第69話手ぶくろ・山村暮鳥:短い詩からひろがる物語

山村暮鳥作の「手ぶくろ」を読みました。

青空文庫で読みました。

https://www.aozora.gr.jp/cards/000136/card45052.html


底本は『日本児童文学大系』第14巻(ぽるぷ出版)、親本は昭和十六年(一九四一年)『春の膿のうた』(教文館)です。


 山村暮鳥(一八八四年~一九二四年)は、群馬県生まれの詩人、児童文学者。神学校在学中に、詩や短歌の創作をはじめました。


 卒業後はキリスト教の伝道師道師として各地をまわり、布教活動をしながら作品を書きました。萩原朔太郎、室生犀星らと「にんぎょ詩社」を設立して機関誌「卓水噴水」を発行。

 晩年は結核のため伝道活動を休止し、大正十三年(一九二四年)に四十歳で亡くなりました。


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手ぶくろ


       山村暮鳥


あたしの

手套てぶくろ

桔梗色ききやういろ


雪のある日は

おもひだす

なくした

一つの手ぶくろよ


のこった

一つの手ぶくろよ


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 なくしてしまった手袋を詠んだ児童詩です。

短い詩で、読んだ文そのままの意味なのですが、色々と想像をめぐらせて自由に楽しむことができます。


 読み手それぞれに好きなストーリーが思い浮かぶと思いますが、私はこんな物語を想像しました。


 お母さんが編んでくれた手ぶくろでしょうか。桔梗色は、青みのある紫色です。女の子のものにしてはシックな色なので、もしかすると、お母さんが自分のセーターをほぐして編み直してくれたものかもしれません。


 大切にしていたのでしょうけれど、今、手元には片方の手ぶくろしかないのです。雪がが降ると、いつも思い出すのでした。


 あの日は、雪が降って、家並みも、木々もすべて真っ白でした。いつもとは違う風景に浮かれて、雪の上を転がりまわって遊んでいました。


 気がつくと、大事な手ぶくろの片方が見当たりません。どこに落としてしまったのだろう、懸命にあたりをさがしましたが見つかりませんでした。


夕方になって、あたりが暗くなるまでみつけましたが、ありません。せっかく編んでくれたお母さんは、なんと言うだろう、きっと叱られる。

泣きながら家へ帰ると、心配したお母さんが、戸口に立っているのでした。


 残ったもう片方の手ぶくろを眺めると、なぜか愛おしい、

幼いあの日の想い出や、寒さでかじかんだ手を、やさしく温めてくれた母のぬくもりを思い出すのでした。

(記:2017-10-06)

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