詩を読む

第89話めぐりあひ・ 佐藤惣之助:世界が変わって見えるほどの喜び

佐藤惣之助の「めぐりあひ」を読みました。詩集『季節の馬車』の中の一篇です。

青空文庫で読めます。

https://www.aozora.gr.jp/cards/000577/card48568.html

　佐藤惣之助は、一八九〇年神奈川県生まれの詩人、作詞家です。

処女詩集『正義の兜』（一九一六年）をはじめ、『狂へる歌』『満月の川』など複数の詩集、句集、散文集などを出版しています。

また、『赤城の子守唄』『人生の並木路』『人生劇場』『大阪タイガースの歌』(六甲颪)など、多くの歌謡曲の歌詞も世に出しています。

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　 めぐりあひ

　　　　　　　　　　佐藤惣之助

ふかい年月のあひだ僕のこころに

るゐるゐとしてかくれてゐた美しいものが

今こんなにも明るい地球の春の朝紅あさやけとなつて

寶玉をふくんだともし火のやうに

かくかくと僕の眼にうかんで來たのか

それは逢ふべくして逢へなかつた

心の城の姉妹のやうに

このきよらかな朝の境界線にたつて

ふたたびめぐりあひし喜び！

あらあらしかつた僕は今さらに

その尊い姉妹を尊敬しようとおもふ。

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　最初、何の知識もないままに読んで、誰か大切な人と出会ったことの喜びを詠った詩かと思いました。

「逢ふべくして逢へなかつた　心の城の姉妹」が何なのかわからなくて、何に巡り会ったことが、これほどの喜びにつながっているのか、想像が及びませんでした。

　実は、今でも良くわかってはいませんが、きっと詩人にとって、とても大切な人、愛しい人に巡り会ったに違いないと感じました。

　めぐりあったことによって、詩人の世界が、それまでよりも明るく美しいものに変わったのです。

「であい」も「めぐりあい」も美しい言葉ですが、「めぐりあい」はより強く、求めて、求めて、求め続けていたものに、やっと会えたというイメージがあります。

　佐藤惣之助氏は一九一一年（明治四四年）に従妹である川田花枝さんと結婚していますので、もしかすると、「尊い姉妹」は、奥様のことだったかもしれません。

（川田花枝さんは一9九三三年（昭和八年）に亡くなって、その後、萩原朔太郎の妹、萩原愛子さんと再婚しています）

　めぐりあった人が、誰だったとしても、詩からはのその人を慈しむ気持ちがあふれているように感じます。

（記：2020-12-08）