第八話:次元を超える者


「それでは進捗状況を確認する為にオーブを提出してくださいですわ」



 教育係の女神様はそう言って私たちのオーブを回収する。


 私が担当しているラミシス世界は昨日のうちにイレギュラーであるエリザベートを他の世界に飛ばしたからちょっとパワーバランスは悪いけど大目玉を喰らう程ではないだろう。


 多分……


 教育係の女神様は回収したオーブを一つづつ確認し始める。



「ふむふむ、ソミヤさんの管理するアトリシア世界は順調ですねわね? バランスも良いですし順調に発展もしていますわ」


 頷きながら次のオーブを確認する。


「それとイズナさんの管理するクローシア世界もあえて帝国を設立させ統一をさせるとはなかなかですわ。これにより資源の無駄遣いは制されますものね。元は同じ女神を崇拝する派閥を分け内部での牽制をしあい帝国の基礎を盤上に築き上げていますわ」


 うーん、ソミヤちゃんが凄いのは予想できていたけどイズナちゃんが意外と頑張っている。

 なるほど、一気に世界制覇させ資源の活用を充実させるのかぁ。


 そんな事を思っていたら最後に私のオーブが手に取られる。

 そして……



「さて、最後にテミアさんですが…… なんですのこれ? この化け物じみた人物は一体何なんなのですの?」


「はいっ!?」



 教育係の女神様は眉間にしわを寄せて私のオーブを見ている。

 そして「化け物じみた人物」と今言った。



「このステータス、これでは私たち女神がこの世界で力を振るっているようなものではありませんの? しかもこの称号って何なのですの?」



 言われて慌てて私はオーブを覗き込む。

 そして悲鳴を上げる。



「ぎゃぁああああぁぁぁぁっ!! なんでイレギュラーがラミシス世界に戻って来てるのよっ!? しかも称号が『異世界渡り』になっているぅっ!?」



 あり得ない。

 高次元の私たち女神でない者がそんなに簡単に次元を行き来できるなんて!!

 しかも元いた世界を限定して戻るだなんて一体どう言う事!?



「ふう、テミアさんあれだけ注意して個人的にレッスンして体に教えてあげたと言うのに何なのですのこのていたらくは? しかもこの人物、私たち高次元の存在に気付いていますわよ?」


「へっ? そんな馬鹿な!! 低次元の存在が高次元の存在を理解できるはずは……」



 私はそこまで言ってある事に気付く。


 多次元を行き来できるという事は次元の重複構造を理解できていると言う事。

 それはつまり次元同士の蚊帳の外で傍観者である私たちの次元を認識していると言う事。

 


 思わずさぁ~っと血の気が引く。

 それってその気になればここに実体化出来てしまうという事。



「そ、そんなのダメっ! この神の世界に低次元の存在が来てしまうだなんて全ての因果が壊れてしまう!!」



「ちょっとテミア、一体何が起こっているって言うのよ?」


「テミアちゃん、なんかテミアちゃんが管理している ラミシス世界からこっちに干渉波があるよ~? なにこれ、私たち女神並みの力だよ~?」



 う”ぞっ!?


 こちらの位置を特定したって言うの!?

 じゃあ私の管理しているラミシス世界からこっちに具現化するつもり!?

 そんな、いくら超越した力が有っても低次元の存在が高次元に実体化するには次元格差が補充出来ないはずなのに!?



「テミアさん、これは大問題ですわよ? この神の世界に低次元の存在が具現化しようとしていますわよ?」


「あわわわわわわぁ、ど、どうしましょう教育係の女神様ぁっ!?」



 こうなると始末書レベルでは済まない。

 だって低次元の存在が私たちの世界に具現化しちゃう。

 もう因果律も何も完全無視してもうすぐここへ現れる!



「存在自体が確定し始めていますわね? しかもこの波長、テミアさんにもの凄く同調していますわ!」



 身構える教育係の女神様。

 勿論私たちだって同じく身構える。


 もし敵対性の存在なら真っ先にここにいる私たちが危なくなってしまう。

 

 そう私が思った時だった。



 きゅぅうううぅぅ~~~


 ポンっ!!



 目の前に私の波長にもの凄く似た存在が出現した!!



「防御結界展開ですわ!! 皆さん下がってですわ!!」


「のっひゃぁーっ!」


「うそ、本当に低次元の存在がここへ現れたの!?」


「大変だよぉ~テミアちゃん~っ!」



 教育係の女神様はその存在に向かって多重の結界を張る。

 しかしそれはその結界自体を飛び越えて私の目の前に現れる。



 その顔は間違いなくあのエリザベート!



