第十五幕 37 『ラスボス』


 これまでの穏やかな雰囲気から一転し、強烈な邪気を放つ琉斗……いや、邪神リュート。

 姿こそ変らないが、その内包する力は大魔王すら凌駕するのは容易に想像できる。


 間違いなくこれまで戦ってきた相手の中で最強の力を持つはずだ。



「さて……神々の力をも超える私がまともに相手をしたのでは、流石に君たちに勝ち目はないだろう。だから、ハンデをやろうじゃないか」


「やってみなければ分かりませんわよ!!」


「随分と舐めてくれるわね……!」


 リュートの物言いにルシェーラとシフィルが噛みつくが、恐らくそれは事実だ。


 ただ……彼は矛盾を抱えた存在だと言う。


 つまり、世界の滅びと自身の滅びを同時に願っている。

 私達が付け入る隙があるとすれば、多分そこだろう。

 ある意味では邪神の中の琉斗の意識が、私達の味方でもあるんだ。



「ルシェーラ、シフィル挑発に乗っちゃ駄目だよ。彼が余裕を見せるなら、私達は遠慮なくその隙を突かなきゃ」


「……ええ。分かりましたわ!!その余裕、後悔させてみせましょう!!」


「見てなさいよ!!」



 うん、その意気だよ。



「威勢のいい娘たちだね。ではハンデとして……私は私の身体能力のみで戦おうじゃないか。魔法や特殊能力は封印しよう。……あ、武器は使わせてもらうよ」



 そう言って彼は動きやすいようになのか、ローブを脱ぎ去り、腰に下げた剣を抜き放った。

 ……いや、特徴的な反りのある片刃は、刀と言うべきか。

 一見して通常の武器のようだが……


 そして彼は祭壇から離れ、ゆっくりと階段を降りて私達と対峙する。


 向こうから攻撃は仕掛けてこないようだ。

 私達が攻撃を開始するまで動くつもりはないようだ。

 それもハンデのつもりだろうか。


 だったら、それに乗ってやろうじゃないの。





 さて、彼が桧原琉斗なら、その剣術は私も良く知るものだろうか?

 邪神の力を得た彼がどの程度の身体能力を持つのかは未知数だが。


 とにかく、今のうちに全力で畳み掛けてやる!!



「行くよ!!みんな!!」


 私は一声号令をかけ、一気にリュートとの間合いを詰めていく。


 いつもは切り込み隊長はルシェーラなんだけど、今回の一番手は私が貰うよ!!

 後詰めは任せた!!



「ハァーーーーッッ!!!」



 右手の星剣は唐竹、左手の小太刀リヴェラは横薙ぎ。

 それぞれ滅魔の光を纏って、十文字斬りを繰り出す!!



 キィンッ!!



 リュートは横薙ぎの小太刀の方を刀で受け止め、星剣は身を捻って紙一重で躱す!



 だが、防がれることは織り込み済みだ!!


 切り結んだ小太刀を支点にして身を翻し、身体を回転させながら右腕をしならせて星剣を斬り上げる!!


 リュートは後退してそれを躱すが、私に続いてテオとルシェーラが連携を繋いでくれる。


 左右から挟み込むように肉薄するが……!



 ガィンッッ!!!



 先ずルシェーラのハルバードを剣で弾き……



 ドゴォッ!!



「ぐっ!?」


 聖剣が振り下ろされる前に、テオに蹴りを繰り出す!!


 辛うじてテオは防御態勢を取ったが、大きく間合いを離される。




 次いでロランさんの魔剣による連続攻撃!!


 6本の小剣が四方から僅かにタイミングをずらしながら襲いかかり、それに合わせてロランさん自身も斬り込んでいく!!


 更に上空からはシフィルが風撃を撃ち下ろし、後衛からは炎・氷・水・雷・土の龍、そして光の矢が降り注ぐ!!



 初撃を見舞った私やテオ、ルシェーラもその後に続こうと体勢を整える。



 全員が一丸となってリュートを追い詰めようとする。




「おっと、これは中々厄介だね。ちょっと本気を出そうか」


 そんな事をうそぶいたリュートは、しかしその言葉通りにギアを上げる。



 取り囲んで襲い来る小魔剣を一つ一つ迎撃、ロランさんの斬撃を躱しざま体当たりで吹き飛ばし……



「ハアーーーーッッ!!!!」


 裂帛の気合を発して大きく刀を振り回し、魔法も光の矢も全て蹴散らしてしまう!!!



 追撃の構えだった私達は、鬼神の如き強さを見せるリュートの隙を見出だせずに二の足を踏んでしまう。




 ……強い!!


 一筋縄ではいかない事は分かっていたけど……想像以上だ。



 これでまだ完全には本気を出してないと言う。

 正にラスボスに相応しい強敵だ。



 果たして、邪神リュートを攻略する手立てはあるのだろうか?

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