第64話わすれな草・竹下夢二:恋しい人を思ってたたずむ樹下美人

竹下夢二の「わすれな草」を読みました。

絵入り小唄集『どんたく』の中の一篇です。青空文庫で読めます。

https://www.aozora.gr.jp/cards/000212/card1048.html

底本は、『どんたく』(一九九三年中公文庫)。初版発行は一九一三年(大正二年)『どんたく』(実業之日本社)です。


竹久夢二は、一八八四年(明治十七)年生まれの日本画家、詩人です。

夢二式美人として有名な美人画を多数描いていて、大正ロマンを代表する画家です。詩や歌詞、童話なども書いていて、「宵待草」は曲がつけられて、愛唱家として親しまれています。


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わすれな草


         竹久夢二


たもとの風を身にしめて

ゆふべゆふべのものおもひ。

ずえはるかにみわたせば

わかれてきぬる窓の

なみだぐましきひかりかな。


たもとをだいて木によれば

やぶれておつるふみがらの

またつくろはむすべもがな。


わすれなくさ

なれが

なづけしひとも泣きたまひしや。


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 絵入り小唄集『どんたく』の中では、「日本のむすめ」というタイトルの後に、「宵待草」があって、その次にこの「わすれな草」が置かれています。


 竹下夢二の美人画そのままの詩です。文語体なのでわかりにくい部分もありましたが、あえて語釈を考えずにイメージで読んでみました。


 袂をゆらす風が身に染みる夕べに、娘がひとりたたずんで遠くを見ています。はるかな野末のその先には、涙ながらに別れてきた、あのお方の家の灯があるのです。


 袂を胸に抱きしめて、木に寄りかかってみれば、文(手紙)がはらりと落ちるのでした。破れるほどに何度も読み返した文なのでしょう、繕うすべもなく破れたまま大切に身につけて持っていたのです。


「わすれな草よ」と娘は呼びかけます。はじめてお前の名をつけた人も、私のように恋しい人を思って泣いたのかしらと。


 なんとも一途で純情な娘の思いが描かれています。

木の下にたたずむ女性は、樹下美人の構図として古くから描かれてきたモチーフですが、この詩もまさに、もの思いに樹下にただずむ女性、樹下美人図の構図を表現しているように感じます。

(記:2016-11-25)

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