん率いる『ファイブ・リップス』と加奈枝率いる『パルクールガール』の対決イベントらしい。

 審査員は観客全員で一曲ごとに投票を行い、五曲づつ披露して勝利チームを決めるシステムだ。

 じゃんけんで先行はパルクールガール、後攻はファイブ・リップスと決まった。

 僕は最前列でその戦いを見守る。


 パルクールガールのステージはその名の通り壁やら段差などを設置し、それらを跳んだり駆け回りながらダンスをして歌うという派手なものだった。


 斬新なステージに観客たちは熱狂する。

 特にリーダーの加奈枝は高いところからバク転で飛び降りたり、階段の手すりをお尻で滑り降りたりやりたい放題のおてんばぶりである。

 夢の中だからなんでもありとはいえ、やり過ぎだ。


 ぶっちゃけ歌の内容なんてあまり覚えてないけれど迫力あるステージに魅了されてしまった。


 観客のほとんどが興奮の余韻を引きずったまま、後攻のファイブ・リップスのステージが始まった。

 トラディショナルスタイルの王道アイドルパフォーマンスは可愛らしいし、ダンスや歌のレベルも高い。

 けれど先ほどのパルクールダンスを見たあとだとどうしても物足りなさを感じてしまう。


 一回目の投票は倍くらいの差をつけられ、パルクールガールの勝利となった。


(この結果はさすがに凹んじゃったかな?)


 そんな不安を感じたとき、ステージ上で鏡華さんが声を上げた。


「みんな、大丈夫です! 次も頑張りましょう!」


 鏡華さんは力強い眼差してメンバーを鼓舞していた。

 鏡華さんの心は全然折れていない。

 むしろ気合いが入ったように見える。

 まだまだ僕は鏡華さんのことを知らないんだなと感じさせられた。


 弱気になりかけていたメンバーもリーダーの頼もしい声に「はい!」と声を合わせる。


 二回目のステージ、相変わらず加奈枝たちはステージをところ狭しと駆け回った。

 一方鏡華さんたちはしっとりとラブバラードを熱唱した。

 その指先まで疎かにしない動きで会場の空気は変わる。

 二回目の投票はファイブ・リップスに軍配が上がる。


 加奈枝は闘志剥き出しの眼差しで鏡華さんを見る。

 鏡華さんも力のこもった眼差してその視線を受け止めていた。



 ────────────────────



 鏡華さんと加奈枝の戦い、再び!

 今度はアイドルで勝負です!

 果たしてどちらが最強アイドルになるのでしょうか?

 引き続き白熱バトルをお楽しみください!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る