 しまった、この間合いじゃどうにもならない!!



「テミアさんですわ!!」


「テミアっ!」


「テミアちゃんっ!!」



 みんな慌てて私の名を呼ぶけどもう遅い。

 私はイレギュラーであり、「異世界渡り」なんてとんでも無い称号を持つ彼女の顔を目の前に見る。



「こんな事なら最後にお腹いっぱい芋に恋の名前のお饅頭食べとくんだったぁッ!!」



 最後の言葉がそんな間抜けなものになってしまったが思わず口から出た言葉はそんなモノだった。


 ああ、お父さん、お母さん不幸な私をお許しください。

 まさかこんな事になってしまうとは。

  

 痛いのは嫌だなと変に冷静に頭の片隅で思って目をつむると首に何かが巻き付く。

 ああ、これで最後なんだと諦めたその私に耳を疑う声がする。



「お姉さまぁっ! やっと見つけたぁっ!! 私お姉さまの事ずっと探していたんですよぉっ!!」


「へっ!?」  

 


 そんな声が聞こえると同時に唇に柔らかいものが重なる。

 そして柔らかい体が押し付けられてぎゅっと抱きしめられる。



 ぶちゅぅ~~~~~っ!!!!



 驚き目を開けるとエリザベートの顔が目の前に、ほとんどゼロ距離にあった。

 そして何か言おうとする私の唇を彼女の唇で塞がれていた!?



「え、えっとぉですわ……」


「テ、テミアぁ!?」


「うわっ~テミアちゃんが唇を襲われてるぅ~!!」



 なにが起こったのか周りのみんなも驚きに目を見開いている。

 勿論私だって目が白黒して何が起こったのか全くと言って良いほど頭がまわってない。



 なにこれ!?

 教育係の女神様以外にもキスされたぁ!?

 しかもイレギュラーのエリザベートに!?

 一体どう言う事!?

 なにが起こっているの!!!?



「んちゅうぅぅううううぅぅっ~、ぽんっ! プはぁ、もうお姉さま探しましたよぉ!! あの後全然かまってくれないんですもの、動けるように力全部この娘の身体に使っちゃいましたぁ♡」



「へっ? へぇっ!?」


 やっと唇から離れたと思ったらエリザベートはそんな事を言う。

 そして首に手を回したままがっしりと私に抱き着き、すりすりと頬ずりされる。



「もう、お姉さまったら私をラミシス界に落としたままずっと放っておくんですもの! 私を使って人間たちを進化させるのはどうなったんですか? あ、なんか女神様の試練とかでダンジョンとか魔王軍とか出過ぎたので処理はしましたけどいつの間にか違う世界に飛ばされたので自己進化させお姉さまの情報をもとにこちらの次元に実体化させちゃいました、てへっ☆」



 満面の笑みでそう言うエリザベート。

 私はここまで言われてある事に気付く。



「も、もしかしてあなたモノリス!?」


「あれ? 気付いていませんでした?? もう、お姉さまったらいけずぅっ!」



 そう言いながら又私に口づけしてくる。



 ぶちゅぅ~ぅうううぅっ!



「むぅうううううぅぅぅっ!!!?」


「んちゅばっ! 私寂しかったんですからねぇ~。でもやっとお姉様のもとに帰ってこれた。もう今晩は寝かせませんよぉ♡」


 言いながら又しても私に抱き着きすりすりと頬ずりする。



 と、ゆら~りと教育係の女神様が立ち上がる。



「テミアさん、これは一体どう言う事か説明してもらいましょうかですわぁ~」



「テミア、まさかそんな趣味があったなんて!!」


「あ~テミアちゃん可愛いからなぁ~。でも自分で相手作っちゃうのは良くないよぉ~」



 なんか教育係の女神様が本気で怖いし、ソミアちゃんは青ざめた表情で自分の腕を抱きしめ胸を隠すかのように引き下がっている。

 イズナちゃんは指を立てて「寂しいのなら私が相手してあげたのにぃ~」とか言って更にソミヤちゃんをドン引きさせている。


 そして教育係の女神様は……



「ふっふっふっふっふっ、ですわぁ~。こんな事は私が新人を預かって初めてですわぁ~。良いですわぁ~そこの二人、みっちりと朝まで体に教え込んであげないといけませんわねぇ~?」


「ひっ!?」




 こうして私は教育係の女神様にエリザベート共々引っ張られ行って朝まで彼女の部屋で監禁…… もとい、プライベート的に指導を受けこっちの世界に戻れない体にされてしまうのだった。

 

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