第13話踊・八木重吉:生気に満ちた我が子と死を見つめる我

八木重吉の「踊」を読みました。

『定本八木重吉詩集』弥生書房・刊)収録の一篇です。

詩集『貧しき信徒』には、愛娘の桃子さんを詠った詩がたくさんあって、その中のひとつです。


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      八木重吉


冬になって

こんな静かな日はめったにない

桃子をつれて出たら

櫟林くぬぎばやしのはずれで

子供はひとりでに踊りはじめた

両手をくくれた顎のあたりでまわしながら

毛糸の深紅の頭巾をかぶって首をかしげ

しきりにひょこんひょこんやっている

ふくらんで着こんだ着物に染めてある

鳳凰の赤い模様があかるい

きつく死をみつめたわたしのこころは

桃子がおどるのを見てうれしかった


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 結核で三十歳で亡くなってしまった詩人は、この詩を書いた頃にはすでに病を得て療養中だったのでしょう。

静かな冬の日に、娘と散歩に出た時のことが、飾りけなく素直な言葉で描かれています。


  桃子ちゃんは父親との散歩が、よほど嬉しかったのでしょう。いつもつらそうにしている父が、久しぶりに調子が良さそうなのもあって、気持ちが浮き立ったのかもしれません。自然に手が動いて足が動いて踊りだしたのです。


 それをやさしく見る父親の目は、あどけない我が子の可愛さを噛みしめながらも、この子の成長の途中に、自分の死があることを意識しているように推測されます。


 人生をはじめたばかりの生気に満ちた我が子と、病に冒され、死を感じざるをえない我が身との対比が切なくて、心をしめつけられます。

(記:2016-07-23)

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