第十四幕 8 『リュートの軌跡』


 さて、私自身の転生の謎については色々と分かった事はあるが、新たな謎も生まれた。

 私の魂は『アニマ』に偏重していると言う。

 だけど、それが何を意味しているのか……今はまだ分からなかった。

 少しずつ真実に迫っている気はするのだけど。




 ともあれ、今はもうこれ以上考えても答えは出ない。

 だったら、ここに来た本来の目的を果たそうではないか。

 賢者リュートの足跡を辿っていけば、自ずと謎も解明されるかも知れないのだし。



 そう気を取り直して、私はリュートに話を振ることにした。



「リュート……さん、私の魂の謎は一先ず置いておいて……賢者リュート当人が、ここに何を遺したのか教えてもらえませんか」


「あぁ、そうだったね。そのために君たちはこんなところまで来たんだろうからね。まぁ、何を遺したかと言えば、それは私の事に他ならないのだけど」


「それは、語り部として……と言う事ですか」


 当人と全く同じ記憶を持つのであれば、これ以上ないくらい適任だろう。



「そう言う事だね。彼がここに至るまでに得た知識や推論、そして次に向かうべき道を示すのが私の役割だ」


「次に向かうべき道……?賢者様はグラナに向かっていたのでは?」


 テオがそこで疑問を挟む。

 確かに、アクサレナダンジョンでダンキチから聞いた話では、邪神が封じられていると思われるグラナに向かったはず。

 その途中でここに立ち寄ったと思ったのだが……



「まぁ、順を追って話していこうか。まず初めに、リュートはこの世界と前世のゲームとの類似性から、はるか先の未来に訪れるであろう災厄……邪神の復活を予見し、それを阻止したいと考えていた。これは良いかな?」


「はい。賢者の塔に遺されていた映像記録でそう語ってましたね」


「うん。そもそも、私がこの世界に来たのは神代の時代……事が起きると思われる時代よりも遥か数百年も前の事だ。未来を憂いて何とかしようと思っても、直接的に何か出来るとも思えなかった。だから、せめて警告だけでも……とね」


 それも、聞いた通りだ。


 そして少しでも邪神に関する情報を得ようと旅立ったわけだ。



「とは言っても、転移前の世界のゲームが根拠だなんて言っても理解されないからね。だけど、きっと……私と同じように、来るべき時に転移者や転生者が現れる。なんの根拠もないけど、何故かそう言う予感があった。だから、その者のためにできる限りの情報を集めようと思ったんだ」


 そして、その予感は正かった。

 こうして今私達がここに来ているのが証拠だ。



「それとは別に……私は、自身が何故、どうやってこの世界に転移したのか知りたいと思っていた。元の世界にそれほど未練があった訳ではないのだけど……気にはなっていたから」


「それはヘリテジア様にお聞きしました。この世界でも異界に関わりがありそうなダンジョンに目をつけた……と」


「あぁ、直接お会いして聞いたんだね。あの方とは私も色々と話をさせてもらったんだけど……『異世界転移』は自然に発生する事などまず考えられないが、神々の力を持ってしても不可能に近い……と聞いた」


 それはシャハル様が仰っていた。

 彼と他の神々の力を結集した上に、地脈の力も使ってどうにかやっと……という事だった。



「それを聞いた私は、私をこの世界に転移させたのは、神をも超える力を持った存在……即ち、邪神なのではないか?なんて考えたりもした」


「えっ!?」


 邪神が琉斗を転移させた?


 ……いや、実のところ、最近は私自身も漠然と関わりがあるのではないかと感じてたりする。

 様々な事件を通じて、それこそ運命の流れがそうなってるのではないか……と。


 しかし、私……おそらくリュートも、根拠がある訳では無いだろう。

 それが仮に事実だとして、何を意味するのかも分からない。




「まぁ、とにかく。その話を聞いたのもあってアクサレナ丘陵のダンジョンに向かったんだ。そこで私は、遥か太古にあった世界の危機を知り……そして原初の異界の魂こそが邪神の正体ではないかと当たりを付けた」


 それはアクサレナダンジョンでダンキチに聞いた話だ。

 そして、その『原初の異界の魂』が封印されたとされるグラナに賢者リュートは向かった……はずだ。



「その後、私は東大陸……今で言うグラナの地に向かったと言う訳だ。君たちが知る私の足跡はここまでだろう?」


「はい。……グラナに向かう途中で賢者リュートはここに立ち寄って、あなたと言う足跡を遺した……って事ですよね?」


「いや。私がここに来たのは、一度グラナに行った後の事だよ」


「ええ!?」



 じゃ、じゃあ……

 もしかして、彼は邪神の封印の地を知ってるのか?


 そして、その後に彼が語った話は、これまで以上に驚くべきものだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る