【短編】大阪日本橋・前嶋刑事の事件簿

MrR

刑事の誇り

 Side 前嶋 刑事


 *本作品はフィクションです。特に本作の大阪日本橋は現実の大阪日本橋とは異なる部分があります。ご注意ください。


 大阪日本橋は一時期、カラーギャングやら半グレやらで治安が悪かったが今はそうではない。

 

 精々、メイドの客引きが目立つぐらいだ。

 ちなみに客引きしているメイド喫茶は大体ぼったくりバーと変わらないので関わってはいけない。


「大阪日本橋ってオタク街のイメージがあったんですけど、飲食店が多いですね」


「まあな。後はカードショップとかも多いらしい」


 不思議そうに観光気分でキョロキョロとしている新入りの後藤刑事と一緒に街中で聞き込み調査をしていた。

 

 なんでもまた大阪日本橋で半グレが乗り込んできたらしい。


 それ絡みで警戒態勢を強めている。


 私は市民への被害よりもこの町にいるモリアーティ達が動くんじゃないかと思った。


 モリアーティと言うのはシャーロック・ホームズと言う、一度は誰しも聞いたことはあるイギリスを舞台にした名探偵の物語に登場する人物だ。


 モリアーティは犯罪界のナポレオンと呼ばれる程の名悪役であり、シャーロック・ホームズの宿敵でもある。


 バッ〇マンにおける〇ョーカーの大先輩みたいなキャラだ。


 最近は漫画やゲームなどの創作物の影響とかでシャーロック・ホームズともどもその知名度を増しているらしい。

 

 一昔前ならモリアーティのグッズが大阪日本橋で販売されるなど考えもしなかった。


 それはさておき、この町にいる支配者達のことだ。


(あいつらがどう動くか……)


 この町のモリアーティ達は本物のモリアーティかと思うぐらいに手腕が見事だ。

 一切の証拠を残さず、違反者達を警察に引き渡すか無力化する。

 正に芸術的と言っていい。


 だからこそふと思う。


(警察ってなんなんだろうな)


 と、思ってしまう。

 探偵漫画に出て来る役立たずな刑事キャラの気持ちが分かってしまうと思いながら私は証拠を集めていた。


 それは逆に言うと私は何時の間にかこの町のモリアーティ達と対決するかもしれない状況に陥っていた。


「なあ、後藤。どうして警察官になったんだ?」


「どうしたんですかいきなり?」


「いや、今は警察官の信用なんて地に落ちているだろう。警察が不祥事しても今じゃもう「ああ、またか」と思われてしまうぐらいにな」


「みたいですね」


「みたいですねってお前な……これでも真面目な話をしているんだぞ」


「本当にどうしたんですか?」


 確かに自分はどうかしていると思う。

 昭和カタギのデカなんてのはもう今の時代には古いのかもしれない。


「それよりも前嶋刑事、今回の半グレ連中のことなんですけど大丈夫なんですか?」


「――警察はそう言う仕事だ。覚悟は出来てる」


 私はそこだけは譲れなかった。

 そうでなければ警察なんて職業はやっていない。


「前嶋さんは犯罪は絶対見逃さしてはいけないと本気で思ってる人なんですか?」


「でなければ警察なんてやめているさ。刑事ドラマに憧れている部分もあるが、相応って奴を見て来た。ドラマの中に出て来るような刑事なんてのは探せばいるかも知れないが、大体は端役だ。自分もその端役の一人だ」


「ならなんでそんなに熱心なんですか?」


「この仕事に誇りを持っている。いや、この町の住民の御蔭で持てるようになってきたからな」


「はあ……」



 大阪日本橋の半グレグループの一斉摘発は空振りに終わった。

 

 だが私はそれよりも――人気の少ない大阪日本橋から少し離れた広い夜の公園で覚悟を持って拳銃を突き付けた。

 

 拳銃の先には後藤がいる。

 

 後藤が手に持っている拳銃は警察が使用するリボルバー式の奴ではなく、黒星とも呼ばれるソ連製の犯罪組織御用達の拳銃だった。


 恐らく違法コピー品だろう。


 それをどうして後藤が手に持っている。

 簡単だ。

 後藤は半グレと繋がっていたのだ。 


「いや~優秀過ぎるというのは考え物ですよ」


「今からでも遅くない。自主しろ」


「はあ? アンタをここで始末すれば済む話ですよ。それよりもどうして自分が内通者だと思ったんですか?」


「日本橋の支配者達は早い段階からお前が内通者だと言うのを辿り着いていたよ。だけど行く先々で、万が一に備えて無実を晴らそうとした――」


「成る程、適当にぶらついていると思ってたらそんな事してたんですか」


「刑事と言う職業が嫌になる時があるのは正に今こんな時だ。まさか相棒になったばかりの後輩刑事が半グレと繋がっているとかありえんだろう! それこそ刑事ドラマとかの世界だ! なのに――」


「正直警察なんて割に合わないんですよ。苦労してなったのに給料のわりに仕事は大変だしね」


「たかがそのためにこんなバカな真似を!」


「うるせえよ。それでアンタ俺を殺すの? そんな度胸あるの? いい加減説教も聞き飽きたし引き金引くよ?」


 私の決断はこうだった。

 拳銃を発砲。

 後藤の胸が赤く染まる。

 後藤が動揺した隙をついて顔に目掛けて拳銃を投げつけ、一気に距離をつめて顔面をぶん殴って地面に押し倒し、手錠をつけた。

 

「どうして……一体何が……」


「伝手があってな。非殺傷のケチャップ弾だ。まあそれでも、相応の痛みは感じるらしいがな」


 そして次々と警察官達がやってくる。

 現場に待機させておくように手配した警官だ。 


 

 結局、後輩の無実の証明のために駆け回ったが無駄足に終わってしまった。


 後藤は半グレと繋がって相当あくどい事をしていたようだ。


 救いなのは警察の手で始末をつけられたことがよかったと言う事である。

 

 でなければ後藤は法の秩序が及ばない、同情したくなるような悲惨な結末を迎えていた事だろう。


 そして私の処分は不思議と軽かったが、真相は謎のままだ。


(後藤、お前の言いたい事は分かる。刑事なんてのはロクな仕事じゃない。だけどそうなら辞めて別の道を探すと言う選択肢もあった筈だ――)


 そう思いながら私はトルコのケバブを食べつつ街中を探索していた。

 半グレの方も謎の密告者の手で摘発され、片付いた。


 この町で刑事なんてのは使い走りなのかもしれない。


 だがそれでも私は刑事としての職務に誇りを持っていた。


 でなければ刑事なんてやってはいない。

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