第十五幕 38 『その名は絶望』


「……やはり、人間の力ではここら辺が限界かな?」


 どこか残念そうな声音でリュートは呟く。

 そのセリフは恐らく、邪神の滅びを願う精神が言わせたのだろう。


 本気を出さずとも私達を圧倒するのだから、そんな感想にもなるのだろう。

 逆に私達は最初から全力全開だ。



 ……はっきり言って、私達全員の力を合わせても大人と子供ほどの差がある。

 打開策が全く見えてこない。




 絶望……


 そんな言葉が脳裏をよぎる。



 だけど、私達が諦めたら邪神は完全に復活して、全世界を恐怖で飲み込んでしまうだろう。

それは何としても阻止しなければならない。


 だけど、一体どうすれば……




「さて……嬲るのは趣味じゃない。そろそろ終わりにしよう」



 !!


 リュートの雰囲気が変わった!!

 いよいよ本気を出す気か!?



「なに、殺しはしないよ。君たちも私の同胞となるんだ。ロランやリシィも完全なる魔族にしてやろう」

 


「くっ……!!」


「そう簡単にいくと思ったら大間違いですわよ!!」


「そうよ!私達は負けない!!!」



 ルシェーラとシフィルは負けじと叫ぶが、そこには虚勢も含まれているように感じられた。



 ……だめだ、私が弱気になってどうする!!



 リュートは私が邪神を倒しうる存在だと言ったじゃないか!!



 考えろ……

 彼がそう言うのなら、何か手があるはずなんだ。


 これまで私達を導いてきた賢者の意志は、今もリュートの中で生きてるはずなんだから!!






「では……行くぞ!!」


 それを合図に、邪神リュートの猛攻が始まった!!





 一瞬で姿が掻き消える。


 そして次の瞬間には……



「何っ!!?」


 ガィンッッ!!!



 ロランさんの前に現れ刀を振るっていた!!


 辛うじてその一撃を受け止めたが……



 ドゴォッッ!!!!



「がはぁっっ!!!??」



 漆黒の瘴気を纏ったリュートの拳がロランさんの鳩尾に深々と突き刺さる!!!



 たったの一撃でロランさんは瞳から光を失って崩れ落ちてしまった。




「ロランっ!?」


 シェラさんの悲痛の叫びがあがる。

 その間にもリュートの姿が再び消え去った。


 そして……



「他人の心配をしてる暇はないよ?」


「!?」


 今度はシェラさんの背後に現れた!



「[黒魔雷蛇]」


 バチバチバチッッ!!!



 黒い雷光が無数の蛇となってシェラさんに襲いかかる。

 そして、彼女だけでなく近くにいたメリエルちゃんとステラも巻き込んでしまう!!



「あくぅっっ!!!??」


「きゃあーーーっっ!!!」


「いゃーーーっっ!!??」



 黒い雷撃の蛇が彼女たちの全身を這い回り、3人は悲鳴を上げて崩れ落ちてしまった。



 僅か数瞬のうちに4人が戦闘不能にさせられてしまう。


 だが、それで終わりではない。




「次は……君たちだ」


「!!?」


「やらせないわ!!」



 リュートの次のターゲットはルシェーラとシフィルのようだ。


 くっ!!


 このまま手を拱いて見てる訳にはいかない!!




 これまでのリュートの動きから、次に出現するポイントを予測して先回りしようとする。

 テオやミーティアも二人の周囲に注意を払って動くのが見えた。


 しかし。




 ドスッ!!


「あうっ!!?」


「ルシェーラっ!!!……かはっ!!?」



 私の行動を嘲笑うかのように、リュートはなんの苦もなく二人を沈めてしまう……!!






「さて……これで残ったのは君たちだけだ。……そろそろ世界変革の時が見えてきたね?」



 瞬く間に6人を気絶させて悠然と佇むリュート。

 その言葉とは裏腹に、その表情には何の感慨も浮かんではいない。



 残されたのは私とテオ、ミーティアだけ。

 テオが私とミーティアを守るように前に出るが……


 もはや、彼を止めるのは不可能……そう、私が諦めかけたとき。




「……ミー姉さま、ここでお別れです」


「え?ミーちゃん……?」



 ミーティアの服の中に退避していたミロンが顔を出して、そんな事を言った。

 そして、飛び出したミロンは神殿の天井の方へ飛び上がる。




「ミロンか。生みの親に逆らう気か?」


「リュート様……いえ、邪神リュート。私が生み出された目的は、邪神を倒し未来を切り拓く者たちの助けとなる事。そのためならば……私の命に変えてでも、あなたを止めてみせます!!」



「ミロンっっ!!何をするつもり!!?」


「ミーちゃん、だめぇ!!!」



 ミロン!!

 まさか……!!



 神殿の高い天井の近くまで舞い上がったミロン。


 そして、彼女の小さな身体が眩い光を放ち始める。



「私の力はこの星の防衛装置であるダンジョンの力を操るもの。既存のダンジョン以外の場所では殆どその

力は使えませんが……私に与えられた生命を燃やせば……!!」



「やめなさい!!ミロン!!」


「だめぇーーーっっ!!!」



 私達の絶叫が神殿の中に反響する。



 そして……!!



 闇を引き裂く光が、全てを塗り潰した!!!

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