第8話

2年になるとクラス替えがあり、星川の友達だという青山がうちのグループに入り込んだ。

気の強さが全面に出た、綺麗だけど鼻につくタイプの青山に辟易していたのもあり、彼女が学校で話し掛けて来て、俺にベタベタするのでは無いか?と勘ぐった俺は、彼女に対して一定の距離を望んだ。

今思えば、これが全ての始まりだったのだろう。

当時の俺は、女の子と居るより星川達と気兼ね無く付き合うのが楽しかった。

だから、月に1回の日曜日のデートと、毎日電話で会話をすればそれで良いだろうと彼女の気持ちも考えずに押し付けた。

いつしか彼女の俺を見る眼差しが、「大好き」から不安そうに俺の顔色を伺うようになっていた。

そんな時だった。

「ちょっと!そんなにバカスカ人の頭を叩かないでよ!」

「中身がスカスカなんだから、問題無いだろう?」

仲良く並んで歩く姿に何故かイラついた。

俺には見せない、無防備な笑顔。

クルクルと変わる表情を、楽しそうに彼女を見下ろすそいつに見せているのが許せなかった。

あの眼差しは、多分彼女が好きなんだろう。

今まで彼女にアプローチをしても気付かれず、玉砕して行った奴等とは違う感じがした。

何故かイラついてしまう感情のままに、彼女を何度となく傷付けて泣かせてしまった。

本当は優しくしたいのに、出来ない自分に腹が立った。

そしてあの運命の日。

姉貴に譲ってもらったチケットで、2人で夢の国へ行って彼女にプレゼントしたキーホルダー。

彼女が手にしていたのをプレゼントしようとしたら、店員さんに

「彼女さんへのプレゼントですか?でしたら、そちらじゃなくて、こちらが良いですよ」

と、俺が持って来たキーホルダーでは無いキーホルダーを差し出した、

「恋愛成就のお守りにもなるんですよ」

そう言って微笑む店員さんに

「じゃあ、それで」

と、特に深い意味も無く買ったのに、彼女は嬉しそうに笑ってくれた。

あんなに喜ばれるなら、たまには何かプレゼントするのも悪くないと思ったんだ。

でも、彼女はプレゼントをしてくれた気持ちが嬉しかったのだと後から知った。

青山に引きちぎられて、投げ捨てられたキーホルダー。

俺からしたら、難癖着いたキーホルダーより、新しいキーホルダーの方が良いだろうと思ったんだ。……本当に、そう思ったんだ。

修学旅行から戻り、後日、彼女に呼び出された時、なんとなく終わるんだと気が付いた。

別れを告げられた時、あっさり受け入れたのは……戻って来ると思っていたんだ。

「あの日に勝負は着いていたんだな……」

なんてカッコつけたのは、俺のちっぽけなプライドだった。

残りの高校生活は、青山のお陰で散々だった。

俺に近付く女子を蹴散らし、いつも俺の隣に居座った。

卒業式に告白されたが、さすがに

「ごめん、無理だから」

と断った。

大学に入ってから、青山がいない事もあって、隣に並んで自慢出来るような女とばかり付き合った。

毎日、日替わりに女を変えて、「俺はお前と別れてから幸せなんだ」と見せつけるかのように遊びまくった。

でも、心が乾いて行く。

幾ら欲望を吐き出しても、身体を重ねた分だけ心が乾いていた。

結婚を考えた人も居たが、結局、俺が原因で別れを告げられてしまった。

一時期、彼女のせいだと恨んだ事もあった。

何も見返りを求めず、ただ無条件に愛情を向けられる事を知ってしまったからだと。

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