第十三幕 42 『メリアドール』


「私がウィラー王国初代女王なのか、その問の答えは……是であり、非でもあるわ」


 私の質問に、メリアさんは何だかよく分からない答えを返した。

 是でもあり非でもある。

 どう言う事だろう?


 確かにメリアドールは遥か過去の人物だ。

 そう言う意味では、当時の本人が今も生きていると言うのは考え難いのだけど……


 それはダンキチの時も思ったけど、彼の場合はリュートの姿を借りてるだけの別人だった。





「まぁ、ちゃんと順を追って説明するから……取り敢えずお茶をどうぞ?」


 そう言ってメリアさんは私にお茶を勧める。

 いつの間にか、テーブルの上にはティーセットやお茶請けが置かれていた。


 話の続きは気になるが、一先ず勧められるままにお茶を頂く事にする。


 爽やかな香り、そして一口つけると苦味の中に仄かな甘みを感じるこれは……


「どう?多分、口に合うと思うのだけど?」


「これは東方の緑茶……ですね。はい、とても美味しいです」


「そう、良かったわ。お茶菓子も遠慮なくどうぞ」



 そうして奇妙なお茶会が始まる。










「先ず私は人間では無いわ」


 暫く二人でお茶を楽しんだあと、徐ろにメリアさんは先程の話の続きを始めた。


「え……?」


 どう見ても人間にしか見えないけど……やっぱりダンキチみたいに姿を模してるだけ?



「私のこの身体は、ウィラー大森林の中でも最も長い時を生きた古木が精霊化した……樹精ドライアドなの」


樹精ドライアド……」


 精霊と呼ばれる存在は、知られてはいても実際に会ったと言う事例は殆ど無い。

 妖精フェアリーも精霊の一種と言われている。


 それより気になるのは……


「身体は……?」


「そう。この私の意識と記憶、姿は、かつてのウィラー女王メリアドールの魂からコピーされたものよ」


 なるほど……だから『是であり非でもある』か。

 本人ではないが、限りなく本人に近い存在と言えるだろう。



「そして、もう気付いてるとは思うけど、あなたをこの領域・・いざなったのは私よ」


「……やはり、ここは現世と異なる世界なのですか?」


 冷静に考えてみれば、皆と逸れたときの状況からしてそうとしか考えられなかった。


 メリアさんは『私の領域』と言った。

 それはつまり……恐らくは神界や聖剣の試練の間のような、現実世界と隔絶した空間なんじゃないだろうか?

 だとすれば、今の私は精神体なのかも知れない。



「そう、その通りよ。ここは、かつて私が暮らした思い出の家を留めるために作り出した、物質マテリアル精神アストラルの狭間の世界。今のあなたは精神体で、現実の世界では仲間の皆さんと一緒に居るし、時間の流れも違うから安心してちょうだい」


「分かりました。それで……私がここに呼ばれたのは何ででしょう?子孫のメリエルちゃんじゃなく……」


「それは……あなたがリュートの『後継者』だからよ」


「!!」


 賢者リュート。

 かつての【俺】かもしれない人物。


 彼とウィラー初代女王は知己の間柄だったのか?



「あなたと賢者リュートの関係は……」


「私の旦那さん」


 ブフォーーッ!!!?


 思わず口に含んでいたお茶を吹き出した!!

















「ウソウソ、冗談よ!」


 テヘペロみたいに舌を出して言う。


 こ、この人……中々良い性格をしてらっしゃる。



「まぁ、たまたま知り合っただけではあるんだけど……同郷と言う事で結構意気投合したのは確かね」


「同郷……」


「ええ。あなたもそうでしょう?」


「……分かるのですか?」


 同郷……つまり、転生者だと言ってるのだ。

 やはり以前思った通り、彼女は転生者だったんだね。



「まぁね。私やリュートと違ってあなたの場合は……リルさんが絡んでるのかしら?」


 そっか……この人は最初のシギル継承者なんだから、神々と面識があるのは当然か。



 と、そのタイミングで私の胸元から光が放たれる。


 そこにはリナ姉さんから預かった宝玉をペンダント状にして下げていて、それが光っていたのだ。


 すると光は一点に集まって人の形を取り……




「リナ姉さん!!」


 光が収まったとき、そこにはリナ姉さんが現れたのだった。



「やほ、カティアちゃん。それに……久し振りね、メリア」


 メリアさんに声をかけるリナ姉さんは、どこか感慨深げだ。


「リナちゃん……また会える日が来るなんて……まぁ、私はコピーなんだけど」


 対するメリアさんも同じような表情。


 ……二人の間には他人が立ち入れない確かな絆を感じるのであった。

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