第十四幕 9 『リュートの軌跡 2』


 ここ、ウィラーの聖域に賢者リュートがやって来たのは、彼が東大陸に辿り着いた後の事。

 その事実にはとても驚いた。

 そして、いま私達が話している彼はその記憶も持ち合わせているという事だ。


 つまり……



「では……あなたは、邪神が封印されている場所を知ってるのですか?」


「そうなるね」


 テオの問を肯定するリュート。


「何処なんですか!?」


 私は思わず詰め寄るような勢いで問いかけるが……



「まぁ、慌てないで。順を追って説明すると言っただろう?」


 う〜……焦らすなぁ……

 メリアさんもリュートも、勿体ぶるんだから。



「とにかく。アクサレナダンジョンを発った私は、一路東大陸を目指した。当時は航海技術も未発達だったから、陸路でね」


 いや、今でも海路でグラナ帝国に向うのは困難であることに変わりは無い。

 それは海域や海流の問題だったり、外洋船が停泊出来るような港は当然警戒が厳しかったり……様々な要因がある。

 かと言って陸路で行けるかと言えば、それもまた厳しいわけだが。



「陸路しか選択肢は無かったのだけど、それはそれで困難を極める。カルヴァード大陸と東大陸を隔てる急峻な山岳地帯を超えなければならないからだ」


 そう。

 標高数千メートルクラスの山々が連なり、強力な魔物が蔓延るアールヴ山脈が行く手に立ちはだかる。

 山を超えるには危険極まりない行程を強いられるのだ。


 一応、獣道程度はあるらしく、人の往来が全くの皆無というわけでは無いようだが……

 実際、ブレイグ将軍たちの部隊はそこを通って少しずつ戦力を集めた訳だし。


 そして、300年前のグラナ侵攻においては……空を飛んだり、急峻な地形をものともしない魔物たちの力を借りて一気に超えてきたと言われている。



「いやぁ……本当に大変だったね、あれは。殆ど断崖と言っても良い場所もあるし。空気は薄いし。万年雪で覆われてるし。魔物は強いし……」


「……そんなところを単身で超えたんですか?」


「いや。そんな魔境とも言える地にも人が住んでいてね……ヒマラヤのシェルパ族みたいなイメージかな。そこで山岳ガイドを雇って何とか」


「キヒタ族ですね。今もなお独自の文化を守って暮す少数民族。交易……というほどの規模ではないですが、レーヴェラントとも交流があります」


 リュートの説明をテオが補足する。

 

 なるほど……そんな人達が居るんだね。



「まぁ、どうにか苦労して山脈を超えて、私はついに東大陸の大地を踏むことができたんだ。だけど、そこからの道のりも決して平坦なものではなかった」



 何だか『リュートの大冒険』みたいな話になってきたな。

 リュートも段々とノッてきたし。

 メリアさんなんかワクワクしながら聞いてるし。


 ……この話、いつ終わるんだろうか?




 そんな私の懸念をよそに、彼の冒険譚は続く。



 曰く、邪悪な竜に生贄を要求されて困っていた村を救ったとか。


 曰く、冒険者に誘われて、神秘の湖に隠された財宝を探したとか。


 曰く、小国同士の戦争に巻き込まれて仲裁したとか。




 ……本題はよっ!!?






「……とまぁ、紆余曲折を経て私は遂にグラナ王国・・へと辿り着いたんだ」


「グラナ……王国?」


「そう。今のグラナ帝国の前身だ。その当時は東大陸に数多ある小国の一つにしか過ぎなかった」


 確かに、東大陸はグラナ帝国が台頭するまでは、小国が乱立する群雄割拠の時代が長らく続いていたのだと言う。

 300年前の魔王の時代に一気に勢力を広げ、東大陸の大部分を平定したんだ。

 その時よりも版図は縮小してるみたいだけど、今もグラナ帝国の勢力圏は広範に及ぶ。



「そこで私は……グラナの王女であったシェライラと恋に落ちたんだ」




 …

 ……

 ………はぁ?


 何だって?



 いや、何か懐かしそうに遠くを見てるけど。


 いったいどういう事なのっ!?

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