第98話秋の女・佐藤春夫:遠ざかって行く時雨の恋歌

佐藤春夫の「秋の女」を読みました。

『佐藤春夫詩集』(一九二六年・第一書房)に掲載の一篇です。

青空文庫で読めます。

https://www.aozora.gr.jp/cards/001763/card59947.html

佐藤春夫は、(一八九二年~一九六四年)日本の詩人、作家。明治末期から昭和にかけて活躍しました。


弟子が多いことでも知られていて、、太宰治、檀一雄、吉行淳之介、柴田錬三郎、遠藤周作、安岡章太郎など、後に著名な作家になった人も多くいます。


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秋の女よ


    佐藤 春夫


泣き濡れて 秋の女よ

わが幻のなかにる、

泣き濡れた秋の女を

時雨しぐれだとわたしは思ふ、


泣き濡れて 秋の女よ

れは古城の道に去る、

うなぢ柳葉やなぎはがちりかかる

枯れたはちすを見もしない、


泣き濡れて 秋の女よ

れがあゆみは一歩ひとあし一歩ひとあし

愛する者から遠ざかる

泣き濡れて泣き濡れて、


泣き濡れて 秋の女よ

わが幻のなかに去る、

泣き濡れた秋の女を

時雨だとわたしは思ふ、


一しきりわたしを泣かせ

またなぐさめて 秋の女よ、

凄まじく枯れた古城の道を

わが心だとわたしは思ふ


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 青空文庫で『佐藤春夫詩集』をを読んでいて、この詩にさしかかったとき、なぜか、突然、脳裡に自然と曲が流れたのです。


 自分でも「あれ?」と思って、もう一度読み返してみたら、合唱曲になっている詩で、かつて歌ったことのある歌でした。


 タイトルを「あきの おんな」と読んでしまったので、気がつかなかったようです。「あきの おみな」と読みます。

 大中恵作曲「ピアノ伴奏による五つのうた」(海の若者・秋の女よ・花笛・沼・別れの唄・バスのうた)の一曲でした。


 どこで歌ったか、いつ歌ったのか記憶にないのですが、主旋律ではなく、対旋律、それもアルトパートが思い浮かんだので、きっと、歌ったことがあるのだろうと思います。


 しっとりと、艶っぽくて、淋しくて、少し演歌に近い詩だなという感じがしました。


男の幻に映る女は、泣き濡れて遠ざかって行く後姿。(きっと着物姿の美しい女性)。

冬に向かって木々の葉が落ちた古城の道を、(おそらく石畳の細い道)一歩、一歩離れて行ってしまう。


そんな女性を、なすすべもなく、立ち尽くして見送る男は、女を「時雨」だと思う。

時雨は、一瞬激しく降って、すぐに上がる通り雨。


一瞬燃え上がった恋が、いまは過ぎ去ってしまって、二人は何も言わずに離れていく。

ドラマチックな妄想が広がりました。

(記:2022-10-10)


参考:ユーチューブ 秋の女

https://www.youtube.com/watch?v=jWdMVH2uZv0

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