第十三幕 31 『聖都ブリュネ』


 ウィラー王国はイスパルの隣国だが……国境を接しているのは旧アルマ王国の地域だ。

 建国時の領土であるウィラー大森林はアルマ地方の更にその先だ。



 アルマ地方はその多くが平原となっている。

 ……平坦な地形であるが故に、300年の大戦時にはグラナ侵攻のメインルートとなって甚大な被害を受けた。

 もちろん今では国境付近に難攻不落の砦が多く築かれて、防衛体制は万全……のはずだったのだけど。


 アルマ王家が滅んで以降は、所属はウィラー王国になっているのだが……独自の自治権を持ち、文化面でも本国とは異なる点がかなり多いらしい。








 さて、私達はウィラー大森林に向かう前に、そのアルマ地方の都市……かつての王都であり、エメリール大神殿のお膝元でもある聖都ブリュネへ寄る事になっている。

 何らかの情報が入っているのを期待しての事だ。

 ロコちゃんたち飛竜も休ませなければならない。









 昨日、まだ日の高いうちにアクサレナを出発したのだが、日が落ちてからも飛び続け……翌日の昼前には聖都ブリュネが目前となった。


 上空から眺めるブリュネの街並みは、白を基調とした建物が所狭しと立ち並び…しかし、その屋根は鮮やかさを競うように色彩豊かで、まるでモザイク画のような美しい光景だ。


 一際大きな建物が二つ見えた。


 一つは、かつての王城を再建・改装した政庁舎。

 もう一つは、エメリール大神殿だ。




 私達を乗せた竜籠はグングンと街に近づいて、街並みを眼下に収めるところまでやってきた。

 外壁に立つ物見の兵がこちらを見上げて、慌ただしくしているのが見える。


 本来は外壁の外に降りて門から入るべきなんだろうけど……先立って早鳥による連絡が行ってるはずなので、このまま政庁舎まで直行する。

 万が一連絡が届いてなくても、竜籠にはウィラーを中心に、イスパル、レーヴェラント、アダレット、デルフィア、カカロニアの紋章が掲げられているので問題ないだろう。







 そして竜籠は政庁舎の中庭へと降り立った。


 何らかの合図があったのだろうか、既に中庭に出迎えの人達がずらりと並んでいた。


 竜籠を降りた私達に、出迎えの列から進み出た一人の初老の男性が声をかけてきた。



「おかえりなさいませ、メリエル様。そして皆様、ようこそウィラーへお越しくださいましました」


「お出迎えありがとう。え〜と、こうして出迎えてくれたってことは、事態は分かってるんだよね?」


「はい。詳しくは庁舎内で……騎士団の責任者も交えて共有いたしましょう。しかし長旅でお疲れでは無いですか?」


「ううん、大丈夫だよ。今は一刻も時間が惜しいから。あ、皆は大丈夫?」


 メリエルちゃんの問には全員が問題ないと返す。

 彼女の言う通り早急に情報を整理して直ぐにウィラー大森林の方に行かなければならない。

 私達は挨拶もそこそこに、政庁舎内の会議室へと案内されるのだった。












「森の魔物が……!?」


「はい、昨晩届いた早鳥による第一報でそのように……急ぎ各国にも早鳥を飛ばしたのですが、行き違いだったようです」


 まぁ、とにかくウィラーに向かうのを最優先にしたから、そうなるだろう。


 それよりも、いま騎士団の責任者から報告してもらったウィラー大森林の状況は、やはり深刻な内容だった。



「統制の取れた魔物の群れ。誘導する武装した人間。それはつまり……」


「魔王軍……」


 誰かがポツリと呟いた。


 そうだ。

 今聞いた話は、まるで300年前の魔王軍を思わせる。

 大戦では魔物と人間の混成部隊が猛威を振るったと言われている。



 誘導する人間と言うのは、おそらくはグラナ兵なのだろう。

 気取られないように少しずつ兵を集結させ……森林地帯ということもあって潜伏もさせ易かったのかも知れない。


 しかし、そんな状況でメリエナさんの身に何かあったという事は……



「森都は……お姉ちゃんはどうなったの!?」



 多分メリエルちゃんも状況が最悪であることは理解してるのだろう。

 それでも、まだ希望を失うわけにはいかない。


 そう思って更に状況を確認するのだが……


 報告してくれた騎士は、どういう訳か困惑した表情で躊躇いがちに口を開く。



「それが……大森林の様子がどうにもおかしく……まるで内部状況が分からないのです」


「どういう事……?」


 少し冷静になったメリエルちゃんが続きを促す。



 そして騎士から聞いた話は、驚くべきものだった。


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