第十四幕 7 『魂の謎』
「さて……よくここまで来てくれたね。歓迎するよ」
賢者リュート……に良く似た彼は、私達を神社の拝殿の中に招き入れると、にこやかに言う。
神主の格好でもしてるかと思いきや、この大陸の一般的な服装だった。
ここまで凝るのなら、むしろ徹底的にやれば良いのに。
拝殿の中も神社そのもの。
立派な神棚に鏡を始めとした神具や榊に似た葉が供えられていた。
前世の【俺】は、そこまで神道に通じていたわけではないので、それが厳密に再現されているものなのかは分からないけど……特に違和感は無かった。
そして畳敷きに座布団……みんな車座になってそこに座っている。
「カティアさんと言ったね。私のことを『賢者リュート』と呼ぶからには……君は私が遺した足跡を辿って来たんだね?」
「はい。私の遺した足跡……という事は、やはりあなたは……」
「あぁ、いや。私は本人ではないよ。……メリアさんから聞いてないのかい?」
「それじゃ面白くないじゃない?」
悪びれずメリアさんが答える。
まったく、この人は……
「ふむ……確かに、人生面白くないとね」
あぁ……こっちもか。
まぁ、これまでの足跡からそれは分かっていたよ。
「私はね、メリアさんと同じなんだよ」
「メリアさんと同じ……つまり、リュート本人から複製された存在という事ですか?」
「そう。身体は、この王樹から放たれる魔素を凝集した仮初めのものではあるけど」
「その辺も私と同じで、精霊に近い存在って事よね」
なるほど……取り敢えず賢者リュート本人ではないのは分かった。
だけど、限りなく本人に近い存在という事だ。
これは、もしかしたらここで一気に謎が解けるか?
期待に胸を膨らませながら、私は質問する。
「あなたは……いえ、あなたの複製元である賢者リュートは……『桧原琉斗』なのですか?」
「!!……どこでそれを?この世界に来てから名字は名乗ったことは無いはずだけど……。もしかして、前世の知り合いなのかな?」
私がズバリ質問すると、彼は驚きながら逆に聞き返してきた。
どうやら、賢者リュートは前世の【俺】で間違いなさそうだ。
「知り合い、というか……私が覚えている前世の記憶は、その琉斗のものなんです」
「何だって……?」
「一体どういう事なのかしらね?」
リュートのコピーさん(もうリュートでいいか)が大きな驚きをあらわにした。
流石の彼も予想外の事だろう。
私はこの世界に転生する事になった経緯を彼に説明する。
「……なるほど。確かに『桧原琉斗』の記憶を持っているみたいだね」
「ちょっと二人とも並んでみてくれない?」
メリアさんがそう言うのは、多分私達の魂の質を見比べるためだと思う。
言う通りにリュートの隣に並ぶと、彼女は私達をじっと見つめる。
しかし……
メリアさんは暫くそうしたあと、頭を横に振って言った。
「だめね。カティアさんの魂は、二人分ある事は分かるんだけど……もう殆ど混ざり合ってるから、リュートと同じものだったのか分からないわ」
「しかしメリアさん。どうも彼女の魂は『アニマ』に偏っているように見えるけど……これはどういう事だろう?」
「え?……あら、本当ね」
「アニマ……?」
はて?
言葉自体はどこかで聞いたことがあるような……
流れからすれば魂に関わるものだと思うけど。
「魂の女性的要素の事よ。ユングの心理学では男性の女性的側面をアニマ、女性の男性的側面をアニムスというのだけど、私達は魂の構成要素としてそれらが視えるの」
「神道では
え……?
それじゃあ……私の魂は『アニマ』に偏重している、と言う事は、つまり……
「私って女子力最強ってこと?」
「「……」」
何か言って!?
「じょ、冗談はさておき(本気だったけど)、元々のカティアの魂が損傷した時の影響なのでは?」
「……いや、どちらかというと、後から憑依した魂の方が偏重してるような感じだね。元々のカティアさんのものらしき魂は、残った部分を核にして大部分が元に戻ってる……ように見える」
どういう事だろう……?
転生した【
いや、でも……そう言われて改めて考えると、いくら肉体に引っ張られるとは言え、割とあっさり女であることを受け入れたような気がする。
もちろん、かなり思い悩んだけど……本来なら、もっと葛藤があって当然なのでは?
「……リル姉さんは分かってたのかな?」
「う〜ん、どうかしらね……?私とリュートは割と近い『目』を持ってるけど、人によって視え方は違うし……私もよくよく注意して視なければ分からなかったし。でも、リルさんはうっかり屋さんだからねぇ……」
リル姉さん……メリアさんからもそう思われてるのか。
まあ、分かってたなら教えてくれるはずか。
しかし……色々な謎が解決すると思ったのに、むしろ深まったような。
でも、本題は賢者リュート本人の足取りについてだ。
彼がここに遺したものが何なのか……今はそれを聞くことにしよう。
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