第36話僕の国・スチーブンソン:子供は空想の世界であそぶ

スチーブンソンの「僕の国」 (新美南吉・訳)を読みました。

青空文庫で読めます。

https://www.aozora.gr.jp/cards/000888/card45120.html

底本は『日本児童文学大系第二八巻』(一九七八年ぽるぷ出版)です。


スチーブンソン(一八五〇年~一八九四年)は、ロバート・ルイス・スチーブンソン。イギリスの作家で、エッセイも書いています。小説『宝島』『ジキル博士とハイド氏』の作者として有名です。


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僕の国


       スチーブンソン 新美南吉・訳


光つて泉の湧くそばに

僕の小さなくぼがある。

 僕の丈ほどふかくない。

はりえにしだなど生えてゐる。

夏には夏の花が咲く。

 黄つぽい花や赤い花。


泉を僕は海と呼ぶ

あたりの丘を山と呼ぶ。

 そんなに僕は小いのだ。

僕はつくつた舩や町。

僕はさがした洞や穴。

 洞や穴には名をつけた。


あたりのものは僕のもの、

頭の上の雀でも、

 泉の中の小ばやでも。

ここでは僕は王様だ。

僕は蜂どもうたはせる。

 僕は燕をあそばせる。


ここより広い海はない。

ここより大きな原はない。

 僕よりほかに王はない。

けれど日暮が来た時に、

母さんの声が呼びに来た。

 「坊やお帰りごはんだよ。」


窪よさよなら僕のくぼ。

泉さよなら、よい水よ。

 花もさよなら僕の花。

そしてお家にきて見れば、

何て大きな乳母だらう。

 何て冷い部屋だろう。


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 子供の頃には、自分だけの世界がありました。


ちょっとした窪地や、木登りの枝の上、小川の川辺の草むらなど、お気に入りの場所が「僕の国」だったのです。


 小さな水たまりは大海原に、丘の草むらは深くて大きな森に。そこには不思議な植物や、見たことも無い動物が住んで、いつでも少年を迎入れてくれます。そして、僕の王国で満ち足りた時間を過ごすのです。


 大人には秘密の素晴らしいひととき。スチーブンソンの冒険小説も少年の頃の想像力のたまものだったのかもしれませんね。


 現代の子どもも同じです。ポケモンやどらえもんも楽しいけれど、自分だけの空想世界を楽しむのもいい。


そういう中から、やがて、新しい時代のポケモンやどらえもんが作り出されるのでしょう。


 夢の王国は、母さんの「坊やお帰りごはんだよ。」の呼び声で現実に戻ります。

名残惜しく思いながらも、ちゃんと、空想と現実のバランスはとれています。


   イギリスの乳母、ナニーは、しつけが厳格なことで知られていますが、「何て大きな乳母だらう。」と、子供の目からは威圧的に感じられます。


 また,自分の家を「 何て冷い部屋だろう。」と、感じているのが、ちょっと気がかりです。イギリスの気候と石作りの家がそう感じさせるのかもしれません。


  子ども心に冷たく感じられる家だからこそ。窪地の僕の王国がなおさら暖かく優しい場所なのでしょうね。

(記:2016-08-31)

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