第十五幕 39 『世界変革の舞台』


 ………………


 …………


 ……




「あ……あぁ…………」


 ミロンの決死の覚悟による攻撃。

 おそらくは、星の守護……ダンジョンを利用した何らかの結界。


 彼女の生命を燃やして神殿の中に蟠る闇を全て吹き飛ばすような眩い光が放たれた……その時。


 その圧倒的な光の奔流は空間を歪め、邪神リュートを時空の彼方へと封じ込めるかのように思えた。



 しかし。





「……少し、肝が冷えたかな。だがミロンは私が創造したんだ。造物主に危害を加えられるはずがないだろう?」


 言葉ほどには焦った様子でもないリュートが、淡々と告げる。



 あの瞬間……光がリュートを捕らえたと思ったその時。

 彼の手から放たれた闇の波動が、光に飲まれることなく一直線にミロンを貫いたのだ。


 リュートの攻撃を受けた彼女は力を失って墜落し、地面に横たわってピクリともしない……



「あぁ……ミーちゃん……ミーちゃん!!!」



 ミーティアの口から絶望の声が漏れる。


 私とテオは呆然として声を発する事も出来ない。



「心配しなくても死んではいない。彼女の機能を一時的に停止させただけだ。私が止めなければ生命を失っていただろうが。もっとも……私を倒さない限りは二度と活動を再開する事も無いから、結果は同じかも知れないが」


 やはり感情の籠らない声でリュートは告げる。

 ……一先ず生命を奪った訳では無い事にホッとする。



 しかし……生命を賭けたのミロンの攻撃は不発に終わり、万策尽きたかのように思われた。




「……ふむ。思ったより空間に歪みが生じているな。折角だから、利用させてもらおうか」


「……一体何を?」


「なに、いい機会だから……世界変革の時を、皆にも見てもらおうと思ってね」



 そう言って、リュートが両手を広げると彼の周囲の景色が歪み始める。



「空間が……歪んでいる?」


「何をするつもりだ!?」



 私とテオの言葉を無視してリュートは意識を集中させ、空間の歪みは更に広がっていく。



「あ…………跳ぶ…………?」


 ミーティアが小さく呟く。



 その瞬間……!!


 歪みは反動をつけるかのように一旦収縮し、その後、爆発的に広がる!!!



「「!!!!??」」



 歪みが私の身体を通り抜ける瞬間、ぐにゃり……と、まるで天地をひっくり返されたかのような強烈な目眩を感じた。


 そして次に襲い来るのは浮遊感。


 地に足をつけてるはずなのに、空を飛んでるような錯覚に陥る。


 これまで感じたことがないような様々な感覚で私の頭の中は混乱の嵐が吹き荒れた。



 どれくらいの時間が流れたのか。



 一瞬のことだったのか、それとも長い時間が過ぎ去ったのか。


 それすらも判然としないまま、唐突に正常な感覚が戻ってきた。





 そして、私はあり得ない光景を目にする。

















「空が…………」


 神殿の中に居たはずなのに、空が見える。

 もう夕暮れ時が近いのか、太陽はかなり傾きつつあった。



 そして、私達が立っている場所はそのままだが……ある地点から先の床がない。

 大きな円形を描くように、バッサリと切り取られている。


 これではまるで……



「まさか……空に浮いてるのか?」 



 そう。


 周りの景色を見る限り、私達の立つ場所は空に浮いているようにしか見えなかった。



 天空に浮かぶ島……それを結界のように歪みが球体状となって囲んでいる。




「さあ、ここが世界変革のセレモニーを行う為の特設舞台ステージだ。この場所の出来事は世界中の人々に見てもらえるようにしてある。そして、舞台の主役は……カティア、君だ」



 感情を感じさせなかったリュートの顔に、初めて愉悦の笑みが広がる。


 狂気を孕んだその嗤いに、私は恐怖で身体が震える。

 どんなに虚勢を張ろうとしても絶望がじわりじわりと私の心を蝕んでいく。



 あぁ……このままでは……



 闇が押し寄せてくる。

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