子守の刑事

 Side 前嶋 刑事


 *本作品はフィクションです。特に本作の大阪日本橋は現実の大阪日本橋とは異なる部分があります。ご注意ください。


 前回の事件で暫くは単独行動になりそうだ。


 何しろ相棒が半グレと繋がっていて捜査情報を横流しし。賄賂を受け取るだけでなく実銃まで所持していたのだ。


 他にも様々な容疑で暫くは――数十年単位で刑務所から出られないだろう。


 そして現在私はと言うと――


 =深夜の大阪日本橋=


「オジさん、どうして私に付き纏うの?」


「それが仕事だからだとしか言えん」


 長い黒髪の不愛想な表情を浮かべるスカートの学生服姿の不良娘の相手をしていた。


 自分はこう言う変わった女の子に縁があるらしい。 

 なんだかなぁと思ってしまう。


「どうするの? 親に連絡するつもり?」


「それで解決するんならな」


 時代が変われば犯罪も変わるが、変わらない部分もある。

 家出の理由は大概、親と上手くいかない場合が多い。

 子供に問題があるケースもあるが、最悪なのは親に問題があるケースだ。


 そうなったら警察ではどうにもできない。

 親に通報したら一旦親は借りて来た猫のように大人しく振舞って、そして子供に裏の顔で暴力を振る舞うのだ。


 それで死なれたら一生後悔する。

 なら規則違反してでも、今の状況を打開するために現状放置した方がいい。


「……普通の警察とは違うのね」


「まあ、変わりもんだと言う自覚はある。ともかくネカフェするか事情説明して交番で一泊するか、あるいはメイド喫茶のストレンジに転がり込むかだな」


「何で最後にメイド喫茶が出て来るのよ」


「ある意味この事態の収拾に一番適しているからだ」


 この町のホームズ、あるいはモリアーティ達の溜まり場だ。

 どんな難事件も不可思議な力でスピード解決するような連中である。

 そこに放り込んだ方が手っ取り早くはあるが、刑事としてそれはどうなのと思う自分がいる。


 本音を言えばギリギリまで刑事として頑張りたいとは思っているが、そのプライドで人を殺しては元も子もない。

 

 時にはプライドを捨てなければならない時もあるのだ。


 その見極めが肝心だ。


「オジさん、息子か娘いるの?」


「ああいる」


「結婚もしてんだよね」


「まあな」


「……正直どうなの? 上手く行ってる?」


「色々な人と関わって最近は自信ないかな」


「そう……どうしてそんな事を聞くんだとかは言わないの?」


「……君にとって必要な事だからだろう」


 少しの間沈黙。

 そして不良娘はこう行った。


「……私、早く大人になって、一人で生活できるようになりたい」


「夢を見ているようで悪いが一人暮らしは君が考えている以上に大変だぞ」


「……だからって、親の顔色を伺うような奴隷みたいな暮らし耐えられない。色んなとこに相談しても無理だった。アンタに相談したところで何が変わるって言うのよ」


 誰が言ったか、警察は役に立たない時はとことん役に立たない。

 だが面倒な時はとことん面倒な存在であるそうだ。


 長い事、刑事人生続けているが、的を得ていると思う。

 

 現に目の前の少女の悩み一つも解決できないのだから。


 普通ならば。



 私が取った手順は簡単だ。


 取り合えず交番で駐在していた交番の警察官に事情を話して一泊させ、事態を収拾するために私はモリアーティの一人に依頼して不良娘の家を探る事にした。


 同時に他のモリアーティに、この不良娘のような存在をどうにか出来ないか。

 ビジネスに繋げられないかと相談を持ち掛けた。


 あれよあれよと言う間に物事は進んでいき、気が付けば訳アリの児童を集めた支援施設が誕生する運びになった。


 そしてあの不良娘はと言うと――


 =昼間・大阪日本橋・メイド喫茶ストレンジ=


「まさかメイド喫茶で住み込みで働く事になるとは思わなかった……」


 不良少女は支援施設の枠組みが整うまでメイド喫茶ストレンジで働く事になった。


 ここは表向きは人気のメイド喫茶だが、実態はモリアーティ達の巣窟であり、警察でも手出しが出来ず、完全武装したテロリストでも撃退した恐るべきメイド喫茶なのだ。

 

 ある意味核シェルターに引き籠るよりも安全な場所かもしれない。


「それにしても驚いた。まさかその、こういう伝手があるなんて……」


「正直言うと、刑事としては使いたくなかったが……まあ仕方あるまい」


 刑事は何処まで行っても所詮は刑事。

 出来る事なんて限られている。

  

 今回やった事は町の支配者達に面倒事を丸投げしたようなもんだ。

 

「どうしたの?」


「いや、刑事としての無力さを思い知らされただけだ」


「でも、あの時、私に勇気を出して、その、声を掛けてくれなかったら、あのままずっと町を彷徨っていたし……その、一度しか言わないからね」


「?」


 長い黒髪のメイド服姿の不良少女だった少女は恥ずかしそうに顔を俯かせてこう言った。


「ありがとう、おじさん。私を救ってくれて」


 一つ付け加えておこう。

 刑事は悪い事は多いが悪い事ばかりではない。

 例え無力な刑事だとしても、こうして感謝される時もあるのだ。


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【短編】大阪日本橋・前嶋刑事の事件簿 MrR @mrr

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