第28話 加奈枝との対面
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僕と鏡華さんはローカル線に乗って、僕の生まれ故郷に向かっていた。
加奈枝のことを説明するよりも直接あってもらった方が早いと思ったからだ。
もちろん鏡華さんは乗り気じゃなかったけれど、半ば強引に連れ出した。
きっとここで誤解されたままだったらこの先ずっと鏡華さんとの距離が縮まらない。
そう危惧してのことだった。
「今さらですけど私が加奈枝さんとお会いしたのは夢の中ですよ? 実際にあったところで向こうはなんのことだか分からないと思いますけど」
「まぁ、そうなんだけど」
普段の鏡華さんなら車窓を眺めて楽しそうにしているのだろうけど、今日は浮かない顔をしている。
「それとも空也くんは加奈枝さんとも夢で繋がってるんですか?」
「いや、それはないと思う、たぶん」
鏡華さんは「はぁ」とため息を漏らす。
「こんなこと言うのもアレですけど……夢の中で加奈枝さんがあんなに空也くんにベタベタしてきたのは、空也くんの願望が混じってるんだと思います」
「それは違うって! 願望が夢になるって言うなら毎日楽しい夢を見るはずでしょ。殺人鬼に追いかけられたり、ヘッド博士に意地悪されたりしないはずじゃん」
「それはそうですけど……でも昨日の空也くんは嬉しそうでした。デレデレしちゃって」
どこをどう見れば昨日の僕がデレデレしていたように見えたのか謎すぎる。
反論しかけたけど水掛け論になりそうなので堪えた。
それに恐らく加奈枝に会えば鏡華さんも分かってくれるだろう。
僕の生まれた町は電車で乗り継いで小一時間のところにある。
意外と近いけれど景色はまるで違う。
「夢で見たのと同じ景色ですね」
緑豊かな景色を見て少し機嫌がよくなったらしく、鏡華さんは少し微笑んでいる。
でも僕は逆にちょっと辺りの気配を
なにかが、違う。
その違和感の正体は商店街に入って気付いた。
萎びた商店街の店のシャッターがほとんどしまっていたのだ。
時刻はまもなく正午。
開店前というわけではないだろう。
仏前に備える花がメインの花屋さんも、誰だか分からない人のポスターを飾っていた時計屋さんも、ショーケースに誰が買うのか謎の高級肉を陳列させていた精肉店も、みんなシャッターを下ろしていた。
瀕死状態で細く長く生き長らえていた商店街が死に貧している。
「なんで……素敵な商店街だったのに」
生まれてはじめて訪れた鏡華さんでさえ悲しんでいた。
呆然とする僕たちの脇をおばあさんが通り掛かった。
「あの、すいません」
「はい?」
「この商店街、ほとんどの店が閉まってるみたいなんですけど、いつからこうなったんですか?」
そう訊ねるとおばあさんは悲しそうに笑って商店街を振り返った。
「二年前くらいかな。郊外に大きなショッピングモールが出来てね。それから一気に人通りが消えて、お店も廃業していったのよ」
それはきっと、日本国中あちこちで起こっている現象なんだろう。
今さらそれを憂うほど子どもじゃないし、地元愛に熱いわけでもない。
それでもやはり、胸の奥で無責任で身勝手な虚しさを感じてしまう。
商店街以外も似たようなものだった。
町全体が古びて活気がない。
所々回りの景色から浮いているような新築の家があるだけで、町全体はなにかの終末に向かっているかのように思えた。
さすがに小学校だけは昔と変わらなかったけど、学校前の文房具店はシャッターが閉まっている。
森近くの駄菓子屋は言うまでもなく閉まっているだろうと思っていたが、意外にもここは昔のままに営業していた。
よく考えてみれば僕が通っていた頃から採算度外視みたいな営業形態だった。
ここは店主のおばあさんが健在な限り続けていくのだろう。
「さっきからどこに向かってるんですか? どんどん住宅街から離れているんですけど、加奈枝さんの家はそんなに遠いんですか?」
「いや、着いた。ここだよ」
「えっ……ここって……」
「墓地だよ。ここで加奈枝は眠っているんだ」
「えっ……!?」
鏡華さんは目を大きく開き、言葉を失う。
シャンシャンと鳴く蝉の声が一際大きくなった気がした。
加奈枝が亡くなったのは小学四年生の夏だ。
大雨の翌日、加奈枝は一人で川に遊びに行っていた。
本当は僕も遊ぶ約束だったけど、前日の雨に濡れて夏風邪に罹ってしまった。
思いのほか水嵩が増した川で遊んでいた加奈枝は足を取られて流されたらしい。
発見されたのはずいぶん下流だったそうだ。
加奈枝の死を知らされたのは翌日だった。
大人たちがただならぬ気配で動いていたのでなにかよくないことが起きたことは察していた。
でもまさか、加奈枝が死んだなんて、想像もしていなかった。
「もし僕も一緒だったら、加奈枝は死ななかったかもしれない」
「それは……」
鏡華さんはなにか言いかけて口をつぐんだ。
「それから何度も加奈枝は夢に出てきた。決して僕を責めず、普通に接してきた。加奈枝がまだ生きているようで嬉しくもあり、そして怖くもあった。いつか『僕が見殺しにした』って言われるんじゃないかって」
朝早くに買っておいた花を鞄から取り出し、お墓に備える。
加奈枝のお墓が綺麗に掃除されているのを見て、ご両親の傷はまだ生々しく残っているのを感じた。
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謎の彼女の正体は、とても悲しい思い出と共にありました。
二人はこの壁を乗り越えていけるのでしょうか?
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