第十三幕 32 『初代女王の秘術』
情報を入手するため聖都ブリュネに降り立った私達は、そこでウィラー大森林で起きている事について報告を受ける。
曰く、森の魔物たちが統制の取れた動きを見せていた。
曰く、それを誘導する武装した人間の兵が目撃された。
それらの事実から導き出されるのは、300年前の大戦時の魔王の軍勢。
今世に復活した魔王の関与が推測されるが……
「森の様子が分からないって……どう言う事なの?」
「我々もまだ情報を入手したばかりなので詳細は分からないのですが、どうも……ウィラー大森林そのものがまるで
「まさか……ダンジョン化したの!?」
更に聞くところによると、本来であればここ聖都ブリュネから森都モリ=ノーイエまでは『巡礼街道』で繋がっているはずなのだが……ウィラー大森林に入るところで、ぷっつりと途絶えてしまってるとか。
加えて、飛竜に乗って空路で直接向かおうとしても、森林地帯の上空には侵入出来なかったとの事。
「リナ姉さんが見通せないって言ってたのは、結界じゃなくて、もしかしてダンジョン化の影響……?」
もしダンジョン化が起きたのだとしても、以前のブレゼンタム東部遺跡のように自然発生したとは到底思えない。
もしかしたら……メリエナさんが何かしたのか?
「……そう言えば聞いたことがあるよ。ウィラー大森林には、有事に備えてメリア様の秘術が施されてる……って。それが具体的に何なのかまでは私は聞かされてないけど……多分それなんじゃないかな?」
「それなら私も聞いたことがある。当時のデルフィアの姫も関わったとか……やはり秘術の内容までは分からないが」
ウィラー初代女王の秘術、か……
確かに有事の際の防衛手段としては非常に強力かも知れない。
多分、詳しい話は代々の王に連なる者だけに伝えられていた……とかなんだろう。
しかし、敵の侵攻から守るだけでなく、友軍の支援も届かなくなってしまうだろうから、諸刃の剣でもあるね。
それに、今回の場合は既に森の中に敵が潜んでいる状況だった。
その場合は果たして……?
もしかしたら時間稼ぎくらいにしかならないかも知れない。
そう考えれば、やはり速やかに森都まで辿り着きたいところだが……
「とにかく、森の近くまでは竜籠で……そこから先は徒歩で何とかするしか無いか……野営の準備もしておかないとか?」
イスファハン王子の言う通り、街道が頼りにならず森の中を進むのであれば、確かに色々と準備が必要になる。
しかし。
「こんな事もあろうかと
そう言って私は指に嵌めた指輪を見せながら言う。
「おお、流石だな。だったら直ぐにまた出発しないとだ」
「ロコちゃん達の休憩後ですね。あともう少しだけ頑張ってもらいましょう。あ、あと……父様達にも状況を伝えておかないと」
今回の遠征にあたり、例の
いつもレティやルシェーラと話す時に使ってるやつではなく、改良型の試作品を持ってきている。
モーリス商会からイスパル騎士団に貸与されたもので、改良点としては番号毎に相手が選べるようになった。
この改良型
私はここで聞いた話を父様に連絡してから、再びウィラー大森林に向けて出発するのだった。
聖都ブリュネを出発した私達は再び竜籠に揺られ、巡礼街道の上空を北西に進む。
ブリュネを出たのがちょうど昼頃。
飛竜の飛行速度からすれば、日が落ちる前には大森林の入り口に到着できる見込みだ。
「さて、これで大森林の手前まで行くのは良いとして……そこから先は苦労しそうだな」
「そうだな……街道が使えないとなると、何か別の指針となるものがなければ迷ってしまう」
「一応は地図と方位磁針はあるんだけど……ダンジョン化してるとなると、どこまで頼りになるか……」
「……」
私達がこの後どうするか?と話をしていると、メリエルちゃんは何だか思案にくれている様子。
何か考えがあるのだろうか?
「どうしたのメリエル?もしかして……何か森を抜ける手立てがあるの?」
私と同じくメリエルちゃんの様子に気がついたステラが聞く。
「ん〜、多分……何とかなる……かも?」
歯切れは悪いが、どうやら何か考えはあるらしい。
彼女自身、確証がある訳では無いみたいだけど。
「とりあえず森の入口まで行けば……ハッキリすると思う」
今はただ、彼女はそう答えるだけだった。
ーーーー アクサレナ 騎士団詰所 ーーーー
ウィラー王国への支援軍の派兵準備を進めていたリュシアンは、先行してウィラーに入ったカティアからの情報をユリウスから聞いた。
その情報……ウィラー大森林で起きている事象を踏まえ、装備等を調整するように指示を出し、自らも出立の準備を進めていた。
「……いつまで不貞腐れてるのですか、ケイトリン。もうすぐ出発なんですから、しっかり準備なさい。オズマはもう終わったみたいですよ」
「……分かってますよ」
「はぁ……仕方ないでしょう。今回はエメリナ様のご指名という事なんですから。竜籠の定員もギリギリでしたし」
エメリナがお願いしたのはカティアだけなのだが……彼らには、
「分かってますって。ちゃんと準備してますよ」
「それならば良いのですが。たとえ離れていても、自分のなすべきことをしっかりやって、カティア様のお力になれば良いのです」
「……ええ、もちろんです!!」
護衛の自分が置いていかれた事に複雑な思いはあったが、リュシアンのその一言で意識を改めて、気合を入れ直すケイトリンであった。
慌ただしく出立の準備が行われている騎士団詰所。
団員たちに指示を飛ばすリュシアンのもとに歩み寄る者がいた。
「ようリュシアン、忙しいところすまねぇな」
「侯爵閣下、どうされましたか?」
「いや……ウチのルシェーラの事よろしく頼む、って言いに来たんだ」
「あぁ……それはもちろんですが、よろしかったのですか?」
「まあ、もはや実力は俺なんぞとうに超えちまったからなぁ……騎士団の精鋭に勝るとも劣らないだろ」
「……それは私も認めざるを得ませんね。先の争乱ではかなり頼りになりました」
「そうは言っても父親としちゃあ心配は尽きねぇんだ。全く、一体どこで聞きつけたのやら。シフィル嬢と一緒に学園に休暇を届け出ちまうし。言い出したら聞きゃぁしねぇし。ありゃあ、リファーナに似たんだな。あいつも「名を上げてきなさい!」なんて煽るしよ……」
侯爵の愚痴にはリュシアンも苦笑で応える他に無かった。
実際、ルシェーラの実力はもはや歴戦の騎士たちと比べても抜きん出ており、彼らからも既に準団員扱いされてる。
「とにかく、無事を祈ってるぞ」
「ええ、必ずここに戻ってきます」
力強く応えるリュシアン。
そして、支援軍はアクサレナを出発するのであった。
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