第十五幕 17 『星剣イクスヴァリス』


「シェラさん……」


 ヴィリティニーアさんの魂を見送った後も、暫く空を見上げたままだったシェラさんに声をかける。


 私の声に、ゆっくりとこちらを見た彼女は……今も涙が頬を伝っているが、とても透き通った表情だった。



「カティアさん……ありがとうございました。最期に…あの子と話をさせてくれて」


「いえ……私は……」


 お礼を言われるほどの事はしていない……そう言おうとして、その言葉を飲み込んだ。


 あの姉妹の語らいは、シェラさんが前に進むために必要な……大切で、かけがえのないひと時だと思ったから。


 だから、私は……


「……教えてもらえますか?妹さんの事を……」



 その想いを私達にも伝えてほしくて。


 確かに彼女が存在した事を、私達も忘れないという事を伝えたくて。


 そんな事を口にする。



「……聞いてくれますか?あの子のことを」



 そしてシェラさんは、それに応えてくれた。
























「……ありがとうございます、話を聞いてくれて。さあ、そろそろ進みましょう。まだ、倒すべき敵が残っています」


 語り終えたシェラさんは、スッキリとした表情で言う。

 色々と整理がついて、自分の中で消化できたのだと思う。



 そして、彼女の言う通り……まだ倒すべき敵が残っている。

 しっかりと気持ちを切り替える必要があるだろう。



 シェラさんの言葉に皆頷いて、先に進もうとしたその時、ロランさんが話しかけてきた。


「その前に。カティア様……これを」


 と言って、彼が差し出してきたのは……



「星剣イクスヴァリス……良いんですか?」


「良いも何も……これは元々はアルマ王家に伝わっていたもの。その血筋を受け継ぎ、エメリール様のシギルを顕現されてるカティア様以上に相応しき使い手はございません」


「でも……」


 私は、ちら……とシェラさんに視線を向ける。


 この剣は、ヴィリティニーアさんが使っていた……ただ一つだけ遺された、形見の品とも言うべきものだ。


 そう考えると、シェラさんが持っているべきでは、と思ってしまうが……



「カティアさん、是非使ってやってください。あの子もそう願ってるはずです」


 私の迷いを察したシェラさんが、そう言ってくれた。


「……分かりました。有り難く、使わせてもらいます」



 彼女に後押しされて、剣を受け取った、その時……!



「あ……!」


「おお……!!」


「キレイなの!!」



 私が手にした瞬間、漆黒だった刀身に無数の輝きが宿ったのだ。

 『星剣』の名の通り……満点の星空を思わせるそれは、かつて夢に見た時の姿と同じものだった。



「これが……真の姿だったんですわね……」


「ああ、テオフィール様が手にされていた時と同じだ。やはり、カティア様を相応しき主だと、剣も認めているのだろう」



 確かに……まるでこの剣自身が意志を持っているかのように思える。


 そして私も、この剣を見ていると懐かしい気持ちになった。

 それは夢で見たから、と言うだけでなく……

 言葉では上手く言い表せないけど……

 もしかしたらアルマの血がそう思わせるのだろうか?


 それにこの剣は手によく馴染む。

 形状は、ごくシンプルな片手剣。

 私にとって長すぎず短すぎず、重量バランスも丁度いい。


 直剣じゃなくて、刀みたいに反りがあればなお良かったんだけど……と思っていたら。


「あ……」



 一瞬光に包まれた後、またもや変化が現れる。

 私の意を汲んでくれたのか、直剣から刀に変じたのだ。


 どうやら……リヴェラほど自由自在ではないけど、ある程度は持ち主に合わせて形を変化させられるみたい。


 さすが神器だね。



「……これからよろしくね」



 新しい相棒に声をかけると、刀身の星が煌めいて返事をしてくれたような気がした。


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