第31話花火・北原白秋: 独りで見るのは寂しい夏の風物詩

北原白秋の「花火」を読みました。

『東京景物詩』に掲載されている一篇です。青空文庫で読みました

https://www.aozora.gr.jp/cards/000106/card49617.html

底本は『白秋全集3』(岩波書店)です。


北原白秋は一八八五年(明治十八年)生まれの日本を代表する詩人で、短歌や童謡なども多く書いています。一九四二年(昭和十七年)に亡くなっています。


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花火

     北原白秋


花火があがる、

銀と緑の孔雀玉……パツとしだれてちりかかる。

紺青こんじゃうの夜の薄あかり、

ほんにゆかしい歌麿の船のけしきのちりかかる。


花火が消ゆる。

薄紫の孔雀玉…‥紅くとろけてちりかかる。

Toron…‥tonTon……Toron……tonton……

色とにほひがちりかかる。

両国橋の水と空とにちりかかる。


花火があがる。

薄い光と夕風に、

義理と情の孔雀玉……涙しとしとちりかかる。

涙しとしと爪弾きの歌のこころにちりかかる。

団扇片手のうしろつきつんと澄ませど、あのやうに

船のへさきにちりかかる。


花火があがる。

銀と緑の孔雀玉……パツとかなしくちりかかる。

紺青の夜に大河に、

夏の帽子にちりかかる。

アイスクリームひえびえとふくむ手つきにちりかかる。

わかいこころの孔雀玉、

ええなんとせうも消えかかる。


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 隅田川の花火の情景を詠った詩です。

色とりどりに打ち上げられては地上に散りかかる花火。


「歌麿の船の景色」とは、歌麻呂の浮世絵のような打ち上げ会場、両国橋付近の隅田川の風景のことでしょうね。


 詩人が花火を見た頃の東京は、まだ近代化されていなくて、人情味豊かな古き良き下町風景だったのだと思います。


 隅田川の花火には、私も少し思い出があります。

学生時代の一時期、少し歩くと隅田川の川辺に出ることができるアパートに住んでいたことがありました。


その時、花火大会の夜、川辺まで歩いて行って、ひとりで花火を眺めたことがありました。

おそらくそこは穴場だったのかもしれません。私以外に三~四人の見物人がいるだけで、ゆったり、のんびりと花火を堪能できました。


 でも、花火は一人で眺めるものじゃありませんね。ちょっと寂しかった。

花火は恋人とふたり、または、友達や家族とワイワイ見るものだと思います。


この詩は、男声合唱曲になっています。

https://youtu.be/EBEbwBfddQs

(記:2016-08-22)

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