第95話ぼくもいくさに征くのだけれど・竹内浩三:本当はそうじゃないんだ……
竹内浩三の『ぼくもいくさに征くのだけれど』を読みました。
青空文庫で読めます。
https://www.aozora.gr.jp/cards/001675/card54774.html
底本は「竹内浩三全作品集 日本が見えない 全1巻」(二〇〇一年藤原書店 )
竹内 浩三は、一九二一年~一九四五年三重県出身の詩人。
一九四二年友人の中井利亮・野村一雄・土屋陽一らと同人誌『伊勢文学』を創刊しますが、同年に大学を繰り上げ卒業して入営。
一九四五年四月フィリピンルソン島で戦死。遺骨や遺品が無いため、お墓には学生帽が納められているといいます。
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ぼくもいくさに征くのだけれど
竹内浩三
街はいくさがたりであふれ
どこへいっても征くはなし 勝ったはなし
三ヶ月もたてばぼくも征くのだけれど
だけど こうしてぼんやりしている
ぼくがいくさに征ったなら
一体ぼくはなにするだろう
てがらたてるかな
だれもかれもおとこならみんな征く
ぼくも征くのだけれど
征くのだけれど
なんにもできず 蝶をとったり
子供とあそんだり
うっかりしていて戦死するかしら
そんなまぬけなぼくなので
どうか人なみにいくさができますよう
成田山に願かけた
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詩人のプロフィールを知ると、この飄々とした詩が、突然、ものすごく重たいものに感じられてきます。
当時、世間はみんな戦勝ムードで、華々しい戦争の話題が飛び交っていましたが、ドラマや映画に描かれているように、勇ましく意気揚々と、出征する青年なんていないのだと思います。
みんな心の奥底では、恐怖があり、葛藤があり、複雑な心を抱えて、それでも周りを心配させまいと笑っているのだと思います。
「征くのだけど」「征くのだけど」と、詩の中で何度も繰り返しているのが、詩人の本心を表しているように感じます。
本当は征きたくなんかないんだよ、平凡に普通に、蝶をとったり、子供と遊んだりして暮らしていたいんだよ。叫びが聞こえてきそうです。
成田山は、成田山新勝寺のこと。千葉県成田市にあるお寺です。歌舞伎の市川海老蔵さんが、御練りをすることなどで知られています。
今現在、ウクライナで起きているロシアによる侵攻もそう。戦っているのはみんな若い兵士で、犠牲になるのは武器を持たない一般庶民。
上層で侵攻を命令している為政者は、安全な場所で眺めています。
なんともやりきれない、嫌な世界になってしまったのだと思います。
あの時、否応なしに戦いに赴いて、戻ってこられなかった人たちのためにも、戦争で泣く人が増えてはいけない。
それなのに、何をしたらいいのかわからず、僅かばかりの募金をして、心を痛めるだけの日々ではあります。
(記:2022-08-10)
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