第十二幕 30 『グラナの内情』
最近の夢の中でリシィを見たとき、どこかで見たような……記憶の片隅に引っかかるような気がしていた。
それが今……目の前にいるエフィメラさんを介して、ようやく繋がった。
おそらく魔道具によるものであろう、黒髪黒目に偽装していた彼女はリシィによく似ていた。
そして、偽装を解いた彼女は……髪の色は微妙に異なるし、瞳の色は全く違うが……あのシェラさんを彷彿とさせたのだ。
それは偶然とは思えなかった。
つまり、シェラさんの出自はグラナの皇族……いや、もしかしたらリシィ本人なのかもしれない。
今思えば……シェラさんと夢の中のリシィは顔貌だけだなく、その雰囲気や所作が似通っていたように感じられたから。
「『リシィ』も『シェラ』も、リシェラネイア様の愛称ですね。カティアさんはもしかして……彼女にお会いしたのですか?」
「……はい。あ、いえ、多分……ですけど。……そのように質問されるということは、エフィメラ様は彼女がどういう存在なのか、ご存知なんですか?」
300年前の人物に会ったことがあるか?
と言うくらいだから、この人はシェラさんが魔族である事を知っているのだろう。
「……はい。彼女は哀しき
悲しそうに目を伏せて彼女は言う。
どうやら、彼女が知る人物と、私が会ったシェラさんは同一人物のようだ。
そして、シェラさんの行動目的を知っているかのような口振りだ。
リル姉さんは本人の意志を尊重して……と、教えてくれなかったが、今ここで聞いて良いものか……
と、悩んでいたのだが。
「……リシェラネイア様のお話は後でもよろしいでしょか?先ずは、私がカティア様をお招きした理由をお話させてください」
「あ、はい、そうですね。すみません、ちょっと驚いたものですから」
ちょっとどころではないけど。
だけど、きっと彼女の話もシェラさんの事も、無関係ではないだろう。
それも、今から話を聞けば分かることだ。
そしてそれは、ずっと欲して止まなかったグラナの情報に他ならない。
私は、静かな口調で語りだした彼女の話に耳を傾けるのだった。
「先ずは、何故グラナの皇族である私が、イスパル王国にいるのか……と言うところからでしょうか」
「……そうですね。カルヴァードの国々とグラナは、官民問わず殆ど交流がありませんし……ましてや皇族の方がこちらにいらしてるなんて思いもよりませんでしたから」
「それはそうでしょうね。ただ……表向きはそうであっても、秘密裏にはかなりのグラナ人がこの地に入ってます」
……だろうね。
自由な移動すら制限されるグラナと違って、カルヴァードの大抵の国では行動の制限はあまり受けない。
出自を誤魔化すのは比較的容易だと思う。
もちろん、国の要職にあるような人は身辺調査も徹底するだろうけど……それも完璧ではないだろう。
実際、以前の事件ではグラナ、黒神教と繋がりのある間者の存在が示唆されていた。
「私は、そのような者の手引によってグラナから亡命してきたのです」
「亡命……?」
「ええ。今のグラナにおいては私の父である皇帝はもはや傀儡に過ぎず、実権を持つのは黒神教の最高指導者……今では『教皇』などと名乗り、我が物顔で国を支配しているのです。十五年前のカルヴァード諸国への侵攻も彼の差金でした」
そんな内情だったのか……
こっちとしては、どちらにしても迷惑極まりない話ではあるのだけど、真の敵が誰なのかを知っておくのは意味のないことではない。
それが更に一枚岩では無いのであれば……
「……お父上はどういうお考えだったのですか?その……対カルヴァードと言う意味で、ですが」
「父……というか、私達皇族の者は……カルヴァード大陸諸国とは融和路線を考えてました。過去の大戦から300年もの年月が経ち……帝国はかつてほどの国力を維持できず、拡大路線からの転換を迫られていました。ですが、黒神教はかつての過ちを再び繰り返そうとしているのです。彼らは様々な策を弄して次々と実権を掌握し、皇族の力を削いで監視下に置きました」
なるほど。
ならば、倒すべき敵は黒神教、皇族は味方。
そんな単純な構図ではないとは思うけど、ざっくりとはそう線引できるだろう。
これは私達にとっては願ってもない話だ。
もちろん、彼女の話がどこまで信用できるのか分からないのだけど……
私的には、彼女は信用のおける人物だと感じる。
まぁ、相変わらずそこに主観以外の根拠はない訳だが。
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