第十四幕 6 『邂逅』
樹上に建てられた家。
そう聞くと、トムソーヤのツリーハウスを連想させるけど……今目にしているそれは、あまりにもスケールが大きい。
巨大な王樹の巨大な枝の先にある木造のそれは、日本の神社を思わせる建物。
実にシュールな光景だった。
「……もう、色々と理解が追いつかんな」
「同じく。と言うか、何でこんなところに家を建てたんですか?」
驚きの連続でそろそろ感覚が麻痺しそうだったけど、それでもそう聞かずにはいられなかった。
「さぁ?何か拘りがあったみたいだけど、私にもよく分からなかったわ」
う〜ん……あの悪ノリっぽいセンス。
神社風であるところから見ても、やはり『当事者』と言うのはリュートなんだろうか?
……【俺】の前世と同一人物とは認め難いが。
枝の先は幾つにも分かれていて、それらが家が建つ地盤を支えている。
やはり神社にあるような石段を登ると……
「……鳥居まであるんだ」
「凝り性よね〜」
朱塗りの立派な鳥居が私達を出迎えた。
今まではメルヘンチックな西洋ファンタジーの世界だったのに、いきなり和風ファンタジーが現れて戸惑ってしまう。
「これは……門、なのか?」
「ん〜……まぁ、門と言っても良いけど。ここから先は神域ですよ、って境界を示してるんだよ」
まぁ確かに……周りの景色と相まって、神域と呼ぶに相応しい厳かな雰囲気ではある。
ここに来るまでも十分そんな感じだったけど。
一礼してから鳥居をくぐった先、境内の石畳の道の奥には立派な拝殿がある。
そして右手側には手水舎も……
「え〜と……ここは作法通り?」
「そうね。折角だから付き合いましょうか」
「作法?」
「うん。神様(?)にお会いする前に穢れを清めるってこと。私たちの真似をすれば良いよ」
「分かった」
三人で手水舎に向かい、置いてある柄杓で左手……右手と洗い流し、口をすすいで、最後に柄杓の柄に水を流してから戻す。
テオも私たちの見様見真似で行う。
何だか外国人観光客を案内しているかのような気分になった。
そして拝殿の前まで進むと……賽銭箱に紅白の鈴緒が垂れ下がる。
「お賽銭かぁ……銀貨一枚で良いかな……?」
「ここまで来たら外せないわよね」
そうなんだよね……どんなご利益があるのかは分からないけどさ。
私は財布から銀貨を取り出す。
前世換算だと一万円くらいなので、お賽銭としてはかなり奮発した金額だ。
あまりケチっても王族としてアレだし、かと言って金貨を出すのも違うだろう……と思った。
ここでもお作法通りお参りをする。
さっきと同じようにテオも見様見真似で。
柏手の小気味よい音が、境内の静寂を破って響き渡った。
その時……
「おや?お客さんかな?メリアさん」
と、横合いから何者かの声が聞こえてきた。
現れたのは黒髪黒目の青年。
多分、そこそこ顔は悪くない……なんて思うのは自惚れになってしまうだろうか。
記憶にあるその姿は、予想に違わず前世の【俺】……即ち、琉斗のものだった。
メリアさんははぐらかしていたけど、予想はしてたので賢者の塔やダンジョンの時ほどの衝撃はない。
もちろん驚きが全く無いわけではないが……
「賢者……リュート……?」
「おっと。ついにこの時がやって来た……という事か」
私が漏らした呟きに、それだけで彼は事情を察したらしい。
つまり、私が賢者の足跡を辿るものであるという事を。
そして、この先の未来で起きるかもしれない大きな災いに何とか対応しようとしていることを。
果たして。
彼は何者なのか?
この邂逅が何を意味するのか?
彼は何を語り、私の運命はどこへ向かうのか?
この世界における私の物語が、大きな転換点を迎えようとしているのを感じるのだった……
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